第22話 朱雀
武技と一言で表現しても、それぞれに特性がある。
武技で最も一般的なのは威力の上昇だ。普通に武器を振り回した時より威力が上がるってことだな。
強い敵ほど装甲が固くなり、ダメージを与えるためには武技を使わないといけないシーンも増える。なので、武技の多くは威力上昇するってわけだ。
他の特性として、連撃、飛距離、必中なんてものがある。残念なことに他のゲームでよくある貫通のような特性はない。
敵の装甲をゼロにしてダメージを与える貫通の特性があれば、初期武器でクリアする縛りプレイ動画とかを見ることができたかも。
話を戻す。
武器の性能があれば、連撃は有効だ。何より使っていて気持ちがいい。
双剣の第三の業「百花繚乱」は第一の業「迅雷」と威力が変わらないものの、10連撃を一度に繰り出すことができる。
壊れ性能だろ、と思うかもしれないけど「天狼伝」においてはそうでもない。第一の業ではかすり傷程度しかダメージが通らない相手だと10連打を当てても微妙だろ?
第三の業が連撃である双剣は外れ武器とか言われる所以だ。
残り二つの「飛距離」「必中」は更に不遇である。飛距離は文字通り攻撃の距離を伸ばすもので、俺の得意武器サイの第三の業「烈風」がそれだ。
基本遠距離攻撃ができるのは弓だけなのだけど、烈風を使えば弓のように遠距離攻撃ができるって寸法。その分、特性無しに比べて威力が落ちる。
必中も文字通り、業を放てば必ず当たる特性なのだけど、特性無しに比べて威力が落ちてしまう。
他のゲームだと呪文や魔法は必中の場合が多い。天狼伝には魔法がないので、その代わりみたいなものなのかな?
アクションRPGの天狼伝だと、武器を振って敵に当てれば回避されることがないので必中は微妙だし、溜め時間が必要な武技を使うためにわざわざ敵と距離をとって……なんてことをしないから飛距離も同じく微妙だ。
結論として威力上昇以外の特性が無い業が最も威力が高いので、重宝される。
ゲームならな。
と脳内で情報を再確認しつつも、体の動きは止めない。
今使っているのは最も重たい武器「戟」だ。
俺の感覚だとハルバードに近い印象で、同じく長柄の棍に比べても重たい。
長さも棍より長く、槍と並び最も長柄の武器となる。
槍は突き刺すのが主だけど、戟は突き、斬り、叩き、を使い分けることができて、使っていて面白い。
が、重くて大型なので小回りが利かず手数が出ないのが難点だな。しかし、一発の重さは全武器中最大である。
迫りくる羽毛で覆われた蛇のようなモンスター「ケツアルカトル」に戟を振るい横撃を喰らわせた。
さすがの最強武器で、通常攻撃でも易々と敵の装甲を貫き、ダメージを蓄積させることができている。
「ここはわたしが」
「任せた」
すっと体を右側に寄せ、ユエの攻撃を待つ。
「第一の業 打突」
クルリと槍を回転させたユエが槍を反対向けに持ち、石突で蛇の顎を突き上げた。
これが致命打となり、ケツアルカトルが動かなくなる。
「槍の扱いはどうだ?」
「問題ありません。あの時、さんざ使いましたので……」
「あの時……」
「……はい」
未だトラウマになっているスナギンチャク狩りを思い出し、うんざりした気持ちになる。
ユエも同じようで、スナギンチャクという言葉は決して口にしない。
翼の生えた蛇「ケツアルカトル」の死体から羽毛を剥ぎ取った後、木の根元に腰かける。
玄武の時と同じく、この場所も四方が崖に囲まれているボスエリアだ。
先に水を飲んでいたユエが俺が座ったタイミングで水袋を手渡して来る。
「ありがとう」
「ここは玄武の時と異なり、うっそうとしていますね」
「だなあ。といっても竜車が通れるほどの隙間はあるし、戦いに支障はない」
「はい。空からの急襲には木の裏に隠れるなど対応できそうです」
「木を余り信頼しない方がいい」
ふう。水を飲むと生き返るな。洞窟の中ならともかく、木だとブレスで薙ぎ倒されるかもしれない。
朱雀はこちらの手の届かぬ空から目にも止まらぬ速度で急降下してくるから、まともに相手をするとなるとリスクが高いと判断した。
どうするか考えた結果、戟と槍を選んだわけなのだが……。
「この木でも……」と呟いていたユエだったが、形のいい顎に指先をあて何やら考え事をしている。
朱雀の出現条件であるケツアルカトルは仕留めたので、後は待つだけ。今しばらく時間があるので、彼女と会話する余裕はまだある。
どうしたと彼女へ目線を送ると、おずおずと彼女が疑問を口にした。
「玄武の時にも抱いた疑問があります」
「今回は玄武の時と違ってケツアルカトル一体を仕留めれば問題ない」
「いえ、そこではなく。ロードフェニックスで受領できるクエストのことです」
「そっちか。一応、ケツアルカトルの討伐クエストは受けてきたから、羽毛は持って帰らないとな」
「そ、それでもなく。最高位のクエストが『サンダーバードの討伐』でした。ケツアルカトルより難易度が高かったですよね」
「言わんとしていることが何となくわかったよ。朱雀の手前に出てくる護衛がサンダーバードじゃなくてケツアルカトルってところが引っかかっていたんだな」
「はい」
サンダーバードとケツアルカトルでは強さに雲泥の差がある。
天狼伝だとサンダーバードは朱雀の次に強い中ボス扱いだった。
「サンダーバードは朱雀と戦うための手がかりが手に入る、俺は『夢』でどこに朱雀がいるか知っているから戦う必要がなかったんだ」
「なるほど。サンダーバードは場所を秘匿するためのキーだったのですね。それなら納得です」
サンダーバードを倒すと、朱雀討伐のためのフラグが立つ。ここはゲームじゃないからどのような感じで情報が手に入るのか分からないけど。
他の街でも最高難度の討伐対象を倒したら、四神の情報が手に入るようになっていた。
俺の場合、四神の出現場所と出現方法を知っているので、わざわざサンダーバードやらと戦う必要はないってことだ。ははは。
無駄な動きは極力避ける。中ボスに会いに行くのも険しい道を数日かけて進まなきゃなんないからね。
――クアアアアアアアア!
物凄い鳴き声に口に含んだ水を吐き出してしまう。
行動とは裏腹に真剣な顔でユエと頷き合い、ゆっくりと立ち上がった。
「朱雀だ」
俺の声が再びの鳴き声にかき消される。
上空に現れたのは翼開帳15メートルほどの巨鳥だった。鮮やかな深紅の翼を開き、ホバリングしている。
枯葉のような嘴にぎょろりとした丸い目。
空から地を這う子虫どもを悠然と見下ろすその姿には神々しさまで感じる。
……のだろうな。ユエなら。
チラリと彼女に目をやると、槍を握りしめる手が小刻みに震えているようだった。
でもなあ、俺の感覚からしてみると、雄大さとか畏れとかは抱かない。
確かに巨体だ。巨体故の怖さは覚えるのだけど、見た目があれじゃあさ。
一言でいうと、朱雀は色こそ違えど動物園の人気者「ハシビロコウ」そのものなのだから。
朱雀との距離は凡そ50メートル。
「ちょうどいい距離だ。仕掛けるぞ」
「は、はい……」
心の中でゆっくりと数を数え始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます