第4章 最悪な名前
「全ての魔獣は……俺が狩る」
そういうと犬飼は白い髪の男の顔面を殴り飛ばす。
さらに殴られて、倒れた兄の頭を片手でつかみ、さらにそのまま殴り続ける。
「兄貴ぃ!!!!」
弟は犬飼に蹴りを放つが、全く効いている気配が無く、犬飼が弟の方を向くと、兄を投げ捨て、弟の腹に拳を放つ。
弟は腹から胃液が逆流し、吐き気を覚えた。
しかし、何とか耐え、背中の翼で空を飛び、兄を抱いて逃げ出した。
犬飼は舌打ちし、篭手は少女に戻った。
「2人同時は……無理か」
少女は咳き込みながらサイドカーに乗り、犬飼もバイクに乗った。
「追いかけるぞ、ルナ」
「いいけど、最近無理してない?」
「……んなわけねぇだろ」
犬飼がバイクのエンジンをかけようとした時、焔が声をかけた。
「おい! そこの2人、ちょっと話がある」
「なんだ……お前」
「用なら早く済ませて欲しいわ。私は今からまだらの紐読みたいのよ」
「いや、そのなんて言うか……」
焔は斐川の方を見る。
斐川はとりあえず口笛を吹いて自分は無関係なフリをしていた。
「野郎っ……」
「話はなんだ早く言え」
「あっ……ついてこい」
焔は2人を連れてメモリアに戻ってきた。
斐川はそのままどっかに消えてしまったが、焔はとりあえずあいつの事は無視しようと思った。
そもそも犬飼は全ての魔獣を狩ると発言していたりするので斐川も獲物の対象である。いつ殺されてもおかしくは無い。
とりあえず今は身を引いたのだろう。
そう焔は脳内で補完した。
店内に入るとフレアがココアを飲んで休憩していた。
そして、入ってきた2人を見るな否やフレアは驚いた。
「る、ルナ!?」
「あら、フレアじゃないの」
「フレア知り合いか?」
焔が問うとフレアは首を縦に振った。
「まぁそりゃ……」
「あの時から離れ離れかと思ったけどこんな所で会うとはね……ってかなんで喫茶店の店員なのよ。金欠なの?」
ルナはその後に少し咳き込んだ。
「まぁ色々あってこうなのよ。って言うかルナの喘息は治らないのね。篭手なのに」
「悪かったわね。げふっ……喘息で」
犬飼はそんな2人の会話を無視し、カウンター席に座っていた。
「おめぇ、さっさと要件を話せ」
焔は隣に座り、フレアから出されたコーヒーを飲んで言った。
「見ての通りなんだが……俺もあんたと同じなんだ。だからさ、まぁ事情を聞きたくて」
犬飼は改めて焔の顔を見ると、こう言った。
「そうか、って言うかお前……前に会ったことあるだろ。俺と」
「……は?」
突拍子もない返答に、焔は思わずキレ気味に返してしまった。
「青空の事……覚えてないのか」
「青空……なんの事だ?」
「とぼけてんじゃねぇよ……俺も曖昧だが、青空での出来事は忘れるわけがねぇ」
「……すまん、俺記憶喪失なんだ。8年前の記憶が全くなくて」
「なら教えてやる。俺は犬飼裕二。思い出す節はあるだろ?」
「……いや全く」
「本当に言ってるのか……」
「ああ」
犬飼は焔の胸ぐらをつかみ、殴ろうとした。
しかし、寸前の所でルナが脇腹を殴った。
犬飼はそこまで痛くなさそうだったが、犬飼は焔を離し、飲んでいたミルクココアを飲み干した。
「……名前は覚えてるのか」
「んだよ、いきなり胸ぐらを掴んで……まぁいい。俺は焔三幸だ」
「……焔」
「ああ、俺が記憶を失う前に持ってたハガキにそう書いてあったからな、そこから取ったんだとよ」
犬飼は呆れ、高らかに笑った。
「……んだお前急に笑いやがって」
「いや、ただ俺が1番恨む相手の名前になってるとは……思わなくてな。一つだけ言っておく。その名はお前にとって最悪だ」
そう言い、犬飼は1000円札をカウンターテーブルに置いた。
「釣りは要らん、行くぞルナ」
「休憩が早いんだから……悪かったわね。裕二は、私が居ないと駄目だから」
ルナは去り際に2人にそう言った。
結衣は、とある青年と出会っていた。
「君、魔獣?」
その青年はそう言い、結衣の隣で寝る。
「いい日光だね、ここ」
「う、うん」
「さっき、内山くんにあったよね?」
「え……まぁ」
「なんか、悪かったね。みんながみんなああじゃないからさ」
