第2話「彼女の好きな人」
自分に嘘をついた。
確かにリクのことは好きだが、それは言わば【家族愛】という分類の好きなのだ。彼女と共に過ごすことは想像できても、恋人のように親密になることを望んでない。だけど、リクが卒業してどこかへ行ってしまうって想うと、じっとしてられない。
だから嘘をついてまで願ってしまうんだ。
俺とアオイ、そしてリク。この3人がいつまでもこのまま一緒に居て、いつまでも変わらないまま…
「ただいま。」
「かーくんおかえり!ん?このにおい!アオイちゃんの手作りカレー!!」
「しつこくリクエストしたら作ってくれた。」
アオイの作る料理は何でもおいしいが、その中でもカレーは俺と母さんのお気に入りだ。一週間断食しなきゃアオイのカレーを食べられないとしたら、俺は間違えなく断食するだろう。それほど彼女のカレーはおいしい。
「アオイちゃん、なんだかんだ言ってかーくん大好きだからね!あの子の得意料理、だいだいはあなたの好物だし。」
「そんなことないだろ。あいつ、俺にめちゃ冷たいし。」
「ツンデレなのよあの子!」
「はいはい、ほらリクん家にいくよ。アオイもう先に行ってるから。」
「は~い。」
アオイ、俺、そしてリクの順番で、俺たちの家は横並び一列のお隣さん。リクの家が一番大きいから、3家族集まって夕食するのは俺たちの子供の頃から続いてきた伝統。うち鷹過家は父がいないので、この夕食はうちの経済にとって大きな助けとなっている。
外に出ると、ちょうどアオイがうちを通り過ぎようとしていた。
「チャット見て。」
アオイは止まらずに軽く俺のポケットを指さして言った。昔はベタベタくっ付いてきたくせに、3年ぐらい前からなぜか俺に対しての態度がどんどん冷たくなって今に至る。
俺は携帯を取り出し、アオイが送ってくれたメッセージを確認する。
【明日からいろいろリクに聞いてみるb】
「頼りになるなぁ。」
携帯をしまい、俺もリクの家へ向かうことにした。
リクの家に入ると、おばさんとおじさんはすでにいつもの円卓の奥の席に座っていて、アオイは食器の準備中だ。アオイがいつものようにお二人を先に座らせ、食器等の準備をひとりでこなす。
「カザマくんと藍さん、いらっしゃい!」
「こんばんは~お邪魔しますね。」
「おじさん、リクは?」
おじさんは読んでる新聞を下ろし、目を合わせてくれた。
「あぁ、リクなら自分の部屋だよ。悪いけど、呼んできてもらえない?」
「おっす!わかった。」
リクは絶望的に料理が下手な上に、厨房で一歩動いただけで甚大な被害を出す怪獣なので、料理中は基本厨房に近寄らせてもらえない。特にアオイからは警戒されている。
2階のリクの部屋に着くと、俺はドアノブを回して中に入った。
「リク、メシ持ってきたから下で食べるぞ。」
「……へへ…」
ヘッドホンをしてるせいで、俺の声は聞こえてないらしい。最近動画サイトのバーチャル配信者にハマっているリクはよくこういう風に、ヘッドホンつけて動画を見る。
俺はそっとリクの背後に近寄って、彼女のヘットフォンを取り上げる。
「リク、メシ!」
「あ!!ちょっとカザマやめてよ!いいとこなんだから、もぉー…」
「はいはい、メシ食いに行くぞ。」
リクを下の階に連れていこうとしたら、下からアオイの声が響いてきた。
「まだカレー温めてるからぁー、リクをこっちに来させないでー!」
「りょーかーい!」
俺たちの大声のやり取りを聞いたリクは、ベッドに座って込んでしょぼくれる。
「そんな警戒しなくてもいいのに……」
「レンジ3回、冷蔵庫2回も買い替えた理由をもう忘れた?」
「はい、すみませんでした。」
さすがにリクが可哀そうなので、俺は横に座って雑談することにした。
「最近どう?調子。」
「ん~まぁまぁかな。ただ、行きたい大学見つからなくてちょっと困ってる。」
「そっか、アオイから聞いたよ。色々回ってるって。」
「そうだね、いろいろ…ってそんなことよりさ、カザマは2年になるんだから、彼女とか作った?」
つまらない進路話から恋バナに変わると、リクの顔は一気に明るくなる。昔から彼女はこういう類いの話が大好物だ。
「で、できてねぇよ。てか完全にリクとアオイのせいだけどな!」
「え?私たち関係ないじゃん!」
「知らないの?学校じゃリクとアオイは俺の正妻と愛人って噂だから…」
「なにそれ、アハハハ!!アオイちゃん正妻っぽい~」
「笑ってる場合か!そのせいで俺に近づく女子なんて誰も居ないんだぞ!!…そっちこそどうなの?好きな人とかいる?」
自分のことが質問されたのは意外だったのか、リクは驚いた表情を見せた。そして少し考えてから答える。
「……いるよ。」
「え…!」
自分の質問よりも間違いなく彼女の返答のほうが意外だった。俺たち3人組はいつも一緒に行動してたから、誰かに好きな人ができたらすぐに気づくものだと盲信していた。
「その人だれ?俺とアオイは知ってる?」
「うん!知ってるよ!」
知ってるい人…だと!?俺の目はどこまで節穴だったんだ。知り合いでありながら、いつの間にかリクの心を奪ったことにすら、俺は気づかずにいたっていうのか。
「え、だれだれ!?」
「ヒントだけ!その人は私より年下。そんでもって、不器用だけどすごく優しい。これ以上はわかっちゃうからもう言わない。」
さらに質問しようとしたら、下からご飯の用意ができたとアオイが大声で知らせてくれた。
「あーらら、時間切れね。」
そう言うと、リクは俺と一緒に1階へ向かった。
リクの話を聞いて改めて、焦った。
確かに彼女は来年3月に卒業するが、その前に恋人作って、僕らから離れる可能性だって十分にありえる。
そのことに気づいてしまった。
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