第19章 想いよ届け、不死鳥の翼
市内某所。
井草はボロボロの聖母鎧で、息を上げ、その場に立っていた。
「……堕ちたな」
目の前には、腹から血を流した焔三幸が倒れていた。
アポロと犬飼の決闘から3日後。
カリスはイタリアへ帰国し、犬飼とルナはメモリアに居ることになった。
真由美はラジオにずっと取り憑いたままで、常連客と会話をしている。
鬼丸は、あのホムンクルスが気になり、錬金術の本を読んでいたが、あまりにもわかりづらかったのかそもそも鬼丸が勉強が苦手なのかは分からないが、挫折してそのまま本に顔面を乗せていた。
「ほーら、仕事仕事」
フレアが鬼丸の頭を本で軽く叩きながら起こすと。
鬼丸はあくびをしながら起き上がり、体を伸ばして仕事に戻った。
犬飼は上で洗濯をし、ルナは買い物をしに出かけている。
そんな日が続いていた。
その頃、霧峰結衣と三河由香は廃工場に来ていた。
どうやらそこに魔獣がいると通報が入ったらしい。
結衣は知っている。
ここが青空の本拠地であるという事を。
だが、彼女はそれを言わなかった。
言ってしまえば、自分が内通者と疑われる危険もある。
だから、あえて言わなかった。
「……行くよ」
由香はいつもとは違ってとても真剣だった。
「はい」
由香はコルトスが変化した銃を持ち、結衣は魔獣に変身して、廃工場に入った。
すると、目の前には、単眼の怪人がいた。
右手には地面に引きずるほどの大きなハンマーを持って。
「……魔獣ね、何をしてるの、ここで」
すると、怪人は言った。
「ここの見張りです」
結衣はその声に聞き覚えがあった。
芦原だ。
そう思ったが、実は互いに魔獣の姿を見た事は無かった。
でも声を出してしまえばそれもバレる。
そう思った。
「一応私警察なんだけど、なにか見られたらまずいものでも?」
「ええ、まぁ。ですから、申し訳ないのですが……死んでもらいます。上からの命令で」
芦原はハンマーを振り上げ、地面を叩き割る。
その飛び上がった瓦礫を芦原はハンマーで打ち、由香達にぶつけようとする。
しかし、由香は銃で瓦礫を次々と撃ち抜き、瓦礫を石ころにするまで砕く。
「行くよ!」
結衣は首を縦に振り、地面を泳ぐ。
由香は更に芦原に向けて銃を撃つ。
その弾丸など効かないのかは分からないが、芦原にダメージが入っているようには思えなかった。
芦原はハンマーを振り上げ、由香を叩こうとするが、大ぶりのため当たらなそうだった。
すると、芦原はハンマーをへし折り、頭のついてない方を地面に突き刺すと、地面から出した土塊をハンマーの頭にした。
由香は地面から現れ、足元を掴もうとするが2つのハンマーでモグラ叩きのように叩かれ、なかなか思うように近づけなかった。
すると、どこからともなくミサイルが大量に飛んで来て、工場のトタンの壁を破壊した。
それは、あの黒いトカゲに珊瑚礁を合体させた様な魔獣だった。
「ホムンクルス……」
その魔獣は手からも小型のミサイルを発射し、3人をミサイルの爆破に巻き込む。
3人は吹き飛ばされ、バラバラに離れて倒れ込んでしまう。
「……ホムンクルス、敵はこの2人だ」
芦原がそう言うも、魔獣は芦原の首を鷲掴みにして、投げ捨て、更には結衣の腹を蹴り飛ばす。
結衣は軽く嘔吐し、胃の中の物が少し出てしまう。
由香は銃を魔獣に向けて、弾丸を放つ。
魔獣はそれを軽く避け、右手から発射されるミサイルで由香を近づけさせなかった。
そして魔獣は芦原の髪を掴みあげた。
「じゃあな」
その声はどこかの誰かに似ているが、そんな事を考える間もなく芦原はハンマーを振るおうとした瞬間腹に風穴を空けられた。
魔獣が手からミサイルを撃ったらしい。
芦原は魔獣の手から解放され、糸が切れた人形の様に倒れた。
由香は魔獣に再び弾丸を放つ。
今度は避けられないように狙いをバラバラにして軽い弾幕を作り出した。
