第11話 閑話2 ティエンランとリーツゥー 

「おおーい。置いてくぞー」

「ほんと元気ね。あなた……」


 今日も今日とて狩りの日々よ。どうしてティエンランはあんなに元気なの。三週間くらい毎日毎日モンスターを狩り続けたからか、私もティエンランも第一の業が五回まで使えるようになった。

 急がなくたってモンスターはいなくなるわけじゃないんだし。

 今日から中級者用のクエストなのだから、少しくらい慎重になってもいいと思うの。

 それに、何かしらあの子……。

 ティエンランと並ぶようにしてのしのし歩くダチョウのような動物? モンスター? は。

 昇竜の亜種に見えなくも……無理よ、あれはどう見たって昇竜じゃないわ。

 だって羽毛が全身を覆っているのだもの。それもインコのように派手派手な色。

 インコとしてはメジャーな色合いよね。黄緑色と黄色。だけど、顔に嘴は無くて狼のような顔をしているわ。でも、二足歩行で前腕は短い。私の感覚だととても奇妙な動物。それがあの子だった。


 モンスターを発見したらしいティエンランがダチョウ狼と共に全速で駆け出す。

 ちょ、ちょっとお。私のことも少しは見て……。なんて、夢中なティエンランに見えているはずもないので、息を切らせつつ彼らの後を追う。

 なるほど、あいつね。

 空を舞う翼竜のようなモンスターがティエンランに後脚を向ける。鋭い鉤爪が鈍く光った気がした。詰め所のイラストで見た通りね。

 あれが目標のモンスター、中級クエストの登竜門たる「レッサーワイバーン」で間違いないわ。

 開帳翼長はおよそ3メートル半。青龍に比べれば大人と子供以上に大きさの差がある。

 脚の鉤爪か刃のようになった翼の先、あとは鋭い牙かな。どれかで地上にいるバスターへ襲いかかってくる。空から地上へ空から地上へを繰り返されると倒し辛い。

 ティエンランは青龍刀を抜き、バタバタを上へ向けて振っている。ダチョウ狼も雄叫びをあげてて……だ、誰も見ていないわよね。

 ちょっと恥ずかしいのだけど……。

 口元をピクピクさせながら、矢を番る。


「一の業 曲射」


 赤い光を纏った矢が飛ぶ。

 ヒュンと風を切る音がして、矢がレッサーワイバーンの右目に突き刺さった。


 レッサーワイバーンは鼓膜が破れそうなほどの叫び声をあげて大きく首を左右に振る。怒り心頭で両脚を前に出して、翼を開き、再度大きな咆哮をあげた。


「一の業 曲射」


 しかし、レッサーワイバーンが間に次射の準備を整えた私の矢が左目に突き刺さる。

 これが致命傷となって、レッサーワイバーンは地面に落ちたわ。


「リーツゥー!」

「な、なによ」


 「横取りされたー」と文句を言うのかな。ティエンランはあれだけ必死にバタバタしていたもんね。

 だけど、青龍刀を振り上げるあの姿があまりに滑稽で見てられなかったのよお。

 でも、彼は怒るどろかニカっと白い歯を見せ笑う。


「すげえじゃないか! 弓もつええな!」

「う、うん」


 程度の低い考えをしていた自分が恥ずかしくなり、かああっと頬が熱くなっちゃった。

 「なんだ、熱か?」なんてデリカシーのないティエンランをキッと睨む。


「な、何だよ」

「その子、何ものなの? そんなペットを飼った覚えはないのだけど」


 恥ずかしさから別のことを口走ってしまう。でも、ダチョウ狼のことはすぐに聞こうと思っていたので間違った発言じゃないわよ。うんうん。


「いつ間にかいた。変な顔してるよな、こいつ!」

「うぉうぉ」


 な、何なの。いい笑顔でダチョウ狼の首をぽんぽんするティエンランに絶句した。

 ダチョウ狼はダチョウ狼で不気味な声で鳴いてるし。

 ま、負けるものか。ちゃんとピシッと言ってやるんだからね。


「その変なのはどうするつもり?」

「そうだな。来るか、お前も」

「うぉうぉ」


 ティエンランの問いかけにダチョウ狼は首をカックンカックン振って尻尾を上にあげる。

 つ、ついてくるの?

 あんな変な動物は動画サイトのキャラクター紹介にはいなかった……よね。

 特に害は無さそうだけど、戦えそうにもない、かな?

 この際邪魔しなきゃいいと割り切ろう。

 頑張れ私! この程度で動じていちゃあダメなんだからね。

 パーティに新しい仲間を迎え入れる前に変なペットに懐かれてしまった私たち……ううん、ティエンランだけだから!


 ◇◇◇


 ダチョウ狼とティエンランが野を駆け、小川を渡り、レッサーワイバーンに追いかけ回される。そこを私が弓で狙いをつけ仕留めた。

 何度か同じことを繰り返したけど、さすがのティエンランも自分が青龍刀を振り回さないと狩りを終えるもの早いみたい。

 今日は久しぶりに早く詰め所に帰ることができるわね。

 んーと伸びをして、ふうと息を吐く。

 そこへ、ダチョウ狼が寄ってきて頭を下に向けた。

 な、撫でろとでも言うの?

 わ、私を懐柔しようたってそうはいかないんだから。つんと顎を上に向け両手を組む。

 それでもダチョウ狼は体勢を変えぬままじっとしている。

 し、仕方ないわね。撫でればいいんでしょ、撫でれば。

 すっとダチョウ狼の頭に手を伸ばす……。


「うぉうぉ!」

「きゃ!」


 思いっきり威嚇された。

 も、もおお! どうするのよ、この子。ギギギっと首をティエンランの方へ向ける。

 

「ティエンラン」

「おう」

「仲間、探そう」

「今んとこ二人でも何とかなってんじゃねえか」

「この子の世話もするとなると、二人じゃ大変よ」

「ん、確かに」


 彼が分かっているのか分かっていないのか微妙なところだ。更に強いモンスター相手になってくると夜営も必要になってくる。

 二人だと夜の見張りの時間も長くなっちゃうし。彼のことだから、どんどん強いモンスターに挑戦しようとするよね?

 そうは言っても、なかなか良い人っていないものなのよ。

 動画で見たキャラクターとそっくりな人だったら間違いないか。でも、女の子ばっかりだったの。

 変な男を加えるよりはいいんだけど、う、うーん。

 難しいところね。

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