第18章 亡き父の為の戦い

 決闘当日。

 犬飼とルナはサイドカーに乗り、採石場へ向かっていた。

 特にこれと言ったこともなく、採石場の入口をへ着いた。

 一応、それなりの柵があり、そこから道なりに進むと、映像に映っていた石を掘り出す場所へと通じる。

 犬飼は柵を開けて通ろうとすると、灰色のワンボックスカーが現れた。

 運転席には雄一が乗っていた。


「店長、あんたは来ない方がいいぜ」


「いや、僕はあくまで健闘を祈るだけだから、むしろ加わりたいのは後ろの席の方だよ」


 すると、後ろのドアがスライドして開く。

 そこには鬼丸とフレアが居た。


「……邪魔しに来たのか?」

「いや、保険だよ、あんたがやられた時の」

「前に倒したやつだ、負ける訳がねぇだろ」

「油断大敵って四字熟語分かる?」

「わかるに決まってんだろ」


 犬飼は柵を開ける。


「それじゃ、頑張って」

「……ああ」


 3人は中へ入っていった。


 その頃、結衣達3人は覆面パトカーで、また見回りをしていた。

 その途中で休憩を取りに、3人は焼肉屋に行った。

 決してサボっている訳ではない。

 テーブル席で3人は肉を焼き、良い感じに焼けるのを待ちっていた。


「……焼肉かぁ」

「何? 結衣ちゃん初めて?」

「いや、その……前の」

「あーね、ほら食いなさい。食べなきゃ死ぬから」


 結衣はまだ焔の事を気にしていた。

 例え彼が魔獣として暴走していたとしても、他に止める手段はあっただろうか。


「……鶏肉、無いですよね」

「なーに言ってんの、カルビしか頼んで無いわよ」


 結衣はサンチュをかじった。

 八咫烏は上にバレないかヒヤヒヤしながらも、カルビを食べ、由香はご飯山盛りの上にカルビをのせてガツガツと食っていた。


「すみませーん! 生1つ!」

「ちょっ先輩ビールは」

「何、あんた私が酒豪の高橋に勝ったの知らないの?」

「いやそうですけどあの時高橋さんやる前に飲みすぎててそれで勝ってた様なもんで……」

「いいの、どうせうちらは署のはぐれ者なんですから」

「まぁ……そうですけど」

「そうなんですか?」


 結衣がそう聞くと、八咫烏は答えた。


「あんまり魔獣出ないから成果が見えんし、経費はかさむわで上も俺らを渋ってんの。そもそも由香さんが上に無理やり作らせたのがこのチームの発端だから。しかも君が来たとなると余計ぞんざいな扱いされんだろうな……勝手に行方不明者保護した狂人チームとか……」

