第20章 学校の怪人 前編
教会での一件から2日間、暴走しないか調べるため、焔は病院にいる事になった。
そして、退院した焔を待って居たのは、歓迎する雄一、フレア、犬飼、鬼丸、井草、ルナ、そしてくいなだった。
「「「「「「おかえりぃ!!!!」」」」」」
「な、なんだよ」
雄一が大きなパエリアを運びながら答える。
「ほぼ1週間居なかったんだからさ! 今日は楽しんでね」
「いやまぁその……良いのか?くいなとか危険に晒したし……俺、人を……」
「良いから!」
くいなも抱きつき、焔は過去を忘れ、夜を明かした。
その頃、結衣は、病院にいた。
「由香さん……」
病室のベットには昏睡状態の由香が居た。
あの時魔獣の襲撃により、芦原正人は死亡。
止まらぬ魔獣の猛攻に耐えた由香も瀕死の重症を負い、魔獣の捜査も停止となった。
八汰烏総悟はしばらく休みを取り、由香の病室には来なかった。
まだこの状況を受け入れられていないのだろうか。
結衣には分からない。
「……霧峰様」
結衣の隣にはメイド服姿の魔法少女、コルトスがいた。
彼女は由香とコンビを組んで魔獣の捜査をしていた。
とは言っても彼女は呼ばれる時に来てただけだが。
「何」
「実はですね、由香様の伝言で、もし自分が倒れた時は、結衣様に付けと言われておりまして」
「そう……」
結衣はまた失ってしまった。
全てを。
翌日。
焔三幸は学校へ向かうと、見事に正門は封鎖されていた。
そして張り紙が門に貼り付けてあった。
『小津市立小津高校は1週間休校させていただきます』
「……はぁ?」
焔は門の奥を見ると、そこには規制線が貼られ、刑事と思われる人や鑑識が何かを調べているのが見えた。
「殺人事件でも起きたのか……?」
あまりにも突然の出来事なので焔は夢でも見ているのかと疑うも、頬を抓って現実だと言うのを確認した。
焔は仕方なく帰ろうとしたその時、門を乗り越えようとする人が居るのを見た。
焔はすぐにその人を止めようと思い、駆け寄った。
「ちょっ、お前何してんだ?! 不法侵入だぞおい!?」
制服を見るに女子生徒らしく、スカートの下にはズボンといういわゆるハニワだった。
「んー? 何ってそりゃ事件の調査に決まってるじゃない」
女子生徒は門に登ったまま焔に話しかける。
茶髪のセミロングで四角い縁のメガネをかけていた。
「……誰だか知らないが、やめときな。怒られるぞ」
「おやおや? この私を知らないとは随分と世間知らずが居たもんだ。私の名は
「……ミステリー研究会ってあの?」
小津高校の特色の1つとしてあまりにも多い部活が取り上げられる。
野球部やサッカー部、吹奏楽部の様な一般的な物もあれば、温泉を研究する温泉部や吹き矢大会にでる吹き矢部、更には呪いや魔術を学ぶという黒魔術部もあると言う。
ちなみに焔は帰宅部である。
「そうだよ、あの数々の難事件に挑んだあのミステリー研究会さ!」
「……いやむしろ首を突っ込んで警察に出禁にされたとか聞いた事あるぞ」
「まぁそんな仲という事さ、ところで君の名は?」
「焔三幸だ、最近学校来れてなかったから、休校なの知らなかったんだよ」
すると翠は門から飛び降りて、焔の両手を握りしめた。
「まさか……君が生きていたとは!」
「は? 何言ってんだ」
「君、まさか知らないのかい? まぁ無理もないか」
「俺がいない間に学校で何があったんだよ」
「いやー霧峰結衣が不幸にも事故で亡くなってしまったのは知っているだろう?」
「まぁ……」
「そして彼女と中の親しい人物が君さ。幼なじみの君は彼女の死を受け入れられず、不登校になり自殺をした……」
「……俺は生きてるぞ」
