第20話 ゲームのシナリオ

「ティエンランはメキメキと実力をつけ、四神の存在を知る。彼もまた幼い頃にモンスターによって父親を亡くしている。モンスターのいない世の中を目指し、彼は四神に挑むことを決意した」

「あの少年が、ですか」

「四神を倒そうとする彼に多くの実力者が協力して、お互いに切磋琢磨し、ついに彼は四神の一柱『青龍』と対峙し、打ち滅ぼした」

「青龍……思い出すだけで体が震えます」

「俺もできれば二度と会いたくないな。青龍には。この後、ティエンラン一行は朱雀、玄武、白虎を滅ぼし、世界に平和をもたらしたんだ」


 ここで言葉を切り、乾いた喉を潤す。

 昇竜の世話をしていたユエも話が進むと俺の隣にペタンと腰かけ、真剣に話を聞いてくれていた。


「ロンスーさんは、物語と異なり、玄武を討伐したことで悩まれていたのですか?」

「いや、そこじゃない。俺が夢で見た玄武はもっと強かったんだ」

「いくつか気になったことがあります。以前、何故、モンスターはバスターを人間ばかりを襲ってくるのかというお話をしましたよね」

「うん。モンスターがしいては四神が力を得るために人間を襲うってやつだよな」

「はい。ロンスーさんの夢で見た物語より早く玄武と戦ったから、かもしれません」


 そいつは俺も可能性の一つとして考慮に入れていたが、玄武は余りに弱すぎたんだ。


「玄武は四神の中でも二番目に強かった。タフさが売りの玄武が僅か三発で倒れるとは」

「二発……だと思います。ロンスーさんの『抜刀つばめ返し』で致命傷だったように見えました。わたしの追撃が無くとも終わっていたような気がします」

「いくら無何有むかうシリーズでもなあ。無何有むかうシリーズは、四神を討伐した後にご褒美としてティエンランたちが授かった武器なんだ。四神を倒した彼らの武器よりも強い」

「武器の強さですか。わたしは別のことを思い浮かべました」

「どんなことを?」

「順番です。物語によると青龍、朱雀、玄武、白虎の順に討伐したのですよね。それが今回、玄武からですので順に強くなっていくのでは? とか」

「なるほど……」


 討伐順で強さが変わる……。彼女はゲームのことを知らないのにとてもゲーム的な考えだな。

 主人公らは順に強くなっていくから、物語の後半になるにつれてボスも強くなる。

 この世界がゲームなら、彼女の考えはしっくりくるけど……この世界はゲームじゃないからなあ。

 その証拠に俺が生き残っているし、青龍と朱雀が倒れる前に玄武を倒すことができた。

 悩む俺にユエは指先を口元に当て、とんでもない提案をしてくる。

 

「朱雀を討伐してみませんか?」

「ちょ。四神をまるで買い物にでも行くかのような手軽さで」

「ロンスーさんなら……ロンスーさんとわたしなら、行けるはずです。玄武を討伐したのですから」

「朱雀は玄武より倒しやすいか、と言われるとそうでもないのだけど……強さを見て撤退するのも……」


 天狼伝ゲームで二番目に戦う四神は朱雀だ。

 現実では玄武が討伐されているので、次に朱雀と対峙すれば天狼伝ゲームと同じ二番目に戦う敵となる。

 朱雀の強さが想像した通りだったなら、ユエの説が俄かに現実味を帯びて来るってわけか。

 俺としても不可解な事象の解明をしたいところ。

 玄武を倒した……いや、ユエがティエンランのパーティに加わらなかったことで既に物語は崩壊しているわけだし、今更朱雀を追加で討伐したところで体勢に影響はないか。

 ティエンランたちには残り二体の討伐をしてもらえばいい。

 眉をひそめ、顎に手を当てる俺の態度に不安を覚えたのか秀麗な眉をピクリとあげたユエが俺を見上げてくる。

 

