第28話 畳みかけろ!

 青龍は倒れた。

 玄武と同じように青龍は光と変わって行く。鱗と牙の一部だけは光にならずに残ったんだっけ。残った青龍の鱗と牙から青龍シリーズの武器が作れるはず。

 他の四神の素材は広いはしたけど、武器にできるのか確かめていない。なので、必ず武器ができると言い切れないってわけだ。

 

 おっとこうしちゃおけねえ。

 取り出したるは宝来の玉。四神を倒すたびに光を吸収していて、水晶の中に入っている金の板の密度が最初に比べると三倍以上になっている。

 そうこうしているうちに眩いばかりの光が天へと昇っていくではないか。

 あれだけの光量があるのに、宝来の玉に吸収された光はほんの僅かだ。これはボスを倒す順番と強さの関係性に強く関わっていると見ている。

 残りの大半の光は生存している四神に吸収され、奴らはパワーアップするんじゃないかって。

 なので、四神が倒され全ての光を元に生まれ出た裏ボスは天狼伝で一番強いモンスターになるという推測ってわけさ。

 

 しかし! そうはさせねえ。

 宝来の玉を地面に落とし、戟の石突で思いっきり叩く。

 パリイイインと音を立てて宝来の玉は砕け散った。さすが、最強武器。素晴らしい威力だ。水晶玉を破壊することなんて訳はない。

 

 裏ボスは光を吸収した宝来の玉を核として誕生する。天に昇った眩いばかりの光は宝来の玉に吸収されるのだ。

 だがしかし、宝来の玉はもう無い。


「は、ははははは。く、くくく」


 笑いが止まらねえ。裏ボスさん、誕生できずにさようなら。

 愉快過ぎる。宝来の玉を拝借して、最後の一体が倒された瞬間に目の前で叩き割る。

 これほど楽しい事なんてないだろう。

 

「ざーんねん。く、くはは。ふ、ふはははは」

「ロンスーさん」


 俺の名を呼んだユエがひしとしがみ付いてきた。これまで見たことが無い心底心配した様子の彼女の顔に頬が熱くなる。

 や、やっちまったか。で、でも仕方ないじゃないか。裏ボスが出なくて大万歳なんだもん。

 戦わないに越したことはないだろうて。


「すまん。これで四神は全て倒れた。元凶も破壊した。万字解決だな」

「あ、あの。ロンスーさん」

「ん」

「あれ、は……」


 俺が正気の戻ったと判断したユエが俺から体を離し、砕けた球へ目線を送る。

 宝来の玉の欠片が光に包まれているじゃないか。

 い、いつのまに。

 そして、天から極太の光が降り注ぎ、砕けたままの欠片が浮き上がる。

 

「ユエ!」


 彼女の手を取り浮かび上がった宝来の玉の欠片から距離を取る。

 ティエンランとリーツゥの元まで走り、彼らから預けたむかうの青龍刀と双剣を受け取った。他の武器は……と目をやったらユエがにこりと微笑み足元の箱へ目線をやる。

 武器は分けて持ってきたので箱が二つあるというのに、早いなユエ。


「ティエンラン、リーツゥ。ここからは俺とユエの戦いだ。少し離れていてくれ」

「只事じゃねえ感じだけど。胸のざわつきが収まらねえ」

「俺が持っていた宝玉がおかしなことになったみたいだ。俺の持ち物だから、俺とユエで解決したい」

「俺も……お、おい。リーツゥ」


 背伸びしてティエンランの耳を掴んだリーツゥが彼を引っ張る。


「ほら、離れるわよ」

「戦いなら俺も」

「うぉうぉ」

「いいから!」


 有無を言わせぬリーツゥにようやくティエンランも諦めてくれたようだった。バトルジャンキーってのも困ったもんだな。しかし、そんな奴じゃないと四神を倒すまではいかないか。


 空に登った欠片は全ての光を吸収し、眩しかった空が元に戻る。

 次の瞬間、カッと欠片から光が放たれ人のような形を形成していく。

 光は巨人となり、実体化した。

 身長は10メートルほどだろうか。ローマ風の赤いトサカのついた兜をかぶり、上半身は裸。赤い腰布とサンダルを履いており、身の丈ほどある両手剣を握っていた。身の丈と表現したが、人間の身の丈ではなく巨人の身長くらいあるということだ。


