第23話 ぐあ

 三、四、五。

 朱雀はまだ攻撃態勢に入っていない。先手必勝! 行くぜ!

 

 腰を捻り真後ろに届かんばかりに力を溜める姿勢で戟を構える。

 一方のユエは槍投げ選手のように槍を構え、腰を落としていた。

 

「第三の業 方天戟」

「第三の業 魔槍」


 振り上げた戟から三日月のオーラが浮かび上がり、煙のエフェクトと共に薄紫の衝撃波が迸る。

 時を同じくして、漆黒のオーラが渦を巻いた槍が投擲された。

 どちらも、「遠距離」「必中」効果を持つ第三の業だ。

 

 攻撃に反応した朱雀が急降下しようとするが、奴の動きに合わせて方向を変えた衝撃波、続いて漆黒の槍が襲い掛かる。

 ドガアアアンと爆発音があがり、思わず目を閉じた。

 

 ぐ、ぐう。視界が塞がれているが、全く持って問題ない。

 気力を溜め、次の業を放つ。

 

「第一の業 弧月」


 組み合わさり鎖のようになった三日月が、前方に飛ぶも霧散して消えてしまった。

 

「な、何だと」


 この武技も必中と遠距離の特性を持っている。

 しかし、敵に襲い掛かる前に消滅してしまった。朱雀に必中を無効化する何かがあったのか?

 キャンセル技なんて天狼伝にはなかったぞ。

 

 ゲームには無かった未知の仕様があるのかと動揺を隠せぬまま、慎重に前へ一歩踏み出した時、腰から垂らした袋が光る。

 

「え」

「宝来の玉が光っているのではないでしょうか」


 ユエの言葉にハッとなり、荒っぽく宝来の玉を取り出す。

 確かに光っている。

 ということは……。

 

 急ぎ朱雀が落ちたと思われる場所まで走るが我ながら酷い物だった。

 朱雀の胴体上半分は爆発四散したようで、恐らく周囲に破片が散らばっている……と思う。

 残った体に近寄ると、ぶわっと激しい炎があがり慌てて体を引いた。

 

「どうやら倒したらしい」

「はい。初撃で倒しきれるとは思っていませんでした」

「俺もだ」


 茫然と舞い上がる炎を見つめる俺とユエ。

 空を飛ぶ朱雀にどうやって戦うか、綿密な作戦を練ったきたんだ。行けると思ったから、朱雀に挑戦となったわけだが、呆気なさ過ぎて拍子抜けした。

 注目したのは「必中」の特性で、どれだけ空を飛び回ろうが闇雲に武技を放ったとしても命中する。

 必ず当たるとはいえ、射程外ならさすがに当たらない。そこで、手が届かずとも攻撃できるように「遠距離」の特性を併せ持つ業を選定したというわけだ。

 元々遠距離攻撃できる弓は必中の特性を持つ業がなかった。

 長期戦になるなら、攻撃回数に不安のない弓だったのだけど、ここで俺は閃く。

 飛行しているモンスターは攻撃を当てると落下する。地上にいるなら、攻撃可能だということに。

 そこで、「遠距離」「必中」の第三の業を持つ戟と槍を選定する。初撃で第三の業を叩きこみ、地上へ落ちた朱雀に対して間髪入れず戟の第一の業を喰らわせ地上に拘束してしまおうという腹だった。

 飛び上がろうとするたびに、戟の第一の業「弧月」で落とし、ユエの槍で突き刺す。

 完璧なハメ作戦だったのだ。

 ま、まあ。思惑は外れてしまったけど、倒せたから良しだろ。

 

 燃え盛る炎がようやく収まってきた。


「ぐあ」


 プスプスと煙があがる朱雀だったものの上に雄々しく立っていたのは小型の朱雀……?