「朱雀はそれほどまでに強いのでしょうか?」

「トータルの強さは玄武なのだけど、玄武は極端に装甲とタフさに偏っている。朱雀も特化型でさ」

「速度……ですか?」

「ご名答。飛行する鳥型だけに、空から強襲して離れるヒットアンドアウェイを得意としている」

「目にも止まらぬ速度となりますと……回避することもままならない、わけですね」

「案はある。上手くいかなかった場合に、相手が飛行しているからどうやって撒くかの対策を練ることができれば朱雀と戦いに行く、はどうだ?」


 俺の提案にコクリと頷くを返すユエ。

 朱雀はスピード特化タイプと、やり辛い相手だ。防御特化なら最強武器で貫けばいいだけだったんだけど、速度特化なら攻撃を当てることも大変だし、回避することも同じく、である。

 幸い俺たちは二人で、朱雀の体力は高くない。更に紙装甲なのだけど、俺たちにとっては特に有利に働く弱点にはならないかな。

 俺が防御に専念して、ユエが必中の武技を使えばいけそうな気がする。

 問題はユエに言った通り俺たちの戦法が通用しなかった場合の撤退方法だ。

 どうすっかなあ……。ブラックロックへ戻る道すがら無い知恵を絞ってみることにしよう。

 悩む俺にユエがふと疑問を投げかけてくる。


「朱雀はどちらの街なのですか? 名前からするとホワイトクリスタルではなくロードフェニックスでしょうか」

「ご名答。ロードフェニックスになる」


 ブラックロックへ戻るまでに思いつかなくても、次はロードフェニックスまでの道のりもある。

 ユエにも相談しながら妙案が浮かぶまでじっくりと考えればいいさ。

 どうしても浮かばなかったら、その時またどうするか彼女と決めればいい。

 こうして、図らずとも次の目標は朱雀となったのだった。

 

 ◇◇◇

 

 ブラックロックの街に到着したが、街は特に変わった様子はない。

 天狼伝ゲームだと、街がお祭り騒ぎになる。もうモンスターに悩まされることはなくなった、ってね。

 天狼伝ゲームで玄武は三体目に倒された四神だ。四神も三体目ともなると、徐々に四神とモンスターの関係性の噂が広まり、討伐している英雄がいるといった感じになっている。もちろん、一部の者はティエンランらの功績だと知っていた。

 天狼伝ゲームと違って、まだ四神の存在が知られていないし、玄武を倒したからといってモンスターが増えることが停止するものの、既存のモンスターは消えない。四神を全て倒したら、既存のモンスターも光となり宝来の玉に封印されるけど、ね。

 そのうち彼らも気がつくことになるだろう。

 四神が全て倒される前か後かは街の人次第だな、うん。


 そんなわけで俺とユエはでクエスト報告を行い、その日はゆっくりと部屋で休んだ(交代で番をしつつ)。

 翌朝、受付の人にファイアフェニックスに向かうと告げたら、朝から飲んでいた以前から絡んできていた男たちに朝食へ誘われた。

 こいつら、いつもギルドにいるよな。いつクエストに行ってるんだろう。

 何のかんので俺たちに気をかけてくれていたらしく、朝食を奢ってくれて、頑張れよ!とバシンと背中を叩かれた。

 何だよ。初級者に憎まれ役を買って出ていただけで、実は世話すきだったとか誰得なんだよ。そういうのは美女がやってこそだぞ。おっさんは口数少なく……はこの人たちには無理か。あはは。


「またブラックロックに来る。おっさんたちもはやく職を探せよ」

「おいおい、兄ちゃんよ。俺たちゃこれでも中堅バスターだぜ」

「分かった分かった。酒臭い」

「そうだな。もうすこしばかり歳をとったら畑でも耕すとしようか」

「すぐにでも、そうしたほうがいいんじゃないか。大怪我をする前にな」

「何言ってんだ! 俺たちゃまだまだ現役だぜ! こっちもな」


 バシンと股間を叩き下品な笑い声をあげる男二人。無駄に息が合ってる。

 ユエの目を手で遮った。汚物を見せないようにしないとな。

 足がけ三日しかいなかったけど、黒曜石の街ブラックロックは中々に思い出深い街となった。平和になったらまた来よう。


 名残り惜しげに空を仰ぎ見て、目線を前に戻す。


「よし、行こうか」

「はい。ファイアフェニックスがどのような街か楽しみです」


 顔を見合わせ頷き合い、竜車の手綱を引く。

 昇竜がグルグルと喉を鳴らし、ガラガラと車輪の音が響き始める。

 俺はこの時の選択を後悔しようものになるとはこの時は思いもしなかった。

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