第3話「私の"あい"」

 男と女。


 完全なる人を半分に割いてできたのが、オトコとオンナ。だからこそ互いに求め合う。そう言う人もいる。


 男女の間の接着剤である【愛】を探さずにはいられない。それがなのだ。


 私もなら、どれだけ良かったか。



 もう5月にもなるのに、私の進学先は一向に決まらない。いや、というのは正しくないね。進む道は決まっている。


 「私が踏み出せないだけ……か」


 「ん?リクなんか言った?」


 アオイちゃんは自分のつくったハンバーグ弁当を頬張りながら、話を聞いてくる。


 「ううん、別に。それよりさ、私本当にここに居ていいの?」



 時はお昼休みにして、水吏高校3年生である私、地中離旧ちなか りくは1年生の教室で幼馴染と一緒にお昼を食べている。


 アオイはまったく気にしていないけれど、正直後輩から向けられた好奇の視線はちょっと、だいぶ恥ずかしい。


 「いいの、いいの!水吏街は実質中高一貫みたいなとこだから、クラスのみんなだいだいはリクのこと知ってるし。」


 「そう?ならいいんだけど…」


 先月カザマから教わったように、高校の噂ではなぜか、カザマが私とアオイちゃんの二股をかけているらしい。 



 「ねえ、第一夫人と第二夫人が一緒にご飯食べてるんだけど!」

 「うける!そのうち戦争勃発とかしそう!」

 「鷹過先輩うらやましすぎる…アオイさんの冷たい目線がたまらんよな…」

 「いやいや!地中先輩のほうがいいだろうがよ!」


 なんか噂が思ったよりすごいことになってる上に、私とアオイちゃんにファンがついてる…


 「ねぇ、リクは進路どうするか決まった?」


 「まだなーーにも!迷子になっちゃって。そんなことより、今日カザマは居ないの?」



 「あいつ理科の準備当番だからいない。てか、いい加減にリクの好きな人教えてよ~」


 「ダーメ!大人の恋愛は秘密が多いの。」


 「いいじゃん、教えて!得体の知れん男だと心配だよ!」


 昔からアオイちゃんは本当にかわいい。今は反抗期に入っちゃってツンツンしてるけど、優しくて繊細なところはちっとも変ってない。


 好きな人のヒントをアオイちゃんに教えてもいいけど、こうも心配されるともっとされたくなっちゃう。


 「な~に?心配してくれるの?」



 「そりゃそうだよ!正直そんな正体不明のカレシなんかより、まだカザマがカレシになってくれたほうが安心だわ。」


 最近なんかアオイちゃん、妙にカザマを推してくるけど、二人ともまたなんか企んでるねこれ。適当にあしらっておけばそのうち飽きるだろう。


 「カザマねぇ~悪くないかもね。」


 「ほ、ほんと!!」

 

 「かもねって言ったの。」



 今までカザマを恋愛対象として検討したことはないわけではない。むしろもう数えきれないほど考えた。でも何度考えても、どう妥協しても無理だった。


 私は決して、カザマのことを恋愛対象として好きになることはない。

 

 何よりカザマのことが好きなのはあなたでしょ、アオイちゃん。だって彼のことを話すとき、あなたの目はあんなにも輝いてるのに、いざ私にすすめてくるとものすごく悲しい目をしてしまう。演技が下手なんだからバレバレだよ。



 「ねっ、今度6月になったら、またみんなでプール行かない?」


 考えすぎてもしょうがないから、私は別の話題を振ることにした。

 

 「パスで。」


 「もう、即答しなくてもいいじゃん。」


 アオイちゃんは大の水泳苦手。体脂肪0%と言わんばかりの沈みっぷりなのである。


 「ほら、学校のプール開きに間に合うように泳ぎ方教えるから~それに水泳はダイエットにいいんだよ。必ず泳げるようにするから!!」


 適当に誘い言葉を並べたけど、本当はアオイちゃんの水着と沈むとこが面白いから見たい。



 「ほ、ホント?なら一回くらい行ってもいい、かな…」


 「よし!今日放課後水着見に行こ!」


 「ええ!まだ早いよ!今日は無理!!」


 「ダーメ!先輩命令です。」


 「わ、わかったから…あ、また去年みたいにカザマに写真送らないでよ!」


 また、何かあればすぐにカザマの話になる。

 

 「はいはい。」



 本当は水着の写真を見せて、カザマの反応が気になるくせに。本当はいつも私の瞳越しにカザマのことを見てるくせに…


 昔から、初めてアオイちゃんがカザマのことを好きになったときから、私は思ったんだ。


 「カザマが消えて、私を好きになればいいのに」って。


 私はきっと、カザマのことが羨ましくて、嫉んで、憎くて、恨んで、そして愛しているんだと思う。






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