第11話 不安な旅路

 王城を出て3日目の朝を迎えた。


 マレは今までの旅路を振り返っていた。

 王城を夜に出発し、ルィスを出たところに流れているソン川を渡り、ルィスに一番近い町のソンブラを夜中にひっそりと通過して、ひたすら南西方面に進み、ここシャーマにたどり着いた。


 夜通し歩いたのは、国境の町エッコに向かう馬車がシャーマからしか出ておらず、ソンブラからシャーマまで乗合馬車だといろんな町を経由していくため、5日近くかかるからだ。

 王城からの追手をなんとか躱せないか、考えた結果なのだ。

 

 シャーマに到着したのは昨日のお昼に近い時間で、町の中心部を歩いていた時に最初に目に入ったこの宿の主人に聞いてみると空き室がありすぐに案内してくれた。

 部屋に入り荷物の整理をして、さて、昼食をゆっくりと、と思ったら、トゥイーリはベッドに沈み込み、寝息を立てていた。

 かなりの距離を無理して歩いてきたのだから、疲れも相当だろうと思い、布団をかけてそのまま眠らせた。


 今頃王城では騒ぎになっているかもしれないな、とマレは思う。

 昨日の夕食をトゥイーリの部屋に運んだら、もぬけの殻だったのだから。

 もし、国王がトゥイーリを探すための人を手配するなら、トゥイーリの顔や体形は国王、第一王子が知っているから姿絵を作り、探しに来るだろう。


 ただ、マレの素性は知られていないはずだ。そのため、人間に変身し、親子旅であるように装い、宿の交渉をしたり、食堂での定員との会話はマレがすべて答えるようにしてトゥイーリの存在を意識させないようにしている。

 また、人がいるところではトゥイーリを名乗らせず、アリーナを名乗らせている。

 占い師アリーナの評判がこの街に流れていたとしても、それが王城住まいのトゥイーリと結びつくことはないだろう。


「マレ、おはよう。もう起きていたの?」

 トゥイーリが起きたようだ。猫に戻り、窓から外を見ているマレに問いかけてきた。

「体調はどうだ?」

「うん、だいぶいい。昨日は食事もせずにすぐに寝てしまったから、お腹すいたわ」

 トゥイーリは上半身を起こしつつ、笑いながら答える。

「お城から人は来ていそう?」

「今のところは大丈夫そうだ」

「よかったわ。今日はお昼前に乗合馬車にのって、次の町に移動するのよね?」

「ああ。とりあえず支度して、朝ごはんを食べにいくか?」

「うん」

 マレはベッドの近くに置いてあるカバンに入り込み、トゥイーリの着替えが終わるまで隠れた。

「着替え終わったわ」

 その一声でカバンから出て、マレも人間に変身し、食堂へと向かった。


 宿の食堂では数人の客がいたので、空いている席を見つけ、マレがパンとスープとサラダをそれぞれ2人前頼んだ。

 出てくるまでの間、マレはさりげなく周囲の様子を確認している。

 まだ、王城からの人間はいない、と確信した。

 偵察する人間は旅行者や市民に化けて違和感のないようにしているが雰囲気が旅行者や市民と微妙に違うのだ。

 なので、今はまだ、探り当てられていないだろう。


 そういえば、とトゥイーリが

「お父さんは昨日食事した?」

 と聞いてきた。

「アリーナが寝ている間に済ませたぞ」

「よかった」

 トゥイーリがほっとしたような声を出した時に食事が運ばれてきた。

 トゥイーリは1日ぶりの食事をゆっくりと食べ始めた。


 食事が終わったあと、部屋に戻り荷物をまとめ始めた。

 まとめ終えたあと、再度部屋の中を見回す。ベッドと椅子が2客しか置かれていない小さな部屋なので、確認なんてすぐに終わってしまう。本当に忘れ物がないか確認して宿を出る。

 

 馬車の出発時間まで少し時間があるので、町の中を歩いてみる。

 道は石畳で舗装され歩きやすくなっていた。花屋の店先では冬に近い今が見頃を迎えている色とりどりのたくさんの花が売られており、真剣に選んでいる男性の姿があった。

 また焼き菓子を売っているお店があり、トゥイーリがこちらを見ていたので立寄り、いろんな味が入っているクッキーを道中のおやつとして買った。

 しばらくウインドウショッピングをしながら歩いていると、人がたくさん集まっているところに出くわした。

 トゥイーリと顔を見合わせ、その人だかりに近づいていく。

 

「馬車が出せない、ってどういうことだよ!」

「今日中に隣町に行かなきゃいけないんだよ!」

「替えの馬車はあるんだろ!」

 馬車について、何か問題があったらしく、乗る予定の客たちは馬主に詰め寄っていた。

 近くにいる人を捕まえて話しを聞いたところ、エッコに行く乗合馬車を引く馬4頭のうち1頭が体調を崩してしまい、替りの馬を手配しているが、まだ見つからないということだ。

「お父さん、どうするの?」

「ちょっと馬主に話しを聞いてくる。ここで動かないで待っていてくれ」

 トゥイーリはこくんと頷き、マレの荷物を預かった。

 身軽になったマレは足早に人だかりへと向かい歩いていった。


 馬主を捕まえて話しを聞いたところ、昨日、近くの町へと馬車を引いた馬が今日の夕方に戻ってくるから、体調をチェックし問題なければ明日の午前中には出発できるだろう、ということだった。

 今はまだ王城からの追手がきていないが、明日はどうだろうか?

 とはいえ、エッコまで馬車で2日近くかかる。また、エッコへと向かう乗合馬車が最初に寄る町は歩くと1日近くかかる距離だ。

 昨日ずっと寝ていたとはいえ、さらに今日も歩くというのは無理をさせている気がする。

 しばし悩んだが、今日もここに滞在し疲れをとり、馬車の長旅に備える、という結論に達した。


 馬主に明日、娘と二人で乗ることを伝え、急ぎ、トゥイーリの元に戻ったが、そこにいるはずのトゥイーリが消えていた。

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