芸術に溺れる者達は

春海レイ

花の中に

私は花が嫌いだ

何故なら兄は花に連れていかれたから

私は絵が嫌いだ

何故なら兄はそれに殺されたから

美術館の絵を見たながら私は思う。人は人の絶望に感動するのだろうか、

あの絵を見た時、兄はどんな表情をしていただろうか、あの時、兄はどんな事を言っていたっけか、

確か、肌寒くなってきた秋のことだった。

__________________

「兄さん、公園なんかに連れてきてどうしたの?」

私は兄に質問する。

「おう!今日ここにあるアートハウスで色々な人が描いた作品が展示されるんだ!」

兄はまるで動物園に向かっている最中の子供のような表情を浮かべている。

正直、私に芸術はわからない。だが、今兄は受験期でかなりストレスが溜まっているだろうし、これくらいに付き合えと親に言われ、ついてきた。

正直もう帰りたい。

「でもここ公園じゃなくて山なんだよ」

「へぇ、こんなに低い山あるんだ」

「アートスタジオは山のてっぺんだから結構たどり着くまでに時間がかかるかもな」

そんな雑談をしながら兄を一緒に階段を歩く、しばらくすると小さい建物が見えてきた。二階建てで、入口の外に卓球台が置いてある。


兄が建物の中に入っていくのを追うように私も入っていった。


中に入るとおしゃれな空間が広がっていた。まるでホテルのロビーのような空間が広がっており、左右には交流スタジオと書かれた部屋とスタッフルームがある。そして奥に見える窓からは綺麗な紅葉が広がっていた。


兄が受付の人に何かを話したかと思うと受付の人とこちらにきて番号のような物を話した。

「これがあったらスタジオに入れるから、彼方は先にプロの絵が飾ってあるスタジオに行ってくれ。俺は作品を見せ合う閲覧会っていうのに参加してくるから」

「わかった」

そう言って兄は部屋に入っていった。

「弟さんですよね?展覧室は右奥の部屋ですのでごゆっくりお楽しみください」

そういうとスタッフの人はスタッフルームへと戻っていった。

さて、どうしよう。私は美術には興味はないし、かと言って卓球をやろうにもひとりだからできない。

となると

「探検するか」

建物を探検することにした。この建物の一階部分はもうほとんど見たが、2階部分は何があるかまだわかっていない。

私は階段を探すと、喫煙所みたいな部屋から階段が続いているのを発見した。

私がそこを登ると、ホテルのような場所が広がっていた。部屋は7つあり、ほとんど閉まっていたが奥の部屋が空いていた。

好奇心旺盛だった私は、迷わず奥の部屋に入りにいった。そこはベットと机しか置いてない質素な部屋だった。

「なんだ、ここ」

私がそう思っていると、何かをつまづいて転んでしまった。

「いてて…」

転んでから気がついた。ベットの下に何かがあることに、私はそれをベットの下から取り出し、机の上に置いた。

絵だ、ピンク色花の絵が描かれている。タイトルは

「タチアオイ」

「おーい!何してるんだ?」

その時だった。兄が自分の真後ろから話しかけてきた。

「1時間も何してるんだ?探したぞ」

「1時間!?」

ここにきて、もう1時間立っていたらしい。

「何をしてるん…だ…」

その時だった。兄がタチアオイの絵を見た瞬間、膝をつき、涙を流し始めた。

「はっ…はは」

兄が笑い出したかと思うと、兄は私を連れて急いでスタジオから出た。

そこから暫くして、兄は自殺した。あの目の前で、私はいまだにあの絵を見つけてしまった事を後悔している。

兄は何を感じたのだろうか?嫉妬、絶望?それとも魅入られたのだろうか。

今の私にはわからない。

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芸術に溺れる者達は 春海レイ @tanakazaurus

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