第14話 思惑
窓のカーテンの隙間から入る太陽の光で目が覚めたトゥイーリは寝ころんだまま、大きくのびた。
その反動か近くで眠っていた猫のマレも起きたようだ。
「マレおはよう」
トゥイーリの元気な声にほっとしたマレは
「おはよう。体調は良さそうだな」
「うん、大丈夫。これからエンゾさんの占いよね?水晶を浄化しないと…」
ベッドから出たトゥイーリはカバンの中から袋に入れた水晶玉とタオルを取り出し部屋の中にある浴室に向かう。
蛇口をひねると水が出たので、そのまま水晶を水の下にいれて流水を水晶にあてた。
5分程そうして、水晶に透明感が戻ってきたところで水を止めタオルで水分をぬぐう。
(そうだ、太陽でも浄化できる、って言っていたから、太陽にも当てましょう)
マレはトゥイーリが浴室に向かったのを確認して、人間に変身し着替えた。
カーテンを開け、太陽の光を目いっぱい浴びるのは気持ちのいい時間だ。
太陽を浴びながら、ぼんやりとしていたところでトゥイーリが戻ってきた。
「太陽に少し当てようと思って」
と言って、窓の近く、太陽の光が当たる場所にカバンを置き、その上に水晶をのせた。
5分ほど水晶玉を日光浴させて、日陰に戻し、水晶玉専用の袋に戻した。
そこにドアをノックする音が聞こえた。
「おはようございます。朝食の準備ができましたわ。ぜひ食堂にいらしてください」
エレナが顔をだし、食堂へと誘う。
「おはようございます、エレナさま!今行きます!」
トゥイーリは元気よく答えた。
「ええ。食堂でお待ちしていますから、ゆっくりと準備してくださいね」
エレナは笑いながらドアを閉じた。
「…着替えるの忘れていた」
朝食は大盛りの野菜サラダとソーセージとスクランブルエッグにパンと品数は多くないがボリュームがある。
マレに少し食べるのを手伝ってもらい、朝食を終えた。
朝食後、いったん部屋に戻り、タロットカードと水晶玉を抱えて応接間に入るとそこにはマレとエンゾ夫妻以外にロレンゾがいた。
「ロレンゾさん、おはようございます!」
元気よく挨拶するアリーナにびっくりしたのが、目を大きく見開いている。
「アリーナ、おはよう。元気がいいな!エンゾがべた褒めする占いを見たくて朝早くからきてしまったよ」
笑顔で来訪理由を語った。
「アリーナ、こちらへ」
エンゾに促され、部屋の中央にあるソファに案内された。
アリーナは浅く座ると、真正面に座るエンゾを見て、
「ご相談はなんでしょうか?」
と尋ねた。
「いつものをお願いする」
「この国の天候ですね?」
と言って、タロットカードを手に取る。
集中力を高めていき、ピークになったところでカードを混ぜる。
(今だ)
そこで混ぜるのを止め、カードを3枚とりだし、テーブルの上に並べる。
「……出ました。今月は穏やかな天候が続きますが、来月と3か月後は……」
アリーナは表情が曇る。あまり良い結果が出ていない。
「……来月は天候がかなり荒れ、雪の日が多くなり、3か月後は雨と雪が多く晴れ間は少なく、寒い日々が続きそうです。そして…川が氾濫すると出ています……」
その結果にマレはひとり青ざめる。いや、この場にいる全員が青ざめているだろう。
重い沈黙が流れる。
「わかった」
エンゾの一声が静かに部屋に響いていた。
今までの占いの中で一番最悪の結果が出たことに少なからずショックを受けたアリーナだが、
「あくまで、今日の結果は、ということです。しばらくして占ったら別の結果になるかもしれませんし」
少し明るめの声で言うが、その声はかすかにふるえていた。
(この結果がはずれてくれますように!)
アリーナは祈ることしかできなかった。
重い雰囲気を破るかのようのエレナがお茶を持ってきてくれた。
温かい紅茶でアリーナも体のこわばりが溶けていくのを感じ、すこしずつソファに沈み込んでいった。
「アリーナちゃん、また家に遊びにきてね」
エレナは寂し気な笑顔を浮かべ、アリーナを玄関で見送る。
「エレナさん、いっぱいお世話になりました!お料理、ほんとうに美味しかったです!」
「ありがとう。はい、これ。持って行って。そして、いつかこの布を返しに我が家に来てね」
と布に包まれた物を二つ持たせてくれた。
「これは?」
「サンドイッチを作って詰めたの。馬車の中で食べてね」
エレナの心遣いがありがたく、涙がこぼれそうになる。
「本当にありがとうございます!絶対に返しにきます!」
「待ってるわ」
二人で抱き合ってエレナと別れた。
停車場までは、エンゾとロレンゾが一緒に来てくれた。
「アリーナ、占ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ、エンゾさんとエレナさん、そしてロレンゾさんにはたくさんお世話になりました。本当にありがとうございます」
「気を付けて行ってこい。旅が辛くなったら、いつでもここに帰ってこい」
「はい」
エンゾの心配してくれる気持ちが伝わり、涙が出る。
「今度帰ってきたら、俺も占ってくれ。約束だぞ」
「はい!ロレンゾさんの相談にのります!」
「エンゾさん、ロレンゾさん、この度は本当にお世話になりました。二人のおかげで娘のアリーナとはぐれずに旅に行けることができて安心しています」
マレは深々とお礼をする。
「いや、こちらこそ、ちゃんと確認せずに申し訳なかった」
ロレンゾも頭をさげる。
「次に会った時は旅の思い出を話してくれ」
「はい、ぜひ。もう時間のようなので、ここで」
「エンゾさん、ロレンゾさん、また会いましょう!」
アリーナの元気な声で旅を再開させた。
アリーナを見送ったロレンゾはエンゾに
「アリーナは首都のどこに住んでいたのか?」
「いや、住んでいるという話しは聞いたことがないな。というか、そういうことは話したことがなかったな。どうしてだ?」
「俺が5年前まで王城にいたのは覚えているか?」
「ああ、たしか、騎士団にいたんだよな?」
「そうだ。その時、王城の中でアリーナを見たことがあるんだ」
「えっ?」
エンゾは驚き幼馴染の顔を見た。
「どういうことだ?」
「プラチナブロンドに藍色の瞳ってなかなかいないから、記憶に残っているのだが、その時にあの男性はいなかったはずだ」
「でも、アリーナはマレさんによく懐いているぞ?」
「そうだ。だから、アリーナと王城にいた娘が同一なのか決め手に欠けているのだ」
「お前の仕事柄、秘密事項が多いのは知っているが、何があったんだ?」
戸惑いが混じった声でエンゾは聞くがロレンゾはその言葉に答えることはなかった。
「護衛のかわりにひとりつけた。うまくいってくれればいいのだが…」
ロレンゾはひとり呟いていた。
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