「この真相じゃなかったのか……不覚だ」
「そもそも死んでたら普通言うだろ学校が」
「いやでも隠蔽とかそういう……」
自分の根も葉もないどころか土さえ無さそうな噂に焔はため息をつき、メモリアに戻ろうとした。
すると、翠は焔を引き止めた。
「なんだよ、俺は帰る」
「頼む! 君も手伝って欲しいんだ!」
「何をだよ」
「学園の怪人の調査を!」
「……は?」
こうして、2人は学園の怪人について調査を始める事になった。
焔は強制参加だった。
とは言ってもミステリー研究会は恐ろしいレベルで集まりが悪く、ほかのメンバーはまさかの他の部活又は事情で来れないらしい。
ここまで集まりが悪いとミステリー研究会なだけに殺さているんじゃないかと翠は推測したがそれはミステリーの見すぎだと焔は思った。
一応全員にLINEの返信が来ているので大丈夫だろう。
焔は翠の部屋へ来た。
翠の部屋はあまり飾られておらず、壁一面に大きめのホワイトボードがつけてあり、何やら色んな写真が貼られていたり、かなり殴り書きの文字が書かれている。
本棚にはミステリーの本やコンビニで売っていそうな胡散臭いUMAの本やよく分からない知識の本が並んでいた。
床には色んなものがとっちらかっており足の踏み場が少ない。
「ようこそ、私の部屋へ」
「は、はぁ……」
ホワイトボードには数人の生徒の写真とその横に場所と文字が書かれていた。
どうやら亡くなった場所らしい。
「学校の怪人はどうやら無差別に生徒を襲っているんだ。つまり、誰が狙われてもおかしくない」
「……そうだな。ってか学校の怪人はいつから現れたんだよ」
「4日前かな? そのくらいからだ。突如人が灰になって死んでいくようになったのは。その前までは何ともなかったのだよ。焔君はなにか心当たりがあるのかね?」
「うーん……無くはないんだが」
焔はこの事件は魔獣が関わっていると考えた。
魔獣の生徒会長が居たくらいだ。もう2,3人居ても違和感は無い。
「でもこの人って程じゃない」
「おお! それで犯人はどうやって人を灰にさせたんだい?」
「えっ? ああ、それは……」
魔獣や魔法少女について話したら鼻で笑われるかもっと話す事になるかもしれない。
焔は詰まれた。
特に考えた訳でも無いのに。
魔獣になろうとも考えたが、あの姿になったらまた暴走しそうで怖い。
一応暴走しないか剣崎に調べてもらったものの、まだ抑えられる自信が無いのだ。
「……ちょっと俺の喫茶店に来てくれないか?」
「いやここで構わないだろう? 何故わざわざ喫茶店に来る必要があるのかね? 私は今金欠だぞ?」
「あー奢るからこの場じゃトリックを披露できないんだよ」
というわけで2人はメモリアに来た。
店内には掃除をする鬼丸しかいなかった。
「あー焔おかえ……誰?」
「ああ、ちょっと色々あってな」
「小津高校2年4組、ミステリー研究会の宇佐美翠と申します。以後お見知りおきを」
鬼丸は手に持っていたモップを手から離してしまったが、それ以前に焔が全く知らない女を連れてきた事に唖然とした。
「……お前、浮気したのか」
「浮気じゃねぇよ! ってか誰とも付き合ってねぇし!」
「まぁとにかく珍しいな、学生のつれを連れてくるとか、てっきりお前の知り合いは幼女しか居ないのかと思って最近ロリkぶほぉ! お前なに急に……腹パンを……」
焔は怒りの一撃を放ち、鬼丸を黙らせた。
「ま、まぁ……2人は落ち着きたまえ……それで、ここでトリックを見せてくれるのか?」
「まぁ……この野郎が見せてくれるので」
「おい何の話だ」
鬼丸は焔を連れて耳元で話した。
「なんだよ、俺をマジシャンとでも嘘ついたのか?」
「違ぇよ、魔獣になって欲しいんだよ」
「はぁ? いきなり何言ってんだ。一般人に見せびらかす様なもんじゃねぇだろ」
「あいつは一般人じゃないから良いの。とにかく頼む」
「ったくしゃあねぇな……」
鬼丸は渋々なる事を決め、屈伸などの準備運動を始めた。
「良いですか? 驚かないでくださいよ?」
「おお、楽しみだ……」
鬼丸は魔獣に変身した。
翠はその非現実的な光景に、驚きを超えて、硬直していた。
「ば、化け物……」
「ほらぁ、怖がってる」
鬼丸が言うと、焔は翠にデコピンをすると、彼女の硬直はあっさりと解けた。
「いてっ……ふぁ……」
翠は猫を初めて見る赤ん坊の様に鬼丸を舐め回す様に見る。
途中耳やら鼻やら触って鬼丸にウザがられた。
「本物の……UMAじゃあないか……」
「UMAじゃねぇよ。魔獣だよ。知らないの?」
「ま、魔獣……?」
焔が説明に入る。
「……ホント?」
「「ホント」」
「ほんとぉ?」
「「ほんとぉ」」
「……TRUE?」
「「TRUE」」
3回も確認した。
「この世界ってそういうのありなんだ」
「ミス研が何言ってんだ」
焔のツッコミが飛んだ所で、翠はようやく理解できた。
「つまり、学校にも魔獣が潜んでいる……のか?」
「まぁ生徒会長も魔獣だったしな」
翠は飲んでいたコーヒーを逆流させてしまった。
「ななな、義弘が?! あのミス研の費用を引けるだけ引きまくろうとしたあの義弘が?!」
「そんな事あったんだ」
「一時期ミス研の予算案が5000円になりかけたのは流石に許せなかった」
「あーなんかそれは許せんな」
「と、とにかく。学校開けるまでこれじゃ調べられないじゃないか……」
「まぁ、そういうことだな」
翠ほコーヒーをストローで吸い上げながらしょぼくれる。
「とりあえず来週まで調査は中止だ……」
翠はそのまま店を出た。
焔はあまり浮かない顔をしていた。
「……どうした?」
「いや、なんか……いけないことしたみたいで……」
「いけないことってなんだよ」
「普通の人を、こんな事に巻き込みたくない」
焔の口から出たその言葉はとても重みがあり、鬼丸はそれを心でしっかりと感じた。
「……かもな」
その頃青空では内山が工場の隅で寝ていた。
彼はやや不安になっていた。
次々とやられていく仲間達の事と、ホムンクルス達が量産されていくのに対して、このままだと俺ら青空の人間は必要では無くなるのでは無いかと。
無論、
そして何よりホムンクルス達は生物兵器の様なものだ。
三幸さんが正式に認めているかも怪しい。
そんなことを考えていると、ある人物がやってきた。
あの黒いトカゲと珊瑚礁を合体させたような魔獣だ。
彼の名はニトロ、勅使河原から名付けられた。
黒い革ジャンを肌の上から来ており、下は黒いズボンで黒いスニーカーを履いている。
「よォ先輩、何してんすか」
「……ただの昼寝」
ニトロは舐め腐った口調で言う。
「まぁ寝ててくださいよ。あんたみたいなお荷物さんはね」
内山はその言い方が多少尺に触るものの、ここは大人な対応をすべきだと我慢した。
「張り切るねぇ、後輩は、まあせいぜい突っ込みすぎて倒れるなよ」
そう言って内山は寝返りをうってニトロから目を逸らした。
ニトロは小さく舌打ちし、どこかへ行ってしまった。
「んじゃ、俺は勅使河原さんに頼まれた事やるんで」
「何頼まれたんだ?」
「焔の抹殺ッスよ……」
「……そうか」
内山はその言葉をあまり快く聞けなかった。
あいつは違う、
「……知らねぇけど、やりたくねぇな」
To Be Continued
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