第24話 相談

 大っぴらな場所で会話するのも気が引けたので、「鳳凰の翼」に付属するバスター用宿舎で彼女に俺の今後の目的を話すことにしたんだ。

 「鳳凰の翼」の宿舎も他の街の宿舎とよく似た作りで、設計図でも共有してるんじゃないかと思うほど。調度品までよく似た感じなのだもの。

 ブラックロックの「黒の衝撃」の宿舎と同じく二人部屋なので、ベッドが大き目になっていた。

 ユエがベッドに腰かけ、俺が椅子にという配置も黒の衝撃の時と同じ。

 部屋にいると、「帰ってきたなあ」という気持ちになるのは、部屋の作りが同じだからなのかもしれない。

 

「ユエを連れて行くのか連れて行かないのかという話なんだけど」

「はい」


 ユエが息を呑む。

 余り格好の良い話じゃないから、そう畏まらないで欲しいのだけど……。

 

「俺はなるべくもうクエストを受けたくないと思っている。だからといってバスターとしてずっと生きてきた俺が他に何をできるんだと問われると辛いところだけど。ユエはバスターになりたいと強い思いがあって、修行のため俺と共に来てくれていた。これからも俺と共に……となると」

「ついていっては……ダメですか?」

「ユエが良いのなら、大歓迎だ」

「ロンスーさんのことです。バスターを辞めてからのこともきっと考えられていらっしゃると思います。わたしもロンスーさんの夢を見せてください」

「そんな大げさなもんじゃないんだけど……やりたいなと思っていることはある。景色のいい場所で畑でも耕しながら、たまに行商して暮らそうかなと」

「わたし、畑なら少しは分かります!」

「俺が言うのもなんだけど、そんなあっさりバスターを辞めていいのか?」


 俺の問いに彼女は迷わず首を縦に振る。

 口元に柔らかな笑みを称えた彼女に憂いなどまるで感じられない。バスターへの想いは強いものだったはず。

 それが、どうして?

 

「四神が滅びれば、バスターは必要なくなります。発生源たる四神が滅びることと私の夢は合致しております。その先のことなんてわたしには何もありません。ですから、ロンスーさんと共にあなたの夢を見せて欲しいのです」

「なるほど。確かに、モンスターはいなくなるよな」

「はい。ですが、ロンスーさん。ずっとお待ちになるのですか? 今バスターを辞めたとしても中途半端にモンスターが残ってます」

「ん?」


 何やら話がきな臭くなってきたような。

 玄武は倒さなきゃティエンランらの進行に支障があるから倒した。朱雀は四神の強さ検証のために挑んだ。

 しかし、根本にあったのは玄武も朱雀も比較的安全に仕留めることができると判断したからに他ならない。

 もし玄武が命を賭して戦わねばならない相手だったら、戦おうとしなかったと断言できる。

 前置きが長くなったが、二柱も仕留めたのだ。残りは本来の主人公たちに任せればいい。

 俺の手元には宝来の玉がある。どこにいても残りの青龍と白虎がいつ倒されたのかを把握することができるのだ。

 残された俺の仕事は宝来の玉を眺めるのみ。お金もそれなりにある。後は安全なところで日がな一日を暮らすのみ。平和になったら各地を観光なんてこともしたいな。住む場所も、もう決めているし。ふふ。

 妄想に浸っていたら、そんな俺の情けなくも自堕落な夢がガラガラと音を立てて崩れるような発現をユエが。

 

「玄武、朱雀と倒れたとはいえ、長きに渡り四神が倒れることはありませんでした。ですので、この先何十年も待つことになりませんか?」

「二柱倒れたんだし、残りもほら」

「ロンスーさんの天啓があったからです。微力ながらわたしもお手伝いさせていただきましたが、ロンスーさんなくして四神が倒れることはないかと」

「あ、いや、でも」


 夢の話で四神が倒されるところを見た、と言ったらティエンランのことも言わなきゃならなくなってしまう。

 そうなると何で俺がわざわざ玄武を倒したの、と言う話になり……とっても説明が面倒なことになりそうだ。

 迷っていると俺の前で両膝をついて太ももに手を当てたユエが真っ直ぐにこちらを見上げて来る。

 

「青龍と白虎を、倒しませんか?」

「考えてもいなかった」

「ロンスーさんのことです。青龍と白虎のことも『夢』で見られているのですよね?」

「見ている。奴らがどんな動きをするのかも把握している」


 何かに気が付いたかのようにユエの表情が曇った。

 長いまつ毛を震わせ、絞り出すように言葉を続ける。

 

「……難しい、のですね」

「やってやれないことはない。だけど、玄武や朱雀のように倒すには……」

「わたしの身を案じてくださっているのですね」

「俺自身もだよ」


 本心から言ったというのにユエはブルブルと首を横に振り、涙目で俺の右手に両手を添えた。

 絶対に勘違いしているよな。俺が彼女に気を遣って自分のためだ、と言ったとか思っていそうだ。

 「違う、違うんだ」と全力否定してもいいけど、勘違いが加速すると困る。

 回復アイテムを用意するのは当然として、裏技的なものがあれば……そう都合よくはいかないか。

 ん、待てよ。

 もしかしたら、この手が使えるかもしれない。

 いつの間にか白虎と青龍を倒すことに考えを巡らせていた自分に苦笑する。

 自分はどこかでまだゲームをやっているような感覚に囚われていた。今だってそうだ。ゲーム的な感覚で白虎を攻略できないものか、何てことを考えていた。

 だから気が付かなかったんだ。

 試してみる価値はある。

 左手をユエの手の上に重ね、コクリと頷く。

 

「ロンスーさん!」

「確実に勝てると判断しない限りは挑戦しない。試したいことがあるんだ」

「秘策……ですか! ワクワクしてきました」

「そんないいものじゃないよ。裏技とかこすいとかそっち方面かも」


 くしゃっと自分の頭に手をやり、苦笑する俺であった。

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