第10話「思い出の場所」
私は祭り事が苦手。
イベント自体は楽しいし、食べ歩きも好き。みんなとワイワイ騒ぐのも嫌いじゃない。
だけど、幸せそうにしている親子たちが、目障りでしょうがない。彼らは何の落ち度も罪もないけれど、親の居ない私は勝手に劣等感を抱いて彼らを気嫌いしてる。
だからあの日…あの夏祭りも参加する気なんてなかった。
「アオイちゃん今年も夏祭り行かないの?」
「うん…私のことはいいから、藍おばさんは行ってきなよ。」
「私はいいや、見たいドラマあるし…にしてもリクちゃん今年は気合入ってるね。真っ赤な浴衣を着ちゃって、学校に彼氏でもできたのかしら。」
真っ赤な浴衣…リクは赤が苦手なのになぜ?
その疑問を感じたと同時に、私は答えを察してしまった。そのせいで、胸の奥に杭でも打たれたかのような不快感と苦しさが沸きあがってくる。
嫌な予感がする。あの時と一緒。
4月頃、カザマが私に協力を申し込んだときと同じくらい嫌な予感がする。
「ごめん、藍おばさん!やっぱ私、行ってくる!」
「はいは~い、いってらっしゃい!」
衝動に任せて家を飛び出すなんて、私らしくもないが今はそんなことより不安のほうが遥かに勝っている。
そして、こういう時の予感ってのはだいだい当たるもの。これが女の勘ってやつだろうね。
そして、あの場所で目撃した。
「シーー、私だけを見つめて。それとも私だけじゃ、物足りない?」
!!!…
見たくなかった…リクがカザマに迫って、二人がキスしてる所なんて…
「……ッ!…カ、ザマ…」
思わず彼を呼んでしまったが、そのあとのことは全く記憶に残ってない。
だけど、その日はカザマの家に行かず、久しぶりに自分の家で一晩中泣いていたのは覚えてる。
あの神社裏の池は私にとっての大切な思い出がしまってある場所。
昔、カザマはよくあそこで昼寝をしていた。眠る彼を夕食時に呼び戻しいくのが私の日課。
そんなある日、いつも通りカザマを呼びに行った私は…
「……キス…」
彼に口づけをした。自分のファーストキスを捧げた代わりに、カザマの初めてを彼の知らない所で奪った。
きっかけは寝ぼけたカザマが呼びに来た私を抱き枕だと思って抱っこしたこと。普段なら余裕でカザマを押しのけられるが、あの時の私にはできなかった。
そんな私だけの思い出の場所で、見てしまった…
4月の頃から、二人はいつかああいう関係になるって覚悟したつもりなのに。目から零れる涙は拭いても拭いても止まらなかった。
その後、二人の邪魔にならないように私は距離を取ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます