第6章 友達として

「さぁ、来なさい」


 猪の怪人はすぐに襲いかかる。

 結衣は手刀を作り、猪の怪人の腹に突き刺した。

 手刀は腹の贅肉を削ったのみで、あまりダメージにはなっていない。

 猪の怪人はあら鼻息と共にラリアットを放つ。

 結衣は避けるが、猪の怪人はその勢いで背中から結衣を押し潰した。

 地面はひび割れ、土埃が舞いあがる。


「死んだだな……こりゃ」


 猪の怪人はそう確信し、起き上がると、そこに潰れているはずの結衣はいなかった。


「んだ?」


 すると、地面が水面の様に揺れた。

 猪の怪人はその揺れに気づき、そこを触るが、全く硬い地面だった。

 その刹那、背後から結衣は現れた。

 そして猪の怪人の首を両手で締め、そのまま地面に引きずりこんだ。

 穴などは空いていない。

 そのまま海に浸かるように猪の怪人は地面に入った。


「どう……土の海は」


 結衣はまるで人魚の様な下半身に変わっていて、地下を優雅に泳いでいる。

 しかし、場所は地下、こんな所で猪の怪人は息が出来るわけがなかった。

 そのまま結衣に沈められ、猪の怪人は息絶えた。

 結衣が死んだのを確認すると結衣は地面から上がった。


「出来た……」


 結衣は元の人間の姿に戻り、学校を去ろうとした。

 その時だった。


「……お前も魔獣か」


 校舎裏から犬飼が現れた。


「誰?」

「俺は、狩人」

「何を狩る気?私?」

「その通りだと言ったらどうする?」

「断る、私は魔獣だけど、人として生きたいと思ってる」

「魔獣のお前にそんな権利があると思うか?」

「ある」


 犬飼は両手を上げ、失笑した。


「何がおかしい」

「いや、あまりにも滑稽なもんでな……お前を狩るのは後にしてやる。名前はなんだ」

「霧峰結衣よ、あんたは」

「犬飼裕二、そうだ。お前に頼みたい事がある」

「何」

「とある奴を倒して欲しいんだ」

「誰をよ」

「焔三幸って言うんだが」


 その名前を聞いて、結衣は驚きを隠せなかった。


「なんで殺さなきゃならないのよ!あいつは私の……友達だ」

「おお、知ってるなら話が早いな。あいつはな」


 犬飼はある事を話した。

 その話は結衣にとって

 途中でその話を聞きたくなかった。

 耳を引きちぎりたいとも思った。


「そんな……嘘だ」

「本当だ、そんな奴をお前は友達だってのか?」


 結衣は答えに詰まった。


「……友達だ、だから、殺すとしても、ちゃんと話し合って。止めさせる」

「ほう、それならそうで良い。お前が殺さないと言うなら、俺がお前も焔も殺す」


 犬飼はその場を去った。


「なんなの……焔が……そんな訳無いのに」


 その頃、焔は高架下で2人に追い詰められ、苦戦を強いられていた。

 蜘蛛の糸を避けつつ、萌衣の矢印のような剣撃を剣で防いでいる。

 いくら運動神経が良い焔とはいえ、2対1と言うのは非常に不利な状況である。


「もう使おうかな」


 萌衣がそう言うと、突然焔は天井に立っていた。


「なんだよ……これ」


 上下逆さまになり、とても気持ち悪かった。

 そして萌衣も追うように天井に立っていた。


「萌衣さん、僕はどうするんです?」

「下に蜘蛛の巣貼ればいいよ」

「それはそのままの意味という事で良いですかね」


 萌衣は首を縦に振った。

 そしてまた攻撃が始まった。

 さっきよりも素早い攻撃が続いた。

 さらに厄介なのは、天井の為頭に血が上り、意識が朦朧とし始めたのだ。

 萌衣は何ともなさそうの剣を振るう。

 なんなら天井の方が生き生きとしている。

 まさに天邪鬼そのものだ。

 地面ではなく天井で過ごし、はいと言わずにいいえと言い、いいえと言わずはいという。

 褒めれば貶し、貶せば褒める。

 それが天邪鬼。

 逆らう者なのだ。

 焔は目眩がし、萌衣の攻撃を受けた。

 右肩から袈裟斬りにされ、その痛みで意識が覚醒したが、さらに追撃で脇腹に突き刺される。


「焔! もう無理だ! 逃げよう!」


 焔は吐血し、そのまま天井に倒れた。


