第27話 さすが主人公

 崖に囲まれたボスエリアに入り、黄竜という飛竜型の最強種四体をさくっと仕留め青龍の降臨を今か今かと待ち構えていた。

 今回はユエと手分けして武器を全部持ってきたから重いったらなんの。

 まあ、念には念をってやつさ。

 

「前と同じなら、もうすぐ青龍が来るはずだ」


 空を睨み、ティエンランが独白する。

 独り言に絡むのもどうかと思ったが、彼らの敗北は俺が噛んでいることもあり思わず口を挟んでしまう。

 

「青龍は硬くタフだったんだよな?」

「おう。水龍とは比べもんにならねえ。水龍の牙から作ったこいつでも、二の業以上じゃないと傷付けるのも難しかった」

「三と二の業を使えるだけ叩きこんだのか?」

「二の業はリーツゥが三発で俺が二発かな。青龍はまだまだ動けそうだった」

「そうか……」


 やはり、懸念した通りだった。水龍シリーズの武器で三の業を二発に二の業を五発いれて青龍がまだまだ元気とは。

 討伐するのを玄武だけに留めておけば、青龍をひん死にまで追い込めたかもしれない。

 ひん死だと勝ててないから、いずれにしろ敗北の結果は変わらないけど、メンバーを二人加えて再戦すれば勝てるはず。

 ところで、いつかユエと四神の強さについて会話したことを覚えているだろうか。

 玄武が弱すぎたことで俺が悩んでいたことがあったろ。あの時、ユエは四神を倒す順番で強さが変わるんじゃないかと予想を立てた。

 事実その通りだったと俺とユエは結論付けている。

 だから、四神素材の武器を持たないティエンランたちだと青龍に勝てないことを予想し、ドラゴンズロアに戻ってきたというわけだ。

 ティエンランたちが水龍を討伐している頃だと思ったから慌てて、ね。

 天狼伝ゲームで一番最初に討伐されるの四神は青龍だ。だから四神シリーズの武器が無くても倒すことのできるバランスになっている。

 ところがどっこい。今の青龍はそうではない。となれば、最低でも四神シリーズの武器がないとダメージが通らないし、業を全部当てても倒しきれないのだ。


「でもさ。今回はロンスーさんもユエもいるし。きっといける!」


 ググっと拳を握りしめて気合いを入れるティエンランに対し、無造作に青龍刀を投げる。

 

「それを使え。今の青龍刀より使える」

「これは……?」

「抜けば分かる」

「ロンスーさん。これは……水龍の牙とは比べもんにならねえぞ! ロンスーさん、やっぱ強えなあ! 肩を並べてと思ったけど、まだまだ背中も見えねえや」

「そんなことはないさ。三の業を使えるようになった今、俺とそう変わらないよ」


 無何有むかうの青龍刀の薄紫の刀身に目を奪われるティエンランの様子に微妙な気持ちになるが、いかんいかんと心の中で首を振った。

 彼らが戦うというのなら、四神を強くしてしまった分、彼らの武器を強化してバランスを取る。


「ロンスーさん」

「ん? リーツゥもこれを」

「う、うん。こ、これって四神素材の武器よね! 水龍より強い武器となるとそれしか。ロンスーさん、四神を仕留めて?」

「隠しても仕方ない。四神は仕留めた」

「え、えっと。朱雀とか?」

「全部だ。青龍以外」


 絶句するリーツゥ。

 実は白虎に確実に勝てる方法が分かったので、白虎も倒してきた。

 青龍に挑むに最低四神シリーズの武器が必要だと確信していたのはそうゆうわけなのだよ。

 倒す順番が最後となれば、天狼伝ゲームの白虎並になっていると予想できる。白虎と戦った際に耐久がイマイチだなと感じた。

 そこから察するに、倒す順番によって耐久力が大幅に強化されるんじゃないかと。四神によっては速さや堅さも変わってきそうだけどね。

 

