第14話 ひたすら叩け

 叩く、叩く、そして、叩く。

 ひたすら、叩く。叩きまくる。

 アヒャヒャヒャ。ヒャッハー。叩け、叩け、叩くのだああ。

 この体力、尽きるまで。


「ロ、ロンスーさん……」

「お、すまん。変な方向にトリップしていた」

「はあはあ……す、少し、休憩させていただけませんか?」

「気が付かず、ごめん。あいつらは湖から出てこない。御者台で休憩を挟みながら、戦ってくれ」


 湖から出たユエを追いかけようとするハナギンチャクはいない。

 全部俺に向かってくるが、風車のように棍を回転させ全滅させた。

 ボコボコと次の八体が湧いてくる。

 やはりこの場所は素晴らしい。

 即湧き、無限なうえに、全滅させないと次が湧かないし、湖の外に出れば戦闘を終了させることができる。

 レベリングには最適だぜ。

 レベリングといっても、天狼伝の世界にはレベルというものはない。

 強さを決めるのは装備と武技、あとはプレイヤースキルだな。

 この中で武技は修行することで習得することができるものとなっている。レベリングと言ったが、武技を習得することなんだ。

 

「そのためにも、ひたすら、叩く!」


 棍の扱いにも慣れてきた。サイに比べ遠いところまで届くが、その分取り回しにもたつく。

 サイだと超接近戦になるから、棍の方が安全に戦うことができるかな。

 謎のハイテンションが終わると、冷静に考えつつ棍を振るい、その後、俺は考えることをやめた。

 単純作業とはとかく退屈なものだ。無心で振るい続け、日没を迎える。

 

 その日の晩、放心状態で鍋を煮込む俺たち。

 頬に両手をあて、ふああとあくびをかみ殺したユエが、んーっと背筋を伸ばす。

 

「慣れてくると退屈になってくるよな」

「厳しい修行と思っていたのですが……」

「そうだな。たぶんそろそろ、二のわざが使えるようになっていると思うんだけど、もう少しかもしれない。試してみようか」

「わたしが、ですか?」


 うんうんと頷き、立ち上がると彼女もつられて立ち上がる。

 彼女は双剣が得意武器だから、習得も早いだろ。


「武技を放つ時の感覚はどうやっている?」

「心の中でゆっくりと一を数えてます」

「俺もそんな感じだ。よし、復習しよう。各武器はそれぞれ三つ武技を習得できる」

「はい。武技を習得するための修行にここへきている、でしたよね」

「そそ。武技は最初に習得できるものを一の業、次が二の業、最後が三の業と呼んでいる。サイの場合は一のわざが連山、二の業が疾風撃、三の業が烈風だな」

「双剣は第一の業が迅雷、第二の業が竜波、第三の業が百花繚乱です」


 ここで一旦言葉を切り、次に業の出し方についてに話題を移す。

 

「話を戻すけど、一の業がゆっくりと一まで数えるとしたら、二の業は三まで、三の業は五まで数え、気力を溜めれば発動する」

「二も三も気力を溜めて、武技名を口に出せばよいのですね」

「うん。そんなところ。注意するのは、一日で放つことのできる回数制限がそれぞれ五、三、一と減って行くことに注意が必要だ。その分、威力があがるけどね」

「三の業は一回……使いどころが難しいのですね。修行をすれば、わたしの一の業もそのうち五回まで使えるようになるということですよね」

「そそ。あと、三の業は溜める隙も大きい。その分、威力は折り紙付きだ」


 さて、復習もこれで終わりだ。

 二の業「竜波」が発動すれば大万歳。発動しなければ明日一日、ひたすらスナギンチャクを叩いて再度試す。

 これでダメなら、別の手段を考えよう。

 

 ユエに目で合図をすると、彼女は双剣を構え湖の方を向く。


「二の業『竜波』」

 

 彼女の持つ双剣がひらめくと、刃の先からオレンジ色の衝撃波が生まれ出て、湖面を削る。


「で、できました……」

「素晴らしい! この調子で修行すればいけそうだな」

「で、ですが、たったの半日で習得できるようなものなのですか……スナギンチャクを斬っていただけですよ」

「そこだよ。俺は常々考えていたんだ」


 常々云々はゲームの仕様だから何てことを言えないからである。

 その場に腰かけ、彼女にも座るように促す。

 ペタンと彼女がお尻をつけた後、艶めかしい太ももに目線がいかないように注意しつつ自分の考えを彼女に伝え始める。

 

 ただただ武器を振っていても武技を習得することはできない。例外はバスターになるための条件でもある、初めて習得する武技だけ。

 これだけは武器を振っていても習得できる。

 その後は、モンスターに対して武器を振るった回数に応じて武技を習得することができるのだ。

 また、あくまで武器を振った回数が武技習得に関わる要素で、敵の強さは問わない。

 強い敵と戦った方が早く習得できそうなものなのだけど、そうじゃないところが嫌らしい仕様である。


「そ、そんなことが」

「実際試してみて、ユエが二の業を習得できたことから、二の業だろうが三の業だろうがスナギンチャクを斬っていれば使うことができるようになる、はずだ」

「三の業になると、上級クエストまで行かないと習得できないと普通考えますよね」

「うん。俺が三の業を覚えたのは初級者の手伝いをしている時だったんだよ。それで不思議に思って、今回試してみようと思ったわけさ」


 腹落ちしたようにコクリと可愛らしく首を振るユエに少しだけ心が痛む。

 嘘ではないけど、ゲームをしていて気が付いたこと。後で攻略サイトを見てみたら、やっぱりというやつだ。

 

「そろそろ、いい感じに煮込まれてきたかな」

「はい。食べましょうか!」


 ユエが入れてくれた器から立ち上るおいしそうな匂いに喉を鳴らしつつ、少し冷えるのを待つ。

 待ちきれない彼女ははふはふとしながら、口をつけている。


「しばらくここに籠る。飽きる作業だけど、頑張ろう」

「もちろんです!」

「たぶん、二週……ひょっとしたら三週かも。三の業を習得するには時間がかかるんだ」

「そ、そうですか……」


 げっそりとする俺とユエなのであった。

 

 ◇◇◇

 

 あれから二週間と三日が過ぎたのだろうか……。

 ついに、修行が完了した。

 死んだ目でひたすらスナギンチャクを倒して倒して……何匹やったのかなんて分からん。

 

「ロンスーさん、馬車に積み込めない分はどうしましょうか」

「大量に袋と箱を持ってきたってのに、いいやもう置いて行こう」

「そうするしかないですよね……」


 しっかり蛍光色も集めていたんだぜ。スナギンチャクの触手は通常純白なのだけど、稀に色違いがいるんだ。

 それらはみんな蛍光色で黄色とか緑とか紫なんかがいる。こいつらを破裂させたら、ビー玉くらいの体色と同じ色の蛍光色が手に入る。

 ブヨブヨしていてボール型の洗剤みたいな玉なのだけど……塵も積もれば山となるの言葉通り、馬車に積みきれないほどになってしまった。

 俺たちがどれだけスナギンチャクを狩ったかが分かるってもんだ。

 蛍光色は初級者向けクエストの採取品だけに、一個一個は安いけどこれだけあれば結構なお金になるんじゃないかな。

 

 そんなこんなで修行を終えた俺たちは一旦ブラックロックの街へ戻ることにしたのだった。


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