第22話 情報収集

 準備を終えて、マレは宿屋から町の中へと歩いていく。

 トゥイーリは部屋で留守番をしてもらった。


 明るい光の中で見る町は全体的に赤っぽく感じた。

 道は石で舗装されているが、家や商店が赤レンガ造りのためだろう。


 マレは町を歩いている人を捕まえ、評判の食堂と市場、それと工芸品を売りたいのでどこで売れるか聞いて回った。


 食堂は町全体にいくつもあるが、市場近くのサラーマという食堂が評判がいいとのこと。食堂の場所と市場の場所を教えてもらい、食堂に行ってみることにする。


 宿からも歩いて10分もかからないところにその食堂があった。

 さすがに評判がいい、と言われるだけあって、昼前なのに客が数人外で待っていた。

 トゥイーリより先にご飯を食べるのは気が引けるが、偵察のため、と言い聞かせ食堂の待ち行列に加わろうとした時に、ふいに名前を呼ばれた気がした。

(ザラール国で、俺の名前を知っている人はいないはずだよな……)

 心の中で疑問を感じ、聞き間違えだろうと思い、なおも歩こうとすると、やはり名前を呼ばれている気がしたので、声のしたほうを振り向くと、どこかで見たような人がいた。

 黒い髪の黒い瞳でがっしりとした体形の若い男性が、

「マレさんですよね?ガエウの食堂にいた」

「ええ」

 戸惑い気味に答えると、

「ああ、すみません、突然声を掛けてしまいまして。私、ルィスのガエウの食堂の常連客でしてね。たまに来ているマレさん親子……ガエウにお名前を聞いたのですが、娘さんの占いがすごい、といつも言っていて、いつか占ってもらおうと思っていたんですよ」

 男性は目を輝かせながら話している。

「ああ、すみません、自己紹介がまだでしたね。私はサクルと言いまして、ガラス細工の店を開いています。この国のガラス細工は近隣国でも評判がよくて、時折、ルアール国の貴族様から注文が入り、私が直接届けに行っているんです。その時にガエウの店で食事をすることがあるんです」

 サクルはマレを知っている理由を一気に話した。

「なるほど。そうでしたか。覚えておらずに申し訳ないです」

「いやいや、こちらこそ突然声を掛けてすみませんでした。娘さんはどちらに?」

「宿で休んでいます」

「そうでしたか。もし、よければうちの店にきて、占いをして頂けますか?ああ、今日じゃなくても大丈夫です」

 マレは少し考え、

「わかりました。明日はいかがでしょうか?」

「明日でしたら、午後なら大丈夫です」

「そうですか、では、明日午後にお伺いさせて頂きます。そうだ、一つ相談なのですが……」

「なんでしょう?」

「この町で占いをしたいのですが、そういった場所や占いをする習慣があるか、明日聞かせて頂けないでしょうか?」

「それくらい、喜んで。占いは、商売人の男性が気にしますね。穀物を商売としているなら、天候や取れ高を気にしていますしね。あとは、私のような隣国に行くような人間も天候を気にします」