「……はぁ」
結衣は彼に少しだけ親近感が湧いた。
距離は確かに近いが、そこまで圧迫感は無く、むしろ優しく、とても話しやすかった。
「僕も魔獣だけどさ、人は選んでるんだ。死にたい人とか、この先年老いてみんなに迷惑をかけたくない人。そういう人なら、魔力を食べて死なせても罪悪感は無い」
「そう……だね」
「君もそうしろって訳じゃ無いけどさ、魔獣でも生き方はそれぞれだから」
結衣は少しだけ考えを改めた。
魔獣は魔獣として生きなければならない。
でも、自分は人間として生きたい。
中途半端だけど、自分は自分である事に変わりは無い。
結衣は起き上がり、背伸びをして体を解した。
「私、霧峰結衣。あなたは?」
「僕は
「私、ここに居候してるよ、私の生き方を……見つけたいから」
結衣は自分の生き方を探し始めた。
夜も更け、下弦の月が光り輝く工場近くの道を犬飼はルナを乗せてサイドカーを走らせていると、一人の男が目の前に立ち塞がった。
「今日はやけに……絡まれるな」
それは斐川だった。
「俺も話がある。さっさと終わらせたいんで。言う。俺らみたいな、人を食わない魔獣は、殺さないでくれないか?」
犬飼はバイクから降りる。
「俺は、俺の信念でやってんだ。てめぇらの事情なんざ知るか。お前も死にたいのか?」
「死にたくはない……でも……どうしても無理というのなら……人を食う魔獣を倒してくれる君を……殺すしかない」
斐川は魔獣に変身し、犬飼に襲いかかった。
犬飼はすぐに避け、ルナは篭手に変身し、犬飼の両手に装着される。
犬飼は篭手で斐川の攻撃を防ぎ、押し返す。
斐川は受身を取り口から黒い魔弾を吐き出す。
犬飼はそれをはじき飛ばし、周りに魔弾が飛び散り、地面に焼け跡がつく。
「どうしてそこまで魔獣を殺す」
「俺は許さない……あの女を……青空を」
犬飼は斐川の腹に拳を放つ。
斐川をそれを受け止め、手刀で犬飼の左腕をへし折ろうとした。
しかし、その寸前に犬飼は左腕で斐川の首筋に手刀を放ち、斐川は受け止めた右腕を離してしまう。
斐川は息が詰まり、その場に倒れ込む。
犬飼は追い討ちをかけるように斐川の脳天に拳を放ち、斐川は地面に顔面が埋もれる。
「どうした? その程度か」
斐川は、魔獣の中では自分は非力な存在だと自覚していた。
斐川はガーゴイルと言う魔獣である。
ただ屋根につき、雨樋の役目を果たす。
ホラーなどの作品では動き出し、人々を襲うが、それはそういう魔物の修正ではなく、なにかの使い魔か魔力を与えられた人形でしかない。
そんなにガーゴイルのように、斐川はただ人間を見守る存在になっていた。
だが、人々を襲わない魔獣は同族に嫌われていた。
特に魔獣としての生き方を勧める青空の魔獣達は彼らを嫌っていた。
斐川は立ち上がり、翼を広げ突風を起こした。
周りの草が飛び散り、犬飼は顔を腕で覆った。
「野郎……」
突風が止むと、そこに斐川の姿はなかった。
斐川は、メモリアに逃げ込んでいた。
ゾンビのような動きでメモリアに入った斐川は、カウンター席に腰を下ろした。
いつもは聞かないクラシックの音楽を珍し聴いていた焔はすぐの駆け寄り、事情を聞こうとした。
「どうしたんだよお前」
「……いや、少し喧嘩しただけだ」
そう言いながらも斐川は少し咳き込んだ。
抑えた手の平には血が付いていた。
「……お前まさか……あいつに」
「……あいつはお前みたいに甘くないんだよ……少しやんちゃしただけだ。お前が気にする事じゃ……ない」
斐川はそういうとメモ帳を胸のポケットから取り出し、何かを書いて、1枚ちぎり、それを机に置いた。
「
メモの内容はこう書いてあった。
『狩人を止める』
そういうと、斐川はメモリアを去ってしまった。
「ちょっ、お前待てっ! フレア!」
2階からフレアが降りてくる。
「なに……今日は色々騒がしいわね……」
「ボケっとしてねぇでさっさと行くぞ! あの野郎……死ぬ気だ!」
「さっきの男の人?」
フレアがそう聞くが、焔はフレアの手を無理やり引っ張り、メモリアを出た。
斐川は体を引きずりながら、河川敷の傍の道を歩いていた。
