第21話 閑話3.ティエンランとリーツゥー

「二のわざ 流星」


 番えた矢を業名の宣言と共に放つ。放つ矢が光に包まれ、輝きを増し、ラクビーボールのような流星となって水ブレスを打ち破り硬い鱗で覆われた喉に突き刺さる。確かに刺さったはずなのに、蛇のような青緑の鱗をを持つ水龍は意に介した様子もない。

 水龍……やっぱり強敵だわ。詰め所で受けることのできるクエストの中で最高ランクに位置するだけはある。

 クエストとして準備はされてないけど、水龍より上に青龍もいるというのに。本当に私たちが青龍を仕留めることができるのかしら。

 ティエンランが雄叫びと共に高く飛び上がり、青龍刀を振り下ろす。

 キインと澄んだ音が響き、水龍の青緑の鱗に青龍刀が弾かれてしまう。反撃とばかりに水龍の鋭い爪が彼を襲うが、彼の体が横に飛ぶ。

 横からダチョウ狼が彼の体を押したからだ。

 間一髪で水龍の攻撃を凌いだティエンランが業を放つ。

 

「二の業 屠竜とりょう


 今度は攻撃が通る。水龍の首筋に切れ目が入り、ドバっと血が吹き出す。

 二……三。よし!

 

「二の業 流星」


 二度目の流星が水龍の傷付いた首元へ突き刺さった。

 そこへティエンランが屠竜を決め、水龍の首が落ちる。

 

 ドオオン、と地に落ちる水龍。

 その勢いで私の髪がふわりと浮き上がった。

 

「やったな!」

「うぉうぉ」


 結局二人と一匹で水龍に挑むなんて想定外だわ……。「仲間を、仲間を」なんて言いつつ、すぐにクエストを受けちゃって街を飛び出しちゃうものだから。

 あれよあれよという間に水龍に挑戦となっちゃった。

 この勢いだと青龍にも挑みそうね、ティエンランは。二人だとさすがに厳しくない?

 い、いやでも。私たちは二人ではない。二人と一匹だ。

 地味にいい動きをするのよね、うぉうぉのやつったら。絶対に、絶対に褒めないけど!

 相変わらず、ぴょこぴょこ寄ってきて甘えたそうな態度をとって来ては威嚇するを繰り返すダチョウ狼は可愛くない。

 見た目が愛らしければまだ可愛げがあるのだけど、不気味で派手派手だし。

 あ、ダチョウ狼じゃなかったわね。ランニャオだっけ。ティエンランがダチョウ狼に名前をつけていたわ。

 何がニャオよ。ぜんぜんぜんぜんぜん可愛くないんだから!

 

 無邪気に喜ぶティエンランと共に雄叫びをあげるランニャオ。不覚にも一人と一匹の姿に頬が緩んでしまう。


「ちがーう」

「何が違うんだ?」

「こっちの話。大した傷もなく仕留めることができたわね」

「おう。何とかなるもんだ」


 屈託ない笑顔を向けるティエンランに精一杯の笑顔を返す。

 ん、そうよね。私からも歩み寄らないと仲良くなんて慣れないよね。

 ふうと自分の髪の先に触れ、ダチョウ狼を見上げる。

 

「うぉうぉ」


 ダラダラと涎を垂らし、私の髪の毛にそれがかかった。

 が、我慢よ。

 引きつった笑みを浮かべつつ、彼の首へ手を伸ばす。

 ……噛みつかれそうになり、慌てて手を引いた。


「やっぱり無理ー」

「うぉうぉ!」


 ジタバタとその場で足踏みをするランニャオに背を向け頬を膨らませる。

 そんな私とランニャオの様子に腹を抱えて笑うティエンランなのであった。

 

 ◇◇◇

 

 数日かけて詰め所に戻った私たち。

 どうも詰め所の様子がいつもと違う。ざわざわした室内がシーンと静まり返り、全員が私たちに注目している。


「お、おおお! 戻ってきやがった!」

「やったんだな。水龍を!」


 ベテランバスターの渋いお兄さんと熊みたいな男が立ち上がって歓声をあげた。

 ティエンランが「お、おう」と右手をあげて返すと、そこかしこから拍手と歓声が湧き上がる。

 詰め所のトップに呼び出しを受け、彼からの説明でようやく大歓声の謎が解けたの。

 ドラゴンズロアの詰め所「竜の牙」の代表に代々受け継がれている水晶玉があって、それが割れたんだって。

 この水晶玉は曰く付きの水晶玉だったの。


「水晶玉が割れたから俺たちが水龍を倒したのが分かったってことなのか?」

「そうだ。この話には続きがあってな」


 ティエンランの問いかけに竜の牙代表は丸太のような腕を組み、深く頷く。

 『水龍が倒れる時、水晶玉は知らせをもたらす。水龍は尖兵に過ぎない。備えよ。龍の王に。龍の王こそは全ての龍を生み出す元凶。心してかかれ、龍の王「青龍」に』

 

「……というわけだ」

「青龍か。どこにいるんだ?」

「まだ分からん。大規模な捜索隊を派遣した。そのうち分かるだろ」

「青龍に出会って無事に帰還できるのか?」


 ティエンランにしては冴えた突っ込みに対し、代表はニヤリと口角をあげる。

 龍の王は水龍より巨体なはず。ならば、遠くからでも発見できるし、目の良いものを集めている。自然の中に身を潜めることに特化した者たちだから心配ないとのことだった。


「見つけたら。クエストを出す。その時は頼めるか?」

「もちろんだ! それまでにビッチリ鍛えておくぜ!」


 え、えええ。

 分かってる。分かってるわよ。まだまだ私たちの力じゃ青龍には足りないってことくらい。

 最低限、三の業を習得しなきゃ、だよね。

 またお風呂に入れない日々が続くことに気が滅入ってくる。

 せめて、二日くらいは休ませてくれるわよね? ね、ティエンラン。

 縋るような目で彼を見つめていたら、いい笑顔で彼が。

 

「そんじゃ、さっそくクエストを受けに行こうぜ」


 なんてのたまった。

 

「ま、待ってティエンラン。水龍を倒したからお金が入るでしょ」

「だな」

「それに水龍の素材もあるから、武器一新しない? それから、薬とか旅支度も整えたいわ」

「新しい武器! 心躍るな! よっし、じゃあ、さっそく武器を頼みに行って、武器が完成したらクエストに行こうぜ」

「うん」


 ほっと胸を撫でおろし、しばしの休息を取れることに安堵する。

 次はいよいよ青龍と決戦かあ。

 水龍を倒すまで誰も青龍のことを知らなかったのに、もうバスターのみんなが知ることになっている。

 これがフラグというものなのかも。街で受領できる最高難度のクエストを達成すると、ボスの噂が出てきてボスのクエストを受けることができるようになるってわけね。

 となると、他の街でも同じようにすれば四神と戦えるようになり、四神のことを知ることができる。

 なるほど。とってもゲーム的だけど分かりやすいわ。

 そういえば、青龍の前に立ちふさがって私たちを助けてくれたロンスーさんは今どこにいるんだろう?

 食事を共にしてから彼の噂をとんと聞かなくなった。別の街で活躍しているのかな?

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