第12話 困惑
トゥイーリはなぜこんなことになったのだろう、と今日何度目かの小さなため息をついた。
マレが馬主に話しを聞きに行った直後、ふいに横から声を掛けられた。
「君について、保護してほしい、と連絡があった。一緒にきてもらうよ」
優しい声色ながら、有無を言わせない高圧的な態度。反論する間もなく、あっという間に男性2人に囲まれてしまった。
突然の出来事に驚き、声を出すこともできなかった。
そのまま町の警護団の施設へと連れてこられた。
「町の人が、女の子が怯えながら男と一緒にいる、と連絡してくれた」
ここは、応接室、というのだろうか?石造りの2階建ての建物の1階の出入り口に近いところの部屋にトゥイーリは案内され、ソファーに座らされた。テーブル越しに座っているのは、さっき声を掛けてきた40代くらいの体格のいい男性と、20代くらいのこちらも体格のよい男性が4人掛けソファーに二人並んで窮屈そうに座っている。
40代の男性が口を開き質問する。
「一緒に歩いていたのは誰だ?」
「父親です」
「嘘を言わなくてもいいんだぞ?」
若いほうの男性が優しく話す。
(いや、確かに本当の親子ではないけど…!)
「父親です」
「あの男性に脅されて何かあった時はそういう風に言えと言われているのだろ?」
(何も脅されていませんけど?)
トゥイーリは何も言わずに黙り込む。
「今まで怖い思いしてきたのだろう?家に帰してあげるから、名前を教えてくれるかな?」
(言いませんよ、名前なんて…はぁ、なんでこうなっちゃうのかしら)
マレは困惑していた。
(どこに行ったのだ…!動くなと言ったのに!)
目を離したのはそんなに長くない時間のはずだ。それなのにトゥイーリがいない。
その場にいる人に聞いてみるが、これと言った情報がない。
闇雲に街中を歩き、トゥイーリの目撃情報を探すが全くなかった。
町の中にある時計台を見るともう間もなく3時になろうとしていた。
(いったん宿を確保してからもう一度探すか)
マレは深く息を吐いて今朝までいた宿に向かおうと踵をかえしたところで、一人の男性に声を掛けられた。
「やっぱり、マレさんじゃないですか!?」
その姿を見て、
「エンゾさん、ご無沙汰しています。半年ぶりくらいですかね?」
「ああ、やっぱりマレさんだ」
エンゾはトゥイーリの占いをよく聞きに来ていた人だ。
「エンゾさんはどうしてここに?」
「あぁそうか、あまり詳しい話しをしないからな」
ちょっと苦笑いを浮かべた。占いで必要になるのは相談する内容と名前だけだったので、年齢もどこに住んでいるのかも聞いたことがなかった。
「俺はここで麦売りの商売をしていてね。おかげで毎年儲けさせてもらったよ」
「そうでしたか。アリーナが聞けば喜ぶでしょう」
「ああ、そうだ、アリーナだ」
エンゾは本来の目的を思い出し、
「アリーナが警護団に連れていかれたぞ」
エンゾと一緒に警護団が常駐している建物に向かう途中に聞いた話しだと、エンゾもまた、乗合馬車について確認したいことがあり、あの場にいたそうだ。
そして、警護団の制服を着た男二人組に囲まれたアリーナがどこかに連れていかれる様子を見たのだが、まさかアリーナ本人だと思わなかったそうで、その時はそのまま商談に行ったのだが、あまりにもアリーナに似ているし、左腕の腕輪が気になり、もし、あれがアリーナなら近くにマレがいるはずだと探してくれたそうだ。
「本当にありがとうございます。少し目を離したすきにいなくなっていて、手掛かりもなく憔悴していたところでした」
「いやいや、こちらもまさかアリーナ本人に会えると思っていなかったからな、マレさんが見つかってよかったよ」
エンゾはがはは、と笑いながら答えた。ただ、マレの心には疑問が浮かび、笑うことができなかった。
(それにしてもなぜ、警護団に?まさか王城からの指令なのか?)
警護団の施設は町の外れにあった。真っ白な石で組み立てられていて、遠くから見ても堂々とした佇まいをしている。
エンゾが守衛に声をかけ、今日連れてこられた女の子について知っているから、中に入れてほしいと話している。
マレは黙ってやり取りを聞いている。
守衛は頷き中に入ると、数分して出てきた。そして二人に中に入るように促した。
二人は守衛に頭を下げて、入口近くの指示された部屋に入る。
「お父さん!え、エンゾさんですか?」
部屋に入ってきた二人の男性をみて、トゥイーリは安堵と驚きの表情を見せた。
「アリーナ、ひさしぶりだな。覚えていてくれて嬉しいよ」
エンゾは笑顔でアリーナに声を掛ける。そして近くにいる40代の男性にどういった状況でアリーナを連れてきたのかを聞いている。
「昨日ですが、住民から、怯える女の子を連れている不審な男性がいると相談が寄せられまして。それで様子を見ていたのですが、二人の様子を見ながら尾行していたのですが、寄せられている相談と違うなと思いつつ、演技でそうしているなら、やはり女の子を保護しなくてはと」
「なるほどな。前にも話していたと思うが、その子は俺が王都に行ったときに世話になっている占い師のアリーナだよ」
「そうだったんですか! いや、話しには聞いていましたが、似ている別人だろうと思いました」
40代の男性はアリーナをまじまじと見つめ、エンゾの後ろにいるマレを見ると
「ということは、こちらの男性は父親の?」
「マレ、と申します」
マレは王城からの指令ではないことに安堵して、名乗りを上げた。
「そうでしたか。いやいや、申し訳ないことをしてしまいました」
「いえいえ、お仕事ですので、気になさらずに」
「寛大なお言葉に感謝いたします」
40代の男性は立ち上がり、頭を下げた。
「そういえば、荷物を調べさせていただいた時に動物の毛がありましたが、動物と一緒でしたか?」
(まさか、父親が猫です、と言えないわな)
「いえ。昔飼っていた猫の毛が付いていたのでしょう」
マレはしれっと答えた。アリーナは下を向き、肩を震わせている。
「娘を返してもらっても大丈夫でしょうか?」
「ああ、そうですね。大丈夫です」
その言葉を聞いて、アリーナは立ち上がり、マレのそばに寄っていった。そして、
「エンゾさん、おひさしぶりです。助けて頂きありがとうございます」
とお礼を伝えた。
「まさかアリーナがこの町にいるなんて思わなかったよ。どうだろう、今日家にきて、ひさしぶりに占ってほしいのだが?」
アリーナはマレを見る。
「占いはさせて頂きますが、さすがにご自宅にお伺いするのは気がひけます」
「いやいや、気にしないで家にきてくれ。妻の自慢の料理を味わってほしいんだよ」
「ああ、エンゾの奥さんの料理はこの町で一番だよ」
40代の男性も太鼓判を押している。
再度、アリーナをみて、頷き、
「それでは、お言葉に甘えてお伺いさせて頂きます」
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