 しかし、羽毛の色が真紅ではなく、くすんだ青色だ。大きさも大型の鳥程度になっている。

 まさしく、ハシビロコウの成鳥そのものだった。

 

 枯葉のような嘴を上にあげ、凛々しく俺を見つめるハシビロコウ。

 どうしたものかと、「よお」とばかりに右手をあげたら、そいつはバサバサと飛び上がった。

 俺の肩にとまったハシビロコウは翼を畳み、完全に動きを止める。

 

「え、えっと」

「ぐあ」


 ぐあって言われましても。

 どうしようこいつ。せっかくだから今晩の食事にでもしようか。

 

「素敵です!」

「え……」

 

 おいしそう、じゃなくて?

 両手を合わせ花が咲いたような笑みを浮かべるユエに困惑する。


「朱雀に瓜二つで、雄々しく、ロンスーさんと共に在ると絵になりますね!」

「飼いたい、の?」

「連れて行かれないのですか?」

「あ、うん」


 ハシビロコウが俺になついていると言われればそうかもしれない。

 こいつも当然のように俺の肩にとまっているし。天狼伝にテイムとかあったっけ。

 お助け動物的なものはいたような気がする。昇竜以外は使わなかったから、記憶が曖昧だ。

 といっても、ハシビロコウが狩りの助けになる? のかね。

 鳥だから空を飛べるし、戦闘の邪魔にはならないか。

 イマイチ釈然としないものの、新たな仲間というかペットが俺たちのパーティに加わったのだった。


 ◇◇◇

 

 ロードフェニックスの詰め所「鳳凰の翼」へ帰還した俺たちはケツアルカトル討伐の報告を行う。

 そこで久方ぶりの暖かい手の込んだ料理に舌鼓を打つ。

 ずっと肩に乗りっぱなしだったハシビロコウも、餌を前に床に降り立ち、もっしゃもっしゃとリンゴを咀嚼していた。

 何を食べるのか分からなかったけど、リンゴでよかったんだな。リンゴを食べるなら他のフルーツも食べそう。

 葉っぱを与えてみたら、不機嫌さを露わにして大きな枯葉のような嘴をポコポコと打ち鳴らし、威嚇された。

 こいつ、いつか丸焼きにして……ユエの柔らかな目線を感じ思い留まる。

 

「ロードフェニックスは鳥料理が多いんだな」

「みたいですね。街ごとの特産と言いますか」

「調味料もまるで違う。ロードフェニックスは赤色系ばっかりだ。辛いのは好きだから良いんだけど、ユエは大丈夫?」

「はい。辛い料理を食べたのは初めてですが、なかなかいけます」

「同じことを旅立つ前に会話した気がする」

「そうですね!」


 二人揃って笑い合い、和やかな時間が過ぎていく。

 食べ終わる頃になって、急に口数が少なくなるユエに突然どうしたものかと問いかける。

 

「気になることがあったか?」

「あ、あの。ロンスーさんはこの後どうされるおつもりなのですか? 朱雀は討伐しました。朱雀はどうでしたか?」

「一気に来たな……。まずは朱雀のことから始めようか」

「はい。お姉さん。お水を二つお願いします」


 俺の飲み物までちゃんとチェックしているユエにいつもながら感心しかない。彼女はいつもいつも俺のことを気にかけてくれている。

 こっちは……お世辞にも気が利いているとは言えないってのに。

 

「朱雀はユエも感じている通り、想定より弱かった。玄武と比べてどっちが……となると朱雀の方が総合的に強いんじゃないだろうか」

「玄武が耐久特化……でしたか」

「うん。どっちも瞬殺だったから何とも言えないけど……。体力的にはどちらも似たようなものだったんじゃないかと思っている」

「僅かな差、でしょうか。白虎も討伐してみますか?」

「いや、大して変わらないってことが分かったから、後は他の人に任せようかと思ってる」

「では、何を? ユエも、連れてってくださるのですか……?」


 なるほど。彼女が気にしていたところは自分が置いて行かれるかもしれないってことだったんだな。

 俺の目的を聞くと、彼女から離脱すると言いそうだけど……。嘘をついても仕方ないから、正直に彼女へ告げよう。

 

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