第25話 閑話4.ティエンランとリーツゥ
「いやあ、強かったなあ」
「ティエンラン!」
「うぉうぉ」
目を覚ましたティエンランにひしとしがみつく。ダチョウ狼も物憂げに吠える。憎たらしいけど彼がティエンランをここまで運んでくれた。ティエンランのことなら任せてもよさそうね。私なら置いていかれ……ううん、その時はティエンランが助けてくれるじゃない。
私たちは敗北した。完敗……は言い過ぎか。ティエンランとダチョウ狼は連携していい感じで戦っていたわ。でも、敵も強かった。
何しろ相手はあの「青龍」なのだから、一筋縄ではいかないみたい。
水龍の時に比べて私たちも強くなったんだけどなあ。三の業まで使うことができるようになったし。でも、青龍の強さは更に上を行っていた。
三の業ならメタリックブルーの硬い鱗をも貫くことができる。だけど、三の業は私とティエンランが一回づつしか使うことができないの。
三の業でダメージを与えた後、隙を見て二の業でチクチクと打撃を与えていったわ。最後はさすがの二人もスタミナ切れで、ティエンランが尻尾の強烈な一撃をもらってしまった。ダチョウ狼が気絶した彼を咥えて青龍から距離をとり、脱兎のごとく逃げてきたというのが事の顛末である。
だと言うのにティエンランったら、拳をぎゅっと握りしめて……。
「しばらく休んだらまたやる!」
なんて言ってるじゃないの。
堂々と彼を落ち着けるように両手を前にやり慌てて口を挟む。
「ま、待って。もう少し修行してからの方がいいんじゃない?それか頼りになる人を加えるか」
「い、痛ちち。分かってるって。ちゃんと傷を治して、道具を補充してからだよな」
「……武器のメンテナンスもしなさいよ」
ぜんっぜん懲りてない! 私がどれだけ心配したと思ってるのさ!
ダチョウ狼だって。ね?
「うぉうぉ」
「そうか。すぐにでも再戦したいのか」
彼もまたノリノリだった……。
ティエンランはティエンランで彼の腹をポンと叩き嬉しそうな声をあげる。
いや、待って違うったら!
「ダメよ!」
「うぉうぉ」を都合の良いようにとらないでよ。あの「うぉうぉ」は心配している吠え声よ。
ダメと言った私をダチョウ狼が威嚇しているのは、照れ隠し。そうに違いないわ。
◇◇◇
ドラゴンズロアの詰め所「竜の牙」まで戻って来た。私たちの姿を見るとバスターたちが一斉にこちらに注目する。
青龍討伐のクエストを受けて戻ってきたんだもの。みんなの話題の的になっていても不思議じゃない。
どうしよう。みんな青龍との戦いがどうなったのか聞きたいんだよね?
「負けちゃったよ。青龍は強かった。なあにみていろ、すぐにまた挑戦してやる」
あっけらかんとティエンランが自分たちの敗北を告げ、後ろ頭をかく。
きゅん。
彼の馬鹿正直なところに少しだけ胸が高鳴った。外面とか気にせず誰に対しても自然体で居られるって凄いことだと思う。
私も見習わないと。
「え、青龍と戦ったのか……」
どこかで聞いたことがあるような渋い男の人の声。
裸ジャケットに涼しい顔をした20代後半くらいの男の人とお団子頭のチャイナドレスの女の子だった。
ロンスーさんとユエだ。ずっと彼らの姿を見なかったけど、他の街にでも行っていたのかな?
二人に再開できたことは素直に嬉しい。だけど、この世界の男の人って変な動物を連れ歩くのが好きなのかしら。
ティエンランはダチョウ狼で、ロンスーさんは肩にハシビロコウをとまらせている。
どこで捕まえたのかしら……。
どうせ飼うならもう少し可愛らしい動物にすればいいのに、と思ったけど、彼らにとってはダチョウ狼やハシビロコウにときめくのだろう。
……理解に苦しむわ。
「ロンスーさんじゃないか!」
「おう、ティエンラン。久しぶりだな。青龍って言ってたけど」
「そうなんだ。四神の一柱とかで、魔物を生み出すボスと聞いた」
「そうか。敗北したと聞こえたけど、無事でよかった」
ロンスーさんがティエンランの肩をポンと叩き、対するティエンランはへへっと鼻先に指を当てる。
男二人で旧交を暖め合うのはよいのだけど、女の子二人が置き去りよ。
だったら私はお団子頭のユエと挨拶しちゃおうかな。
「ユエ。久しぶり」
「リーツゥ。あなたも青龍と?」
「うん。大きな怪我は無く撤退できたから心配しないで」
「そう……」
何だかユエがうかない顔をしている気がする。何かあったのかな?
「ティエンラン、ロンスーさん」
「リーツゥ。立ち話もなんだし、食事でもしながら」
自分が喋ろうと思っていたことをティエンランが言ってくすりとくる。
そうよね。久しぶりに会えたんだし!
◇◇◇
「そんでな! 青龍以外にも三体も強えやつがいるんだってよ。滾るよなあ!」
「そ、そうだな」
四神について熱く語るティエンランに対し、ロンスーさんは何だか歯切れが悪い。
彼にとって青龍が余り思い出したくない相手だったからかもしれない。
私たちを助けてくれた時、彼は本当にギリギリの戦いを強いられていた。今ならあの時の彼がどんな思いで私たちを逃がしてくれたのか分かる。
ありがとう。ロンスーさん。
心の中でそっと彼にお礼を述べる。
ロンスーさんだけじゃなく、ユエも困ったように彼をチラチラと見ていた。どうも青龍のことを思い出して苦い顔になっているってわけじゃなさそうだわ。
「ロンスーさんは他の街へ行っていたのか。四神ってやつと戦ったり?」
「あ、ええっと。ティエンランは青龍に再挑戦するつもりなんだよな」
「おう。あ、そうだ! ロンスーさんも一緒に来てくれねえか?」
「ちょっと! ティエンラン!」
思わず彼の言葉を遮る。ロンスーさんは青龍と命を賭して戦ってくれたのよ。もう一度来いなんて酷よ。
ところが、ロンスーさんは意外にも「そうだな」なんて言っちゃってまんざらでもない様子。
そんなロンスーさんにティエンランが畳みかける。
「俺さ。ロンスーさんと別れる前にさ。いつかロンスーさんと肩を並べて戦いたいって。今ならあの時のロンスーさんくらいは戦える!」
「俺はもっと強くなったぞ。ははは」
「マジか! さすがロンスーさんだぜ」
「分かった。一緒に行こう」
「やった! 結局俺たち、ずっと二人だったんだ。だから、ロンスーさんとユエ、俺とリーツゥで四人パーティになる」
「丁度いい。明日は準備で、明後日に旅立つか」
愉快そうに笑う二人は話をまとめてしまっていた。
ロンスーさんとユエも一緒なら、私も望むところよ。もう逃亡したときの私たちじゃないんだから。
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