 ドシンと地響きをたて、巨人が他に降り立った。その衝撃で足元がグラグラ揺れる。

 先手必勝! 敵が攻撃するまで待つなんてことはしねえ。ゲームとは違うんだよ。ふはは。


「三の業 方天戟」

「三の業 魔槍」


 戟を振るった俺の後にユエが続く。

 方天戟の衝撃波に重なるように槍が巨人の腹を突いた。傷を負わすことはできたものの、まだまだ巨人は健在で大剣を横に薙ぎドスンドスンとこちらへ迫ってくる。


「ユエ」

「はい!」


 彼女に向け戟を投げ、俺は回転しながら戻ってきた槍をパシッと手に取る。

 もう一発くらいいけるか。


「三の業 魔槍」

「三の業 方天戟」


 同じ業だけど、担い手は入れ替わっている。


「え、え。三の業が」

「すげえ! 戟と槍、二つの三の業が使えるなんて! 俺もやりてえ!」


 二度目となる三の業を放ったことに茫然とするリーツゥといい笑顔で目を輝かせるティエンラン。

 面白い二人だな。

 そう。俺とユエは二度目の三の業を放った。但し武器を替えて。

 三の業は一日に一回しか使うことができないという制約がある。ゲームも同じだ。

 しかし、あくまでそれぞれの武器種に関しての制限なのである。ゲームでは戦闘中に武器の入れ替えなんてできなかったから、装備を変更するという発想が浮かぶまで随分と時間がかかったよ。

 そのために、重い箱を手分けしてここまで持ってきたのだから。

 余談であるが、この仕様を確かめた後、白虎を始末したのだ。

 

 さすがの巨人も大きなダメージを受けている様子だった。最強武器の三の業を四発も喰らったのだからな。

 青龍なら既に討伐できている。

 ふらつきながらも大剣を構え、突進しようとする巨人に向け俺もまた低い姿勢でにじり寄る。

 今度は棍を下から上へ振り上げた。俺の動きに合わせユエが真上に跳躍し、左右の扇を一閃する。

 

「三の業 抜刀つばめ返し」

「三の業 乱舞風撃」


 三の業の中では抜刀つばめ返しが一番好きかもしれない。仕込み刀のようにキランと光り、剣撃が飛ぶ。

 居合のような一発を静とするなら、扇は動だ。

 青と紫の三日月が幾重にも飛び交い、巨人に突き刺さる。

 

 抜刀つばめ返しが巨人の右脚を切り飛ばし、乱舞風撃が巨人の首元へ致命的な打撃を与えた。

 ドシン。

 巨人が大きな音を立てて崩れ落ちる。


「ロンスーさん!」

「まだだ。今の内に武器を」

 

 喜色をあげるユエに待ったをかける。俺の言葉で彼女は即気持ちを切り換えた様子。全幅の信頼を置いてくれるのはとても嬉しいことだよな。

 口をキュっと結んだ彼女は俺と武器を入れ替える。チャイナドレスに扇って似合いすぎとか思わないか?

 俺は相も変わらずの裸ジャケットで、扇が死ぬほど似合っていない。棍とか戟、青龍刀ならまだ絵になるんだけど……。

 

 倒れ伏した巨人に動きはない。それどころか、足元からサラサラとした砂のようになって崩壊し始めた。

 これで倒したと思うよな? 初めてこいつを討伐した時(ゲーム内で)、俺も「よっしゃこれでクリアだ」なんて思ってましたよ。

 確かに、巨人は倒した。巨人はな。こいつはよくあるラスボスの第二形態とかそんなチャチなもんじゃねえ。

 

 砂が集まり、色が付く。

 生まれ出たのは直径10メートルもあるハンバーガーだった。

 トマトとレタス、パテは二枚に、黄色のチーズまで挟まったよく見るやつだ。

 フライングハンバーガー。ふざけているのか真面目なのか分からんが、これこそ正真正銘の最終ボスなのである。

 脱力しそうになるが、気力を溜め始めた。

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