第17章 太陽の殺し屋
「私はルナ、非力な魔法少女だけど、あんたの力位にはなれるわよ」
壁に激突した魔獣は立ち上がり犬飼の方へ向くと、犬飼は隙を与えず顔面に拳を放つ。
犬飼は魔獣の首を掴み、窓の外に投げ飛ばした。
犬飼は庭に出て、フラフラとしている魔獣に追い討ちをかけるように、殴り飛ばす。
すると魔獣は口から火を吐き、犬飼を牽制する。
犬飼は1度間合いを取る。
「おい、他になんか出来ねぇのかよ」
「殴りなさいよ」
「殴る以外の事出来ねぇのかよ」
「がんば」
「このやろ……」
犬飼は少しキレつつも魔獣の腹に拳を放つ。
魔獣は火を吐くもそれを避けて、脇腹に左フックを放ち、さらに左足を軸に回し蹴りを放つ。
魔獣は火を吐ききったのか、かなり体力を消耗していた。
犬飼はトドメを刺すため、右手に力を込めた。
すると、右手の篭手は光だした。
「なぁ、気持ち悪いから脳内に語りかけんな」
「すまぬ」
「魔獣に眠りを《チェックメイト》」
犬飼は魔獣に向けて右手に溜まった光を放つ。
その光弾は魔獣を貫通し、魔獣は灰と化した。
犬飼は篭手を外すと、元の少女の姿に戻った。
「疲れた……」
犬飼は庭に寝そべった。
そして少女は、そんな犬飼にツンツンと頬っぺをつついた。
「なんだよ」
少女はとある方向に指を指した。
指さす方には、カリスが怯えながら来ていた。
犬飼は起き上がり、彼女の方へ向かうと、カリスは突然、犬飼に抱きついた。
カリスは今まで見た事が無い程、泣いていた。
せっかくのシャツに鼻水がべっとりとついてしまうくらい。
「……もう、いやだ」
「え……?」
数分後、近所からの通報で警察が入ってきた。
ルナは隠れて何とかやり過ごしたが、2人は事情を聞かされた。
とりあえずクマが来てそのまま逃げていったと、何とか辻褄を合わせた。
その後、カリスの母親が帰って来た。
犬飼の事は、カリスが話した。
どうやら1週間程なら、泊まっても構わないと言ってくれたらしい。
ルナはカリスの敷地内にあるガレージに勝手に住み着いていた。
母親は黒髪のロングでとても品がある顔立ちをしている。
IT企業に勤めているらしく。あまり家にいる機会が無いらしい。
犬飼はカリスの部屋で寝る事になった。
カリスのベットの隣で布団を敷いて犬飼も眠りにつこうとした時。
カリスは言った。
「あのね」
「どうした」
「私、昔からああいうのに狙われるの」
「そう……なのか?」
「うん、だから、今日も怖かった。殺されるんじゃないかなって思った。でも、裕二が助けてくれた。ありがとう」
「……褒めても何も出ねぇよ」
犬飼はそのまま眠りについた。
カリスはベットから降りて、犬飼の布団に入った。
カリスにとって、その夜はとてもよく眠れた。
翌日。
犬飼はガレージで一晩を過ごしたルナに会って話を改めて聞いた。
「……なんなんだお前」
「魔法少女」
そう言って彼女は横になって寝ていた。
「起きろよ、もう10時だぞ」
「10時はまだ朝」
「お昼だろ」
「あーもう、本当に魔法少女なのかお前は」
「うん、武器になれる」
「説明が少ねぇ」
ルナはうざく思ったのか、毛布を飛ばして、犬飼に近づいた。
「私はね、魔法少女なの。あんたみたいな魔獣が使って魔獣を倒す為に生まれた存在。まぁあの子みたいに魔力が多い子でも使えるけど」
「カリスの事か?」
「ええ、それ以外が使ったら、寿命を削られて死ぬ」
ルナはそういうと吹き飛ばした毛布を戻してまた寝ようとした。
「それじゃ、寝る」
「寝るな!」
「やっぱり寝れないわね……んで、私の説明は以上、それ以外何か質問があるのか? 犬飼裕二」
犬飼は驚いた。
なぜルナが自分の名前を知っているのだろうか。
今まで教えたことは無いはずなのに。
「なんで知ってんだよ俺の名前」
「そりゃまぁ、あんたが逃げた時に。私も居たから。青空の名簿の名前と顔写真でだいたい察しはついてたわよ」
「……なんだよ、それならもっとちゃんと言えよ……あの三幸さんの妹が使ってた変な奴らの1人なのか」
「変な奴らって何よ、魔法少女って言ってんでしょ」
犬飼は知っていた。
4年前、焔