「なるほど……お忙しい時にお話しを聞かせて頂きありがとうございます」

「なんのなんの。じゃあ、明日店で待っています」

 サクルは店の場所を教えると、仕事の途中なので、と足早に去っていった。

 マレはその後ろ姿をみて、

「罠じゃないことを祈ろう」

 とつぶやいた。


 食事を断念していったん宿に戻り、トゥイーリに先ほどの出来事を報告する。

「そっかぁ。天候は確かに気にするかも。そういう人相手にできればうまくこの町でやっていけるかな?」

「あとは、評判が上がればだな」

 二人して、うんうんと頷いた。

「とりあえず、明日だな」

「準備しておきます」

「町を歩いてみるか?」

「あっ、そうか、換金しなきゃ」

 急いでルアール国からもってきた布地をカバンに入れて、マレと一緒に宿を出る。


 先ほど町の人から聞いた工芸品を売れる店は宿のすぐ近くにあった。

 レンガ造りの店でトゥイーリは木製のドアを開けた。

「こんにちは」

「いらっしゃい。何をお求めかな?」

「いえ、購入ではなく、こちらの布地を売りにきたのですが、買っていただけますか?」

トゥイーリはカバンの中から、鮮やかな色の布地を2巻きほど取り出し、店主に見せた。

「ほぅ、これはルアール国で織られた布地だね。色が鮮やかで美しい布地だ」

 店主は手に取り丹念に布地を調べた。

「これなら1巻き5,000ノコード、2巻き11,000ノコードでどうだろうか?」

「ありがとうございます!」

 店主は満足げに頷き、カウンターの下からお金を出す。

 トゥイーリはそれを受け取り、カバンの中に入れてあるポーチにしまい込む。

 これで1か月位は過ごせるだろう。

「またきますね」

 と声を掛けて店を出た。


 そのあと、市場近くの評判のいい食堂で遅めの昼ご飯を食べ宿に戻った。


 次の日の午後、約束された場所にきたのだが、人が多い気がした。

「何かあったのかしら?」

 不安になりながら、サクルの店へと近づく。と人込みの中から、

「あっ、マレさん、いらっしゃい!」

 とサクルが声を掛けてきた。

「こんにちは、サクルさん。何かありましたか?」

「いやいや、昨日マレさんに会ったあと、知り合いにすごい占い師と会うんだと話したら、興味を持った人が集まってしまって……」

 申し訳なさそうな声で理由を話した。マレは安心した声で

「そうでしたか」

 と返した。そして、

「アリーナ、挨拶を」

 とアリーナを促すと、

「みなさん、こんにちは!」

 と元気よく挨拶した。

「占いはどこでやればいいですか?」

 とサクルに問いかけた。その質問に集まった人はざわめき始めた。

「お嬢ちゃんが占い師なのかい?」

「はい。占い師です」

 アリーナの答えにまたざわめく。

「そうなんだ、すごい占い師というのが、アリーナちゃんなんだ」

 サクルの答えで集まった人からは、好奇心の目で見られているが、アリーナは気にせずに、

「あの、場所は?」

 と再度聞いた。

「ああ、ごめんなさい。店の中にどうぞ」

 とサクルの店の中へと案内されるが、数人が一緒に中に入っていった。


 お店の中に入ると動物の形をしたガラス製品などの売り場があり、その一角の作業机の上に色とりどりのガラスが色別に並べてあり、小さく割ったものなどが無造作に置かれていた。

 サクルは作業机の上を少し片づけ、その後アリーナを座らせた。

 アリーナはカバンから、タロットカードと水晶玉を取り出し机に置くと、

「どんなことを占いますか?」

 と聞いた。

「じゃあ、小手はじめに、先月のこの国がどんな天気だったか教えてほしい」

「わかりました」

 アリーナはタロットカードを使い、シャッフルしながら集中力を高めていく。

 シャッフルを終えて、その中から、カードを2枚取り出した。

「……答えが出ました」

 その一言で店の中にいる人の視線が一斉にアリーナにむかう。

「先月はおおむね晴れている日が多かったのですが、10日頃でしょうか?10日の午後から雨が降っていたようです。その雨は2日ほど降り続いたと出ています」

 一人の男が懐からノートを出し、天気を確認していた。

 確認が終わると、

「そのとおりでした……10日から雨でした……」

 と呻き声が上がっていた。

 その結果にアリーナは安堵し、店の中の人からは驚きの目で見られていた。

 サクルは、ドヤ顔で、

「すごい占い師だろ?」

 と話す。

「俺も占ってほしいな」

 という声があちこちから上がるが、なぜかサクルが場を仕切り、

「今日はもう終わりだよ。明日以降、この店の中で占ってもらうから予約していけ」

 と声を掛けた。

 アリーナもマレもきょとんとしてしまったが、

「ここをお借りできるのですか?」

 とマレが聞くと、

「使ってくれ」

 といい笑顔で答えが返ってきた。

「ありがとうございます!」

 アリーナはお礼を伝えた。

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