「そうなんですか……」


 すると、生ビールが届き、由香はそれを一気飲みした。


「……仕事中に飲んでいいの?」


 結衣は八咫烏にそっと聞いた。


「そりゃ、駄目に決まってるでしょ」


 八咫烏は小声で言った。


「なんか言った?」


 由香が2人を睨む。


「「いえっ! 何も!」」


 場所は戻って、採石場までの道を進んでいた犬飼、鬼丸、フレアの3人は、とある男と遭遇した。

 その男は足を木の枝にひっかけ、蝙蝠のように逆さまになっていた。


「……内山か」

「知り合い?」

「ああ、まぁな」


 すると内山はゆらゆらと揺れながら話しかけてきた。


「おいおい勝手にそっちで話進めんなよ犬飼、ってか烏丸と一緒じゃないのか」


「烏丸は関係ねぇだろ、ほっといてやれ、あいつ今は大変なんだ。そもそも内山、俺の邪魔をする気か?」

「いや、違うよ。っていうかさ、この姿勢めっちゃ血が頭に登るんだけど」

「知るか」


 鬼丸は痺れを切らして少し怒鳴った。


「さっさと要件を言って帰れこのコウモリ野郎」

「ってかお前誰? チンピラ? それともきんぴら?」

「殺すぞ」

「おお? 冗談通じないタイプ?」


 鬼丸は魔獣に変わると、内山に向かって走り出し、飛び上がって蹴りを放った。

 しかし、内山は突然消え、鬼丸は空を蹴ってしまう。

 慌てて着地すると、後ろに内山がいた。


「ストレス貯めると、健康に悪いよ」


 いちいちイラつく言動に、鬼丸は無言で内山に蹴りを放つ。

 だがそれもあっさりと避けられ、鬼丸は顔面に掌底を浴びた。

 後ろに仰け反りながら吹き飛ばされた鬼丸は地面に倒れる。


「鬼丸!」

「あー……まぁいっか、そんじゃ後はよろしく、人造魔獣ホムンクルス達〜!」


 するとどこからともなく、肉塊の様な怪物が2体出現した。


「なんだ……こいつら」


 鬼丸は起き上がりながら、言った。


「魔獣の細胞を適当に混ぜてバーッと作ったらしいよ。三幸みさきさんがね」


 ホムンクルス達は鬼丸と犬飼に襲いかかる。

 ルナはすぐに篭手に変身し、犬飼はそれを装着し、ホムンクルスを殴り飛ばす。

 ホムンクルスは防御もせずに犬飼の拳をもろにくらい、吹き飛ばされるが、ゆっくりと起き上がった。

 鬼丸も右足で回し蹴りを放ち、ホムンクルスを木に激突させるが、あまりダメージが入っているようには思えなかった。


「弱いのか強いのかわかんねぇ……犬飼、お前は先に行け!」

「……すまねえ」


 犬飼はサイドカーに乗り、ルナも元の姿に戻って隣に座った。

 鬼丸はホムンクルスの相手をしていたが、内山はいつの間にか消えていた。


「あの野郎……どこ行きやがった」


 しかし、ホムンクルスはノロノロと遅い動きでありながら、鬼丸におそいかかる。


「フレア! 頼む!」

「わかった!」


 フレアは剣になり、鬼丸はそれを逆手持ちにして持った。


「ふぇ? 逆さま?」

「順手はやりづらい!」


 鬼丸はホムンクルスの脇腹に蹴りを放ち、そのまま流れるように剣で切り裂く。

 ホムンクルスの胴から血が吹き出すが、まだダメージが入っているようには見えなかった。

 すると、傷をつけたホムンクルスから湯気が上がり、表面が溶けると、そこには、珊瑚礁のような触手を身体中から垂らした、黒いトカゲのような怪物が居た。


「なんだあれ……」


 怪物は突如珊瑚礁を逆立てて、その珊瑚礁の穴からミサイルを連射した。

 山に大きな爆発が鳴り響いた。


 犬飼はその頃、目的地の石を掘り出す現場まで到着していた。

 犬飼はサイドカーから降りて、ルナを装備する。

 アポロはアンティークな椅子に座り、机の上に紅茶を置いて飲んでいた。


「おやおや、やっと来たか」

「卑怯だな、部下を使って足止めとは」

「部下? そんな奴は居ないが」

「そうか、ならいい」


 犬飼はあれは内山の独断なのだと思い、拳を強く握りしめる。

 犬飼はゆっくりとアポロとの距離を詰める。

 近くになるにつれて、十字架に貼り付けられ、ボロボロになっているカリスを見ると、心が締め付けられるようだ。

 そしてアポロも魔獣に変わり、連装銃を犬飼に向ける。

 アポロは、ゆっくりと引き金を引いた。

 その弾丸は犬飼が放つ拳とぶつかり合う。

 犬飼は弾丸を弾いた。

 そして犬飼はそのまま間合いを詰めるが、アポロは肘打ちを放つ。

 犬飼は鳩尾に喰らい、1回空気を吐くが、諦めずに殴り返す。

 アポロは少し後ろによろけるが、連装銃を再び放つ。

 それを犬飼は拳で防いで間合いを詰めようとするも、銃撃が激しくなり、中々間合いを詰められない。

 すると、アポロは銃を持っていない片手からナイフを取り出し、それを犬飼に投げる。

 ナイフは太ももに刺さり、犬飼は体勢を崩す。


「死ね」


 犬飼は銃撃をもろにくらった。


「裕二!!!」


 犬飼は起き上がらなかった。

 カリスはあの時と今を重ねてしまい、目をつぶった。