しかし、魔獣はミサイルでその弾丸を破壊し、弾幕は呆気なく崩れ、魔獣は由香に近づき腹に強い一撃を放つ。
由香は倒れ、魔獣はその場を去るとき、人間の姿に変わった。
服を何も着ていない全裸の姿で。
「俺は、最強だ」
その頃、メモリアには重たい空気が漂っていた。
井草が店内に来て、ある事を話した。
それは、焔三幸の現在の状況について。
「フレア君、彼の事について、話しておこうと思う」
「どこにいるか、わかったんですか?」
「ああ、彼は今、こちらで保護している。厳重に拘束してな」
「え……」
「本人は落ち着いてはいるが、むしろそれを望んでいたような。そんな感じはした」
フレアは井草に言った。
「すぐに会わせて下さい!」
井草は腕組みをして、少し考えて、こう言った。
「無理だな、たとえ魔法少女とはいえ、その姿では非力な君が近づいて、暴走でもしたら、被害が拡大するだけだ」
「でも……焔は……」
フレアは何も言い返せ無かった。
井草の言っていることは正しい。
焔三幸は魔獣の力を抑えきれず、暴走を繰り返す。
だが、フレアは焔が居なくなってから、心に穴が空いたような気持ちになっていた。
恋人を亡くし、死別してしまった彼を思う人の様に。
「……もう一度言います。会わせて下さい」
「だから、無理だと」
フレアは机に頭をぶつけ、店に響き渡る声で言った。
「私は! 焔に会いたい! 会えるなら……死んだって構わない」
井草は彼女の本気の願いに、少し戸惑ったが、井草は彼女の気持ちを、理解した。
「良いだろう、会わせてやる。ただし、私を同伴させることが条件だ。もし焔が暴走したら、即座に私が殺す」
「そんくらい上等よ」
そして、フレアと井草は聖母親衛会の施設である教会へとやってきた。
何故教会があるのかと言うと。ここでいつも討伐した魔獣の報告や、新たな兵器の開発を行っているらしい。
教会はカモフラージュで建てたと言う。
小津山の麓に建っており、小津高校の裏の森の奥にひっそりと佇んでいる。
建物の見た目は木造のシンプルな教会で、中に入るとステンドグラスの模様に光が刺し、とても鮮やかな色彩を出している。
井草は祭壇を右にずらすと、祭壇に隠れていた地下への入口が現れた。
そして3人はそこを降りていくと、何も無いコンクリートの空間が拡がっていた。
空間は視聴覚室程に大きいが、物は何一つ無く、ただ真ん中にミイラのように白い布巻かれた何かがあるだけだ。
よく見ると、顔にはペスト医師のようなマスクがつけられ、息で目元が曇っているのがわかる。
「……焔?」
フレアはその醜い姿に、哀れんだ。
焔は何も返さない。
寝ているのかと思ったが、目線をゆっくりと逸らしたので起きているのはわかった。
「……無視、しないで」
フレアが顔を合わせようとした時、焔のマスクが外れた。
顔は、魔獣に変わり、白い布も突き破り、背中に生えた翼を広げ、焔に鋭い鉤爪を突き刺そうとした。
「に……げろ……」
その刹那、井草は着装しその攻撃を受け止める。
しかし、聖母鎧の腹部は破壊され、壊れた機械の回路が煙を上げる。
焔は爪を聖母鎧から外し、後ろに下がる。
そして頭を抱え、突如叫びだした。
井草は断罪銃を取り出し、焔に銃口を向けるが、その時入口から誰かが入ってくるおとがした。
「信仰者か?! 今はあとにしてくれ! 祭壇がズレてるんでな!」
井草が焔が大人しくしているのを確認をしながら教会を見ると、そこには、大量のホムンクルスと、1人の女が居た。
それは、篠澤麗美だった。
「ここに……ぷっ、烏丸居るんだよな……ハハッ」
麗美は笑いながらカマキリのような魔獣に変わり、ホムンクルス達を井草に仕向ける。
ホムンクルス達は鈍足な動きではあるものの、井草を囲む。
井草は断罪銃でホムンクルス達を攻撃するも、数が多いあまり、じわじわと祭壇まで近づいてくる。
「フレア君!早く逃げるぞ!」
その時、フレアは焔を見ていた。