犬飼はまだ廃工場にいるのを知らず、あの時に助けられた身でもある。
「んでよ、なんで魔獣に追われてたんだ?」
「偶然見つかって、青空に消すように言われてたのかも。まぁ本人との連絡が取れない以上なんとも言えないけど」
「ほぉーん」
すると、カリスがシャッターを開けて来た。
「魔法少女ちゃん! 朝ごはん持ってきたよー!」
そうして持ってきたのが、出来たての目玉焼きを乗せたパンだった。
それを皿に乗せて持っていき、ルナの元へ運ぼうとしたその時。
カリスは足元に落ちていたスパナにつまづき、目玉焼きが宙を舞う。
そしてルナの顔面ど真ん中に
「あっ……ごめんね」
その後、ルナはしばらくカリスの口を聞かなかった。
昼になると、カリスの父親が帰ってきた。
どうやらイタリア人らしく、ヨーロッパ風の出で立ちをしている。
犬飼は髭が濃いなと思った。
「君が娘の連れてきた子かい?」
意外にも日本語は流暢で、日本で生まれたように綺麗な発音だった。
「あ、まぁ、はい。犬飼裕二って言います」
「ほーん、いずれ娘を貰う気かい?」
なかなか攻めた質問に犬飼は顔を赤らめた。
「そっそんなに滅相な……」
「ちょっと2人で話がしたい。来てくれないか?」
犬飼はカリスの父親と2人きりでリビングに来た。
椅子に座り、机を通して2人は向かい合った。
すると突然父親は、机に顔を突っ伏した。
「ありがとう」
感謝だった。
全く持って淀みのない。
ただ一言のみの、感謝。
それだけでも、誠意は十分に伝わった。
「……カリスは、昔からよく襲われてね。私も守らなければならないとは思った。だが、私も仕事の立場でどうしても出来なかった」
それもそうだろう。
娘が化け物で襲われて仕事が出来ないなど、誰も信じられないだろう。
「だから、嫌われても良い。少しでも良い、娘を、守ってくれないか?」
犬飼は最初、断ろうと考えたが。
あの時の彼女の泣き顔を思い返すと、守らなくては行けないという責任感が湧いてきた。
「わかりました」
そこから半年程、2人は仲良く過ごしていた。
ルナも、そんな仲睦まじい2人を影から見守っていた。
そんなある日。
カリスが学校から帰路についていると、目の前に男が現れた。
白いスーツに白い帽子の男だった。
「やぁ、お嬢ちゃん」
「……誰、おじさん」
「おじさんはね……君を殺しに来たんだ」
すると、おじさんは炎を纏い、魔獣へと変わった。
カリスは腰を抜かし、その場に倒れてしまった。
「……私は太陽の殺し屋、アポロ」
アポロは連装銃をカリスに向けた。
犬飼は居ない。
カリスは怯えながらも、何とか逃げようとすぐに後ろへ振り向き、逃げようとした。
しかし、その時アポロの目の前にサイドカーが現れる。
バイクには犬飼とカリスの父親が乗っており、サイドカーにはルナが乗っている。
「迎えに来たらこれかよ……」
「犬飼君は娘を頼む」
「ルナ起きろ、出番だ」
鼻風船を立てていたルナの頭を叩いて起こすと、ルナは状況を理解し、すぐに篭手に変わった。
犬飼はすぐにアポロに殴りかかるが、右ストレートをあっさりと受け止められ、そのまま捻られ、犬飼は地面に叩きつけられた。
「おやおや、ここはガキの遊び場では無いぞ?」
「うるせぇロリコンがよ」
「そんな低俗な者だと思うかね?」
犬飼は起き上がりすぐ様攻撃を始めるものの、アポロはそれを防ぎ、カウンターを放つ。
犬飼は吹き飛ばされ、アポロは連装銃を放つ。
犬飼はそれを篭手で防ぐが、弾が強く、篭手が弾かれ、胴ががら空きになってしまった。
「死ね」
アポロが再び引き金を引いたその刹那。
犬飼の前に誰かが立ち塞がった。
「……パパ?」
カリスの父親の背中は蜂の巣にされていた。
口からは血を流し、膝から崩れ落ちる。
「……父さん……なんで」
「娘を守るなら……当然の事さ」
そのまま父親は倒れた。
犬飼はアポロに殴りかかった。
さっきは使命感から殴りかかっいたが、今は違う。
怒り。
それだけだった。
犬飼自身でも、なんでここまで怒りが湧き上がるのかは分からなかった。
しかし、目の前の奴を倒さなければ、いや、殺さなければこの怒りは止まらない。