 リーツゥにそれは四神の素材じゃないぞ、何てことは別に伝えずともいいか。

 彼女にクリア後ダンジョンから拝借しました、と言ったところで意味不明だろうから。

 今度はユエが武器の入った箱に手を乗せ問いかけてくる。

 

「ロンスーさん、どの武器を使われます?」

「ユエはどれにする?」

「リーツゥが弓ですので、わたしはそうですね。槍を」

「じゃあ、俺は戟にするよ」

「前衛をティエンランだけに?」

「死闘を繰り広げたみたいだから、ダチョウと共に前に出てもらおう。ティエンランも俺がしゃしゃり出るよりその方がいいだろ」


 それにしても、あんな変な動物ってゲームにいたっけか。

 ゲームではペットを飼育できたり、部屋に家具を置いたりといった遊び要素があったことは記憶している。

 あの変な動物もコレクターアイテムとして存在したかもしれない。ハシビロコウも然り。

 

 ちょうど全員が武器を構えたところで、腹に響く鼓膜が破れそうなほどの咆哮が響き渡った。

 グガアアアアアア――。

 

「ぐああ」

「うぉうぉ」


 それに対抗するハシビロコウとダチョウの鳴き声は貧弱過ぎて完全に咆哮にかき消される。

 空にはメタリックブルーの鱗が太陽の光に反射してテラテラと光り輝く青龍が首をもたげていた。


「この位置なら……届く」


 リーツゥがそう宣言し、弓を構える。

 その時には既にティエンランとダチョウが駆け始めていた。

 俺も続くか。ゆっくりと前進しつつ気合いを溜め始める。ユエも俺と並ぶようにして槍をくるりと回転させた。

 

「三の業 極星!」


 リーツゥの放った光の矢が青龍のどてっぱらにさく裂する。

 固い鱗を貫いた矢が青龍の腹の右下辺りに突き刺さり、物凄い悲鳴をあげた青龍が地に落ちた。

 

「え……」


 予想外過ぎる矢の威力に素っ頓狂な声をあげるリーツゥ。

 無何有むかうシリーズの三の業なら一撃で上空から叩き落とすことは造作もないこと。

 一定以上のダメージを与えれば、空を飛ぶモンスターは地に落ちる。たとえそれが四神でもね。じゃないと、ずっと空を飛ばれたら倒せないもの。

 

 落ちた青龍は怒りの咆哮をあげながら立ち上がる。

 そこへ、ティエンランの青龍刀がキラリと閃いた。

 

「三の業 覇竜斬!」

「うぉうぉ!」


 中華風の龍が空へ昇るようなエフェクトと共に、青龍刀が振り下ろされる。

 切っ先から青色の衝撃波が飛び、青龍の体をズタズタに切り裂いた。ついでにダチョウが前足で青龍をキックする。

 お、これは。いい感じじゃないか。

 

「二の業 流星!」


 ティエンランが射線に入り、業を放つタイミングを見計らっていたら先にリーツゥの矢が青龍の額にヒットした。

 この矢も硬い鱗を貫く。

 尚も立ち上がり、首を上に向け息を吸い込む青龍。

 俺はと言えば、ユエに目くばせし戟を構える。彼女はそれだけで俺の意図を汲んでくれたようで構えた槍を少し下にさげた。

 

「一の業 弧月」


 ブレスなど吐かせるものか。牽制の弧月が青龍の首元を切り裂く。

 これでたじろいた青龍に対し、ティエンランが追撃をする。

 

「二の業 屠竜!」


 高く飛び上がったティエンランが青龍の首元へ青龍刀を振るう。

 ズルリ――。

 青龍の首が落ち、ゴロリと地面に転がった。


「うおおおお!」

「うぉうぉ」


 雄叫びをあげるティエンランとダチョウをよそにホッと胸を撫でおろす。

 おや、思ったより耐久力がなかったな。倒せたから良しだ。

 おっと、彼らの様子をノンビリ眺めている場合じゃなかった。ここからが本番だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る