日も沈み、空が暗くなり、空には蝙蝠が飛んでいた。
すると、高架下で焚き火をしていた犬飼を見つけた。
「あいつを……止められれば……」
斐川が高架下に向かおうとした時、反対の方向から何かがきた。
それは、焔といた時に目の前に現れた白髪の男だった。
男はバイクから降りると早々に魔獣に変身し、頭の角を剣を変え、手に持ったフェンシングの構えをとった。
「あの時の屈辱……晴らしてくれる」
犬飼が両手をあげるが、ルナは篭手に変身しなかった。
「……無理よ、もう体力が持たない」
「あの姿にはならん」
「……駄目よ、逃げるわ」
「仕方ない……食事にするか」
そういうと、犬飼は猟犬のような怪人の姿に変わった。
しかし、肩にも犬の頭を模した様な肩のアーマーが付いており、ケルベロスのような怪人と言うべきだった。
「……知らないから」
ルナは建ててあったテントに籠った。
犬飼は大きく夜空に雄叫びをあげ、白髪の男に襲いかかった。
白髪の男は剣で犬飼の爪を防ぐが、そのまま押し倒され、地面を引きずられる。
そして川に投げ飛ばされ、川に落ちた。
斐川はすぐに魔獣に変身し、白髪の男を助けようとしたが、斐川に気づいた犬飼が手から鎖を出しそのまま投げ飛ばし、高架下の橋の柱に斐川は激突する。
犬飼は川に落ちた白髪の男の首を掴み、そのままへし折った。
白髪の男は吐血し、体が燃え始めた。
「貴様……魔獣なのか……」
「まぁな……だから、俺も死ぬ気で魔獣を殺す」
白髪の男は剣を手から離し、脱力する様に消滅してしまった。
白髪の男から出た炎は、犬飼が食いつくした。
「……後味悪ぃな」
するとそこに、焔とフレアがやって来た。
「あれは……」
「魔獣……だけど」
「とにかく、止めるしかねぇ」
フレアは剣に変身し焔が剣を持ち、犬飼に切っ先を向ける。
「お前、何をしてる」
「……お前らか、懲りないな」
「その声、犬飼か!?」
「醜態晒しちまったな……まぁ、お前のせいだけどな」
犬飼がすぐに間合いを詰め、焔の腹に拳を放つ。
腹から空気が抜け、焔は息が出来なくなり、吹き飛んで地面に転がる。
焔は咳き込み、手放してしまった剣をもう一度握ろうとしたが、その前に手首を犬飼に踏まれた。
あまりの脚力の強さに、まるで車に潰されているようで、いつ折れてもおかしくなかった。
「お前も魔法少女を使うんだろ? ならやってみろよ。俺をな」
「お前は……あくまで止めるだけだ」
「は?」
「どんなに口が悪かろうと、お前がやってることは人間にとっては、英雄なんだよ。でもな、俺はお前を英雄とは思わない。英雄ってのは、守る物だけじゃなくて。倒すべき悪にも、認められなきゃな」
「……俺は、そんなヒーローごっこのつもりでやってんじゃねえんだよ!」
犬飼は焔の顔を蹴り飛ばした。
焔は鼻血を垂らし、川に落ちた。
フレアは1回変身を解き、焔の元に駆け寄った。
「焔!」
「フレア……だったか? そいつはもう動けねぇ。さっさと帰れ。後、こいつに言っておけ、俺は正義の味方ごっこをしてるんじゃない。ただ死ぬ気で狩りをしてるだけだってな」
「あんた……同じ魔法少女使いとしておかしいんじゃないの」
フレアは拳を握りしめて犬飼に殴りかかった。
しかし、そのか弱い拳は犬飼にあっさりと受け流される。
「お前1人じゃ何も出来ないだろ」
犬飼はフレアに膝蹴りを放つ。
フレアは嘔吐し、そのまま倒れる。
犬飼はそのままテントに戻り、寝ようとしたが、まだ1人居た。
斐川だった。
「頼む……人々を襲わない魔獣は……殺さないと誓ってくれ」
瀕死の体で斐川は懇願していた。
だが、犬飼はそう甘くなかった。
犬飼はゆっくりと近づき、拳を放った。
拳は、斐川の胸を貫いた。
斐川の体から炎が燃え盛る。
「そうか……それが……お前の…………選択か……」
そのまま斐川は消滅した。
炎は犬飼に吸い込まれる。
「……くそ不味ぃ魔力だな」
犬飼はそう言うと人間の姿に戻りテントに入って、眠りについた。
To Be Continued
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