そう感じていた。
ただ必死に攻撃を繰り返した。
何回銃で撃たれたのか、何回蹴り飛ばされたのか。
そんな痛みは無かった。
ただ、奴を殺す。
それだけで立ち向かっていった。
雨が降り出し、互いに満身創痍の中、犬飼は最後のトドメをさした。
その右ストレートは、普通の人から見ればただ拳を頬に当ててるようにしか見えなかった。
だが、アポロはそれで膝をついた。
「ガキが……」
アポロはふらつきながら逃げた。
ルナも人の姿に戻り、犬飼はその場に倒れた。
息も浅く、視界もぼんやりとしてきた。
そのまま犬飼の意識は遠のいていった。
犬飼は眩しい光を感じ、目を開けた。
そこは、病室だった。
目の前にはナースとカリスがいた。
「……裕二」
犬飼は何も言えなかった。
その後、カリスが去ると医者からあの後の事を話された。
カリスの父親は死亡し、カリスは1週間後にイタリアに引っ越す事になったと言う。
犬飼は、納得しか無かった。
こんな自分と関わったりするのは彼女にとって毒でしかない。
犬飼は、病室でゆっくりと過した。
あの家族の事は忘れよう。
そう思っていても。
なんでだろう。
忘れられない。
どうして。
分からない。
忘れたいのに。
その時、病室のドアを勢いよく開けた者がいた。
「あんたバカなの?! カリス行っちゃうわよ!」
ルナだった。
いつも動かない癖に今日は息を上げて、顔も真っ赤になる程の全力疾走をしたらしい。
「……いや、俺は遠慮しておくよ」
ルナはその場にあった見舞い品のリンゴを犬飼な投げつけた。
犬飼の顔面に
「な、何すんだよ! 怪我人だぞ?!」
「あんた、助けた人くらいちゃんと見届けてやんなさいよ!? 何? あんたが父親を殺したとでも思ってんなら大間違いだからね!」
そう言うとルナは犬飼の腕を引っ張り、病室から引きずり出そうとしたが、犬飼はそれをはらい、勢いよく病室を出た。
そして、犬飼はすぐに私服に着替え、カリスの家に走って向かった。
しかし、もう既に引っ越しの準備が出来ていた。
家にほとんど荷物は残っていない。
まだ手がついていなさそうなガレージを開けると、そこにはサイドカーが1台置いてあった。
犬飼はそれに乗り、エンジンをかける。
運転の仕方は父親からだいたい学んでいる。
犬飼はサイドカーで走る道中、置いてかれたルナを見つけた。
「空港、わかるか?」
「そりゃあ知ってるわよ、あと1時間で出るのよ?」
「んじゃ乗れ」
「え?」
犬飼はルナをつまみあげてサイドカーに乗せた。
「空港どっちだ?」
「ここを右に」
犬飼はエンジンを出せるだけ出した。
とにかく早く、空港に着きたかった。
せめて、カリスに、別れの挨拶をしたい。
そう願い、アクセルペダルを踏む。
そして空港に着き、直ぐにカリスを探すが、カリスの姿はどこにも居なかった。
窓の外には、空へ飛び立つ飛行機が、写っていた。
「……遅かったわね」
ルナがフラフラしながら言う。
どうやら荒い運転だったので、酔ったようだ。
でも、犬飼はただ窓の外を見つめていた。
飛んでいく飛行機を。
すると、頬に冷たい涙が流れる。
ルナの酔いも彼の涙を見て、どうでもよくなった。
「これから、どうするの」
「……殺してやる」
「え?」
犬飼はルナを見て言った。
その目は
「この世から、魔獣を1匹残らず殺す」
狩人はこうして誕生した。
そして現在。
犬飼はサイドカーの手入れをして、明日の決闘の準備をしていた。
すると、ルナがやってきて、サイドカーに乗った。
「どうした?」
「いや、ただ最近乗れてないから。寂しかっただけ」
「まぁそこは整備したから良いけど、あんまり汚すなよ?」
「……裕二」
ルナはある物を渡した。
それは何かの袋だった。
「なんだ? これ」
「……お守り」
「へぇ、可愛いじゃん」
ルナは顔を赤らめ、本で犬飼の頭を叩いた。
「いって! 何すんだよ!」
ルナは恥ずかしくて、顔を本で隠した。
To Be Continued
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