第23話 新天地

 翌日、さっそく占い師として働き始めるために、サクルの店へと向かう。

 細かい条件を決めるため、約束の時間よりも早く向かう。

 

 サクルの店はトゥイーリの足で歩いても10分程のところにある。店に到着し、ドアを開け、

「こんにちは!」

 と声を掛けて中に入る。

「やぁ、いらっしゃい。今日から宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願いします。さっそくなのですが、細かい条件を決めたいのですが」

 マレはサクルに話す。

「とりあえず、奥にどうぞ」

 トゥイーリとマレは一礼し、中に入った。

 

 店の奥には事務室があり、そこに3人で座り話始めた。

「こちらの条件としては、週に3、4回午後、場所を貸していただき、その日の売り上げから10パーセントを場所代としてお支払いする、ということなのですが、いかがでしょうか?」

「場所代はいりません」

「いや、しかし……」

「この国にきたばかりで、宿泊費も食費もかかるでしょう。もしかしたら、病気になるかもしれませんし。そうなったら、少しでも手元に多くお金を残さないと不安になりますよ。ああ、それと家を借りるとなれば保証人にもなりますので、いつでも相談してください」

「心遣いに感謝します。本当にありがとうございます」

 マレは頭を下げる。

「いえいえ。それに、ガラス細工を見てもらうきっかけにもなりますから、商売をひろげることができるかもしれませんしね」

 サクルはから、と笑った。

「昨日の反応を見れば、あっという間に噂が広がるでしょう。ガエウの時と同じく、行列がたえない日々になるでしょうね」

 サクルは楽し気に笑みを浮かべている。

「場所についてなのですが、どこをお借りできますか?」

「ああ、すみません。表の売り場の横に使っていない部屋がありまして、そこはドアもありますから、自由に出入りできます。案内しますね」

 サクルは立ち上がり、売り場へと歩く。トゥイーリとマレもその後を追う。

 

 売り場の横にあるドアの鍵を開けて、

「こちらの部屋なのですが、どうでしょうか?昔商談の場所として使っていたのですが、最近は事務所のほうで行うことが多くなったので、使わなくなってしまったのですよ」

 サクルが見せてくれた部屋は、正面に窓が大きく取られていているが、窓の上半分はいろんな色のガラスが何か模様を作っているかのようになっていた。

「この窓の上半分はステンドグラスといって、色付きのガラスで絵を描いているのです。この部屋のステンドグラスは夜空に輝く星と月をイメージしているのです」

 そう言われてよく見ると、黄色のガラスで三日月が、白色のガラスで星が、藍色のガラスで夜空が表現されていて、太陽の光で部屋の中にきれいな色を落としている。

「きれい……」

 うっとりとした声を出してトゥイーリは窓を見つめていた。

「この部屋を使ってもいいのですか?」

「ええ、もちろん使ってください。窓の横のほうには外に出られるドアがあります」

 とサクルは部屋の中にはいり、大きな窓の右側にあるドアのカギを開けて外の風景をみせた。

「十分すぎる場所です」

 マレはふと、猫の姿でこの部屋から出て、この町の情報を集めることもできるな、と考えた。

「よかった。昨日掃除して、机といす、それに待つ人用にソファを設置しておきました」

「準備して頂き、ありがとうございます」

 マレはサクルにお礼を伝えた。

「今日の午後から昨日の客の何人かくる予定になっています。さっそくお願いしますね」

 サクルは部屋の鍵2種類を渡し、出て行った。


「さて、準備を始めますか」

 トゥイーリは部屋を見回し、机の位置、ソファの位置をマレと一緒に直していく。

 準備が終わったところで、サクルに声を掛けて、ルアール国でも使っていた看板を机の上に掲げた。


「こんにちは、サクル。占い師はきているか?」

「やあ、ルトゥフさん。準備ができていますよ。その横の部屋だ」

「じゃあ、さっそく」


 部屋のドアを開けているので、店の中の会話が聞こえる。

 トゥイーリとマレは椅子から立ち上がり、ルトゥフを迎え入れた

「初めましてだな。俺はルトゥフと言って、この町で農作物を育てているんだ」

「初めまして、ルトゥフさま。占い師のアリーナです。農作物、ということは天候に関わることが知りたいのでしょうか?」

「それもあるのだが……」

 言葉を濁し、少し沈黙したあと、

「この国について占ってほしいんだ」

「この国の未来ですか?」

「あぁ、そうだ。この国は20年前位までは傲慢な国王が治めていてな。天候不良で農作物が収穫できなくても何も考えてくれなくてな。そのくせ、変わりなく税は搾り取られて、民がだいぶ苦しんでいたんだ。今の国王になって状況が変わったといえ、この先もまた同じことが起きないとはいえないだろう、と思ってな」

「なるほど……この先飢饉が訪れるか、その時、国はどう対応するかを占えばいいでしょうか?」

「そうだな。それでお願いする」

「かしこまりました」

 アリーナはタロットカードを手元に引き寄せ、集中力を高めながらカードをシャッフルしていく。ぴん、ときたところで、シャッフルを止めて、その中から4枚のカードを選ぶ。

「……結果が出ました」

 アリーナは一息つき、カードを見つめ、そこから結果を読み取る。

「5年後くらいでしょうか?天候不良による飢饉は訪れるだろう、とカードは伝えています。その時、国王は民を思い、その時にできる手段をすべて実行し、民を見殺しにすることはないとも伝えています」

「そうか……」

「続いて1年以内の天候と収穫量についてですが、天候については天候不良もなく平均的な年になる。収穫量も今年と変わらないだろう、とカードは伝えています」

 ルトゥフは安堵した顔を見せた。

「それと、これは個人の占いの結果について言っていることなのですが……結果に安堵し、努力を怠ればその分、自分に返ってきます。努力を怠ることなく日々生活していけば、結果以上のこともあります」

 ルトゥフは小さく頷いた。

「ありがとう。心のとげが抜けてすっきりとした。そうだな、結果に満足して手を抜いてしまえば悪い結果にしかならないよな」

「はい。いつも通りの生活を送ったのならば、得られる結果なのです」

「ありがとう。よし、また明日から頑張らないとな」

 ルトゥフは満面の笑みを浮かべ、料金を支払うと足取り軽く帰っていった。

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