第26話 ライバル
他の街での用事を済ませた俺とユエは始まりの街ドラゴンズロアに来ていた。ティエンランたちはそろそろ水龍を倒した頃かな?
なんて久しぶりに懐かしい彼らの顔を見れるかと思って、気が緩んでいた。
しかし、バスター詰め所「竜の牙」に入ったところでさああっと血の気が引く。
「負けちゃったよ。青龍は強かった。なあにみていろ、すぐにまた挑戦してやる」
とティエンランがバスターたちに向かってそんなことを宣言していたからだ。
しまったという想いと、彼らが生きててくれてよかったという想いが交差し、茫然としてしまった。
他の街では四神を知る人はいないと言っていい状態だ。知っている人はいるかもしれないけど、公にはなっていない。
竜の牙のバスターたちはそうではない様子。
理由も分かっている。
確か竜の牙の代表から四神のことと青龍のことを聞くんだったよな。この情報が街全体に伝わり、みながみな青龍が倒されるのを期待している状態になる。
横道に逸れてしまったが、もうすでにティエンランが水龍を撃破し青龍に挑んでいたとは……。
俺の予想ではあと一ヶ月後くらいに青龍に挑戦するくらいだと思っていたのに。ユエがパーティに加わらなったことでティエンランの進行が早まるなんて予想外過ぎて思考が追いつかない。
それに彼らはずっと二人パーティだと言うものだから、目玉が飛び出そうになった。
ゲームでは水龍と戦う時点で5人になっていて、その中から4人を選んで戦うようになっている。
「ロンスーさん、お休みになられないのですか?」
「え、あれ。いつの間に俺の部屋へ?」
「さっきからお声がけしていたのですが……」
「そ、そっか。せっかくの竜の牙なのだから、自室で休んでくれてもよかったのに」
「そう言うわけにはいきません。
そう。俺は今、久方ぶりの龍の牙の自室のベッドで寝ころんでいた。
他の街ではユエとの二人用の部屋を手配してもらったけど、竜の牙だけは違う。彼女も俺もそれぞれ個室をあてがわれている。
気が付いたらユエがベッドの上に座っていたものだから、ビックリした。ティエンラン達の件が衝撃的過ぎて、魂がどっかにいっていたものなあ。
彼女に気が付かなくても仕方ない。
しばらく黙っていると、ユエの方から俺に声をかけてきた。
「……ティエンランたちのことを気にされているのですか?」
「まあ、な」
「優しいロンスーさんのことです。『こうしておけばよかった』と後悔していることでしょう。ですが、わたしたちが何ら気に病むことなどないのではないのでしょうか。わたしたちは神ではありません」
「そうだよな。あのまま……いや、彼らが生きていた。それで良しだよな」
「はい。リーツゥから聞いた話ですが、ティエンランはただひたすらに戦い続けようとするのを止めるのが大変だったと聞いています。ですので、遅かれ早かれこうなったと思います。むしろ、間に合ってよかったくらいに捉える方がよろしいかと……」
「ありがとう。ユエ」
「い、いえ……」
ポッと頬を染めるユエ。近くで見つめ過ぎたかもしれん。ついつい、会話する間に彼女ににじりよってしまっていた。
ティエンランがバトルジャンキー……確かにそうかも。
ゲームでも次から次へとクエストを受けていたってのに、生き生きしていたものな。
四人パーティならリーツゥ以外にも彼を諫める人がいるだろうし、準備にも時間がかかる。狩猟次第だけど継戦時間も短くなるかもしれない。
ティエンランとリーツゥの二人だったから、俺の予想以上の速さで青龍まで到達していたのかも。
いや、推測はここまでにしよう。ユエの言う通り、結果だけ受け止め彼らが生きていたから良しとする。
ありがとうな。ユエ。
彼女を見つめたまま、心の中で再度感謝の言葉を述べる。
「寝るか」
「は、はい……」
ゴロンと横になると、彼女も並んで寝ころぶ。
ん?
「先にユエから寝る?」
「え、はわ?」
「交代で見張りをするために来たんだよな」
「は、え。あの流れで……。あ、えっと。わたしから見張りをします」
パタパタと自分の手で頬を扇ぎながら立ち上がったユエが椅子に腰かけるのであった。
◇◇◇
青龍の討伐クエストを受領するところでひと悶着あったが、珍しく激昂したティエンランの貢献で無事クエストを受領した。
俺としてはこれまで四神討伐クエストを出さずにクリアしてきたので、別に受けても受けなくてもよかったんだけどね。
「すいません。わたしが足を引っ張ってしまい」
「四神はともかく、俺たちだって他の街でそれなりの高難易度クエストを受けてきたんだけどな」
ユエが申し訳なさそうに顔を伏せるが、何てことは無いと笑って応じる。
むしろ何でユエだけクエスト受領を渋られるのか理解不能だ。俺だって水龍討伐クエストを受けてないし、他の街で最高難易度のクエストをこなしていない。
あれか、単なる嫌がらせか。ユエにではなく俺に対する。
モブは別に前提満たしてなくても主人公と一緒ならいいよってことかよ! メインキャラはそうじゃなくて、ちゃんと再度主人公と水龍討伐クエストを受けてこいと。
ま、まあいい。俺がモブなのは俺自身が一番理解している。ふ、ふははは。
「クエストを受けようが受けまいが、青龍に会える。クエストを受けなきゃ青龍に会えないなら話は別だけど」
「はい」
フォローにもなっていないフォローをユエに行い、前を行く竜車に目をやる。
俺たちの竜車より一回りほど小さいあれは、ティエンランたちのものだ。
それにしても、迷いなく進んでいるよな。
一回行っただけで青龍までの道筋を覚えているなんて、驚きを禁じ得ない。俺なんてゲーム内だけど何十回と行ったってのに、未だ道順に自信がないぞ。
そんなこんなで三日が経過し、ようやく青龍の住むボスエリア前に到着した。
他の四神と同じく崖に囲まれた中が戦闘エリアになる。
崖を昇るのは朝日と共にとなり、本日はここで野営することになったんだ。
一度敗北したティエンランたちは平静そのもので、気負った様子はない。これなら、いつも通り戦えそうだ。
「うぉうぉ」
「ぐあああ!」
それは良いのだが、明日は本番ということで今日ばかりはティエンランらと一緒に食事を取りながら会話したい。
しかし、彼の連れたぶっさいくなインコ色をしたダチョウのような変なのと不本意ながら俺のペットであるハシビロコウと威嚇し合っている。
初日に余りにも威嚇し合うから、二日目からはティエンランたちとは別れて夜営していたんだよな。
「こら! ランニャオ!」
リーツゥが諫めるがダチョウは言う事を聞くどころか、彼女を威嚇する始末。
こいつはダメだ……。
「ユエ」
お団子頭の少女ユエに目くばせし、彼女は心得ましたと深く頷きを返す。
ここはとっておきを使うしかない。
本来、ハシビロコウは魚食性なのだけど、このハシビロコウは違う。好物も把握しているのだ。
ユエがハシビロコウに懐から取り出したタケノコを見せる。
すると奴はのっしのっしとユエの元に歩いてきた。彼女は少し離れたところまでハシビロコウを誘導しタケノコを与える。
これでしばらくは大丈夫だろ。
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