第7話「アオイと姉」
あの日、世界一有名な探偵は言ってくれた。
「気になる相手の目をよく見ろ」って。
この言葉はアドバイスと助言なんかじゃない、真実を必ず見抜く呪いに違いない。
だって言う通りにしてみたら、確信を得てしまったんだ。心のどこかで自分自身を騙していた、アオイとカザマは相思相愛じゃないって。二人はただ兄妹に近い関係だって。
そんなはずはないのに。
「アオイのやつ目が覚めたらさ、お前が助けたってことにしてくんないか?」
昼間、アオイちゃんの溺れたところをカザマが助けた。その後、みんなで別荘に戻ってアオイの世話をした。
夕方になった今頃、カザマはみんなのところに回って口裏合わせをしている。
「なんで?カザマが助けたんでしょ。」
「あいつ多分俺のこと嫌いでしょ?だから俺が救急措置したって知ったら嫌がるかなと思って。どっちにしろ結果的には助かったんだ、助けた相手が変わったぐらい問題ないだろ?」
アオイちゃんはあなたが嫌いなわけないでしょ。鈍感にもほどがあるよ、わが弟。
「まあ、救命のことを抜きにしたら、キスと胸を触ったという事実は残るわね。」
「なんかそう言われるとホントにやっちゃった感がすごいな…俺はそんなこと、微塵も意識してなかったんだ。家族を死なせたくない思いの一心で……」
「……」
「でもそれは俺の考えなんだ!あいつにとって人口呼吸だってキスにカウントされるかもしれない。俺に触られるなら死んだ方がマシと思っているかもしれない……だからリクってことにしてくれないか?」
こんな言い方されたら断れるはずがない、むしろこの言葉らをアオイに言いなさいよ。ここまで紳士な態度を見せられたら、清々しさ通り越して逆に不快。
「…わかったよ。」
「悪いな、リク。俺、またアオイの様子見てくるわ。」
「私が見に行くよ、あんたは料理の手伝いでもして。」
「え、でも…」
「いいからいいから、私厨房立ち入り禁止なんだからやることないんだもん。」
「確かに、そうだな。それじゃアオイのこと頼む。」
その場を後にして、私はアオイちゃんが休む部屋へ向かった。
ドアを開けて中に入ると、アオイちゃんはすでに起きていて、万葉とゲームで遊んでいる。
「万葉、せんせーが料理手伝ってほしいって言ってたよ。」
「は~~い!」
万葉はゲームをやめ、走って部屋を出ていく。私はアオイちゃんの向かい側、つまり万葉が元々座っていた場所に座る。
「もう具合大丈夫そう?」
「うん、おかげ様で……ところでさ、リク。」
「ん?なに。」
「私を助けたのって…誰だった?」
口裏の件はどうやら万葉も協力してくれてるようだ。
【助けたのは私】
たったの6文字なのに、なぜこんなにも口に出しにくいんだ。私にとっては好都合なのに、この機会を乗じてアオイちゃんに私の秘めた思いを告白できるかもしれない。
今すぐにでもアオイちゃんに触れたいし、押し倒してその唇を奪いたい。私はそんな獣みたい思いにかき乱されているが、これだけはわかる。
そんなことしたって、アオイは決して喜ばない。
彼女の
「…私だよ、助けたのは。」
「………ホントにリク?」
「そうだよ。だってカザマはジュース取りに行ってたから、私か万葉が一番アオイちゃんに近かったし。」
私が一番近かったのに、アオイちゃんを真っ先に気づいたのはカザマだった。真っ先に助けたのもカザマだった。
「そう…なんだ……」
アオイは視線を下げた後、しばらくしてから顔を上げた。そのときには先までの陰りはなく、明るくいつも私に見せる笑顔をしていた。
「助けてくれてありがとう。今度から気を付けるよ、さすがはお姉ちゃんだな!」
「でしょ!ほら、ごはん食べに行こう!そのあと、肝試しやるってさ」
「お~楽しみ!!」
お姉ちゃん
わかった。あなたがそう望むなら、私はこれからずっとあなたのお姉ちゃんでいるよ。
もう、恋は諦める。
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