理性と本能の間で葛藤する焔を見ていると、自分には何か使命感が湧き上がってきた。
フレアは決心して、焔に抱きついた。
焔は、またかと思った。
何も無い白い空間に、目の前には魔獣の姿の焔が居た。
いつもの奴が来たと感じた。
また殺される。
本能に腕をもがれ、股を割かれ、内臓を引きずり出される。
焔は半分諦めていた。
いくら抵抗しようにも本能という名の暴力にねじ伏せられるのが理性だ。
理性は脆い。
たった一つの感情で、呆気なく崩れ落ちる。
また今日も、殺されるんだ。
そう思った瞬間。
何かが落ちる音がした。
それは、魔獣の腕だ。
「……え?」
そこには、剣になったフレアを持った。
フレアだった。
「なんで……ここに?」
「……分からない」
あまりにも無責任な答えに焔は少し笑いそうになった。
「なんで知らねぇんだよ」
魔獣は腕を庇いながらフレアに襲いかかるも、フレアは素早い剣撃で魔獣を3枚に下ろす。
魔獣は砂のように散り、消滅した。
「現実でも、出来たら良いのに」
「……大丈夫だよ、俺がするから」
「ううん、私がしたい」
「……どうして?」
「困った人を助けるのが……魔法少女の役目でしょ?」
焔はフレアの手を取り立ち上がり、彼女を胸いっぱいに抱きしめた。
井草はあまりの数の多さに苦戦し、聖母鎧からは煙がのぼり、満身創痍の状態だった。
「あらもう終わりひっひっひっひっひっひっ?!呆気ないねぇ。ききっ、くけけけけけけけ」
井草ももう終わりかと思ったその時。
祭壇が吹き飛び、ステンドグラスを割った。
そしてステンドグラスの欠片の雨の中、騎士が立っていた。
「……誰だ……貴様」
「おぉ? 何? 騎士ぃ?」
麗美は大笑いした。
「「馬鹿にすんのも、今のうちだぞ」」
フレアと焔の声が二重に聞こえた。
「フレア君?! いや、焔……いやフレアか」
「「え?」」
2人は今自分達に置かれている状況を改めて確認した。
「ん? …………俺と」
「私が……」
「「混ざってる?!」」
「どうなってんだよ! 説明しろよフレア!」
「知らないわよ! 勝手にこうなってたの! ハグしたら!」
「俺にハグしてどうしてこうなるんだよ!」
2人が1人の身体にいる為か他が見れば1人で飛び回っている騎士というなかなかにシュールで滑稽な光景が生み出されていた。
これにはホムンクルスや井草も、攻撃の手を止め、唖然としてしまった。
麗美は腹を抱えてこれでもかと言うほど爆笑している。
「「笑うな!」」
ホムンクルス達は一斉に襲いかかる。
しかし、騎士の身体から放つ衝撃波でホムンクルス達はあっさりと吹き飛ぶ。
そして騎士は剣で出来た羽を伸ばした。
その羽から1本を剣を取り出し、残りを全て周りに飛ばし、剣はホムンクルス達を次々と居抜き、刺されたホムンクルス達は灰と化す。
「ははっははははは…………は?」
麗美は少し唖然しつつも鎌を構え、騎士に襲いかかる。
振り下ろした鎌は剣で弾かれ、そのまま流れるように剣は横一線に麗美の腹を斬る。
騎士はさらに剣に炎を纏い、後ろに下がる麗美に炎の剣撃を放ち、傷口を焼いていく。
麗美は焼けた傷口を庇いつつも、騎士に反撃を仕掛ける為、鎌を振るう。
だが、その攻撃も虚しく、片手で止められ、鎌を剣で切断され、腕で庇っていた傷口を腕ごと蹴飛ばされる。
そして騎士は剣を構え、刃は赤く光り始める。
「「永久の眠りを《エターナル・チェックメイト》」」
騎士はそのまま麗美の腹を横一線に切断した。
「ぎゃあああああああああああああああぁぁーっはっはっァ! いひひ……ひ」
麗美は笑いながら灰と化した。
騎士は焔とフレアに別れた。
「……焔」
「……フレア」
「これからも、よろしく」
「ああ」
To Be Continued
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