「あら、まだ終わらないの?」

「もう終わりましたよ、萌衣さん。もう彼は死んだも同然。さっさと食べた方がいいんじゃないですか? 私は昨日済ませたので」

「それじゃあ、逃げる様に蜘蛛の巣から外してね」

「逃げないように蜘蛛の巣にくっつけろと?」


 萌衣は首を縦に振った。

 すると、焔は地面に落ちてきたが、蜘蛛の怪人が作った蜘蛛の巣にからめとられた。


「焔! 起きてよ! 死んじゃうわよ!」

「もう無理だ……わりぃ……クソいてぇんでもだよ……腹が」

「でも!」

「烏丸、もう許さないくても良いよ?」

「……んな時に逆さまの言葉言うなよ……ややこしいんだよ……あと……俺は焔……三幸だ」


 蜘蛛の怪人は呆れたため息を吐いた。


「せっかくのですし冥土の土産に伝えたらどうです萌衣さん?」

「うん、言おうか」

「言う気ないですね」

「ご馳走様です」


 萌衣が剣を焔に突き刺そうとしたその時。


飛翔馬脚ペガサス・ショット!」


 萌衣を思い切り誰かが蹴り飛ばした。

 と言うより、飛んで来て萌衣を蹴飛ばした。

 萌衣は吹き飛ばされ、地面を転がった。


「誰だきさぐおっ!」


 蜘蛛の怪人もそいつに頭を蹴り飛ばされた。

 そして橋の柱に激突する。


「焔……助けに来た」

「……余計なお世話だ」


 それは鬼丸だった。

 今は魔獣の姿に変わり、翼の生えた馬の怪人になっている。


「俺は覇道鬼丸はどう おにまる、またの名をペガサス」


 蜘蛛の怪人は鬼丸に向かって糸を吐き出した。

 それを鬼丸はすぐに避け、蜘蛛の怪人に蹴りを放つ。

 その一撃は重く、蜘蛛の怪人の腹にかかり、川に吹き飛ばされた。

 鬼丸はすぐに焔を蜘蛛の巣から離し、座らせる。


「大丈夫か」

「……ありがと」

「あとは俺に任せろ」

「……任せるかよ」


 焔は腹の出血を抑えながら剣を構えた。


「お前みたいな、結構熱い奴、好きだぜ」

「無理すんなよ」


 するとフレアが焔を叱りつけた。


「焔! もう無理よ! 早く逃げなさい!」

「いーや、こいつら倒してからぐふっ……」


 焔は吐血して言葉を最後まで言えなかった。

 蜘蛛の怪人は立ち上がり、大きく叫び2人を見た。


「貴様らぁ……許さん」


 蜘蛛の怪人は2人に襲いかかった。


「こいつは俺に任せろ、焔はあっちを」

「おう」


 蜘蛛の怪人は鬼丸に襲いかかる。

 それを鬼丸は華麗に避け、蜘蛛の怪人の腹に蹴りを放つ。

 蜘蛛の怪人は着地に失敗し、転がるがすぐに体勢を整え、鬼丸の足に蜘蛛の糸を吐き、絡めとる。

 しかし鬼丸はそのまま脚力で蜘蛛の怪人を引っ張り上げ、橋の上に激突させた。

 蜘蛛の糸を切り、鬼丸は翼を広げて上へ飛んだ。


「何故魔獣であるお前が……人を守る……」

「俺は……大切な物を無くした。だから誰かの大切な物を守る。あいつは、大切な物がいっぱいあるからな。守らなくちゃいけない」


 蜘蛛の怪人は手から出した卵を孵化させ、小型の蜘蛛を生み出した。

 その小さな蜘蛛達は糸を出しながら鬼丸の身体にくっつく


「うわきもぉ……」


 鬼丸はすぐに手で払うが、よく見ないと分からない細い糸が絡み合い、蜘蛛の怪人に締め付けられてしまう。

 その糸は針金のように固く、じわじわと鬼丸を切っていた。


「ヤバっ……」


 蜘蛛の怪人はさらに締め上げる。

 鬼丸は解こうとするが、徐々に締めあげられ、切り傷からじわじわと血が垂れていた。


「このまま逝くか?」

「んな簡単に逝くかよばーか」


 鬼丸は羽を広げ、糸を緩めた。


「なっ」


 そして鬼丸は空へ舞い上がり、蜘蛛の怪人に両足のキックを放つ。


風神馬脚ペガサス・エクストリーム


 蜘蛛の怪人の腹に風穴が開き、そこから炎が上がり、そのまま消滅した。


「っし、焔を助けに行くか」


 その頃、焔と萌衣は何とか焔は萌衣の剣撃に耐えていたが、とても息が荒く、今にも倒れそうになっていた。


「やめて! 死んじゃう!」


 フレアが泣きながら焔に戦いを辞めせようと訴えている。