 もうあの悲劇を繰り返したくないのに。


「……終わったな」


 アポロが犬飼に背中を向け、カリスに銃口を向けたその時。

 アポロの背中を叩く者がいた。


「誰だ……」


 アポロが振り向く刹那、顔面に砲弾がぶつかったような衝撃が来て、アポロは吹き飛ばされた。


「……誰だ! 私の顔を殴ったのは!」


 そこには、鎧の様な装甲を纏った何者かが居た。

 装甲の上には鎖で縛られ、身動きが取りづらそうなのがわかる。

 顔は犬を模した兜に覆われ、分からない。

 ただ、カリスはどことなく、魔獣になった犬飼に似ていると感じていた。


「……もしや、貴様」

「……まだ、終わってねぇぞ。アポロ」


 カリスは叫んだ。


「裕二!!!!!」


 アポロはすかざず連装銃を連射する。

 犬飼は全く避けず、銃弾を全て食らってしまう。

 しかし、装甲は破れず、身体中の鎖が破壊されるだけだった。

 そして完全に鎖から開放された犬飼は、アポロとの間合いを詰めていく。

 その間にもアポロは連装銃を連射するものの、その攻撃は今の犬飼にとってもはやそよ風を浴びるのと変わらない。


「なぜだ。なぜ効かない!」


「お前は俺に負けたという過去に囚われた。だが、俺は違う。かこを超えて、未来へ進む。それが俺だ!」


 犬飼はアポロの顔面に右ストレートを放つ。

 アポロは反撃に火球を手から放つが、それも片手で弾かれ、腹に連続して拳を放たれる。

 アポロは吐血し、連装銃を落とし、膝まづく。


「……これでトドメだ」


 だが、アポロは先程のナイフを再び取り出し、それを犬飼の腹に刺そうとした。

 いくら装甲が硬かろうが必ずどこかに隙間がある。

 そう考えていたが、ナイフを向けた時アポロは絶望した。

 本当なら、首とかに隙間があると思っていた。

 だが、

 ナイフを刺そうとしても、中の肉体に入らない。

 そう考え、アポロは刺せなかった。

 そしてアポロは犬飼のアッパーを喰らい、そのまま宙を舞う。

 犬飼は宙を舞ったアポロに追い討ちをかける様に、落ちていくアポロを叩き落とした。

 アポロは動かなくなった。

 犬飼を纏った装甲は解けるように消え、ルナが人の姿で倒れてきた。


「……なんか、気持ち悪い」


 ルナは嫌そうに言ったが、顔は満足感に満ちていた。

 犬飼はその場に倒れ、空を見上げた。


「俺もだよ」


 しばらくして、犬飼は起き上がり貼り付けられたカリスを解放した。

 その間に身体は軽く、弱々しくなっていた。


「大丈夫か?」

「……うん」

「良かった……」


 犬飼はカリスを抱きしめた。

 ルナは2人を見て、どことなく心が安らいだ気がした。


 その頃、鬼丸とフレアは珊瑚礁とトカゲを混ぜた様な魔獣に苦戦を強いられていた。

 もう一体のホムンクルスは既に倒したものの、珊瑚礁とトカゲの魔獣は、ミサイルを辺りにやたらめったらと発射し、あたりは更地と化していた。


「逃げるしかねぇだろ……」


 鬼丸は剣を構えるが近距離の戦闘がメインの鬼丸にとって魔獣とは相性が最悪である。

 鬼丸は男らしくないとは思いつつも、魔獣から逃げる事を決め、背中の翼を広げ、空へ飛び立つ。

 魔獣はミサイルを連射するが、鬼丸は華麗に避け、採石場の入口まで戻ってきた。


「逃げるは恥だか役に立つって本当なんだな」


 フレアも魔法少女の姿に戻り、その場にへたりこんだ。


「なんか逆手持ち気持ち悪い……」


 あまり慣れない振り回され方をされたのか、フレアは少し酔っていた。


「大丈夫かぁ?」

「大丈おろろろろろろろろろろ」


 フレアは地面に嘔吐した。


「ああちょっ、吐くならもっと草むらに……」


 すると、入口の方からエンジンの音が聞こえてきた。

 その方向を見ると、犬飼とその後ろにはルナが乗っており、サイドカーの部分にはカリスが乗っていて、すやすやと寝ているのがわかる。


「終わったんだな」

「ああ、何とか」

「後は……焔だな」


 同時刻、焔は頭を抑えながら道をさ迷っていた。

 なぜ自分が生きているのか分からないが、まだ身体の底にある何かが疼き、今にも暴れようとしていた。


「……やめろ」


 焔は抵抗した。

 だが、それは魔獣の本能の目の前にはあまりにも、脆く、弱い抵抗でしか無かった。

 焔は再び魔獣に変わり、空に向かって雄叫びをあげた。


 その夜。

 採石場には、アポロが体から炎をあげながら、何とか起き上がろうとしていた。


「あの、クソガキめ……」


 すると、目の前にある人物が現れる。


「誰だ……お前は」


 それは焔 三幸みさきだった。


「私は、全ての魔獣を救うもの」


 すると、三幸は背中から触手を伸ばし、アポロの全身を包み込んだ。

 満月の夜に、アポロの叫びが響いた。

 To Be Continued

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