 そこに鬼丸が現れ、萌衣を蹴り飛ばした。


「あいつ……生き返ったか……ここはひとまず接近だな」


 そう言い残すと、萌衣は逃げ去った。


「あっ待て……」


 焔はそのまま意識を失った。

 鬼丸が人間の姿に戻り駆け寄って来た。


「大丈夫か! 焔!」


 その頃、犬飼とルナは小津山の廃墟に居た。

 犬飼は物を物色し、ルナは埃まみれの本を手に取り、読んでいた。


「わざわざあんな回りくどい方法でやる意味あったのかしら。魔獣に焔を殺させるなんて」

「でも、半分事実だ。問題ない。俺はあいつが嫌いだ」

「ああそう、私には関係ないわ」


 ルナはそう言うと少し咳き込んだ。

 流石にここは換気が悪すぎるのだが、本を読むのを続行した。


「俺は全ての魔獣を殺す、それなのにあいつは俺を英雄だと蔑ます。だから例え同じ青空の者だろうと殺す。でも、あいつは多分またペラペラなんか言って俺を揺さぶる。それが気に食わねぇ」

「ほぼ私怨じゃないの」

「忘れられるかよ……あの時の事を。思い出してくれよ……烏丸」


 犬飼は壁を殴った。

 壁にヒビが入り、砕けた。

 犬飼はここが何なのかを知っている。

 ここは孤児を育てる孤児院、青空だったからだ。


「焔……三幸みさきめ……」



 焔は何かを見ていた。


「どこだ……ここは」


 今自分はみんなで火を囲んでいる。


「懐かしい……」


 みんなで楽しく話をしている。

 みんなで何を話しているのだろう。

 みんな笑顔になっている。

 その中に1人女の人が居た。


「あなたは……」


 顔はよく見えなかったがどこか安らげて、まるで母親のような、寛容さを持っていた。

 焔は無意識の内にその人に手をさし伸ばしていた。


「……さん」


 その時、自分の手が禍々しい物に変わり果てた。

 




 目が覚めると、そこは病院だった。

 隣には鬼丸と雄一とくいなが座って居た。

 鬼丸の膝元にはカゴに乗ったメロンとりんごとバナナがあった。


「……くいな」

「おっ、起きたか、バナナ食うか?」

「早ぇよ、ってか食わねぇよ。腹減ってねぇし」

「そうか、ところで焔。この子誰?」

「雄一から話聞いてないのか?」

「いやぁ……あんまり言っていいのかなって勝手に付いてきたみたいだし、お客さんにそう言うの言うのはなぁ……って」

「構わねぇよ、別にこいつとは付き合いが長くなる気がするからな。あいつは霧峰くいな、俺の親友の妹だ。前までは、無鉄砲な女の子だったんだけどな……」

「何かあったのか?」


 すると、くいなは呟いた。


「…………思い出したくない」


 焔は喋るのを止めた。


「……後で話す」


 鬼丸は多少なりとも事情は察せた。


「そういう事か……」


 部屋に重たい空気がのしかかる。

 雄一はとりあえず持ってきたケーキを取り出した。

 綺麗なホールケーキでいちごが円形に8個乗っている。


「まあまあみんな、落ち込んでないでケーキでも食べてさ、明るく行こうよ」

「良いのか?」

「おっ美味そう」

「でしょ〜最近いちごが実っててさ、頑張ったんだから」


 4人は仲良くケーキを食べ、その場の空気は暖かくなった。

 ドア越しに結衣が居ることなど全く知らずに。


(やっぱり……そんな訳……無いよね)


 同時刻、とある教会。

 入口から正面には聖母マリアをかたどったステンドグラスがあり、長椅子が並び作られた白い1本の道があった。

 そして1人の女が、奥に置かれた、ある鎧を見ていた。


「そろそろ……動かなければ……」


 その鎧は中世の甲冑のようなものではなく、白い機械のような、パワードスーツとでも言うべき物だった。


「頼みます……坂崎井草さかざき いくささん」


 その瞬間教会の扉が開き、1人の男が立っていた。


「正義は、我にあり」


 今、聖なる戦士が動き出す。

 To Be Continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る