第10話 集めよう最強の武器ってやつを

 集めよう。最強武器を。クリア後のダンジョンで手に入る武器はクリア前のものと雲泥の差があるのだ。

 モンスターもいないし、今なら探索のし放題だぜ。

 裏ボスがとんでもなく強いので、ばら撒く武器も大盤振る舞いってやつよお。笑いが止まらない。ふ、ふふ。ははははは。


「今度はげきですか……。一体幾つの武器がここに」

「戟で最後だ。これで全種揃ったな」

「は、はい。確かに。バスターが扱う八種の武器が揃いました」

「あと一つ、お宝があるはず。そいつも回収していくぞ」


 台座の上に浮かぶ長柄の先が矛と斧の刃のようなものが付属した戟と呼ばれる武器を手に取る。

 ユエの言う通り、これで八種の武器が揃った。

 ユエの初期装備である双剣に始まり、俺の得意武器サイ、他には槍、青龍刀、長弓、扇、棍、そして戟の八種である。

 全部一人で持つと移動が相当制限されてしまうので、ユエと手分けをしてここまで持ち運んできた。

 一度街に戻って、専用の吊り下げ具か紐を準備したいところだな。

 今は雑に持ってきたロープで括りつけているだけ……いざ戦うとなると武器を地面に置いてからじゃないと厳しいと思う。

 

「ロンスーさんはサイを使うのですよね。わたしは双剣です」

「他の武器も使おうと思えば使うことができるさ。練習次第だよ」

「他の武器を使うと双剣の練習になったり、するのですね」


 ユエが何やら勝手に納得しているが、俺の真意とはまるで異なる。

 文字通り、「他の武器も使う」という意味で発言した。

 俺の場合、恐らくだけどサイ以外の武器種では武技を使うことができないだろう。試したら他の武器種でも使えるかもしれないけど、サイほどではないはず。

 ユエに至っては、初期装備の双剣の武技を一つ使うことができるだけだ。

 天狼伝ゲームの最大パーティ人数は4人だけど、武器の種類は8種類ある。ゲームでは誰でもどの武器種であっても装備することができるんだ。

 キャラクターによって得意武器みたいなものが設定されていて、得意武器であれば武技の習得が早い。

 といっても得意武器じゃないといけないってわけじゃあない。戟とか長柄の武器を振り回すと爽快だしさ。

 多少武技を覚えるまでに時間がかかるだけで、どの武器種を使っていてもクリアまで問題ない仕様だった。

 何が言いたいのかというと、何も使うことができる武器種を1つに限定する必要はないってことさ。

 せっかく8種の最強武器が手に入ったわけだし、これを生かさぬ手はないだろ。

 武技を覚えることは手間だが、モンスターによって戦いやすい武器種ってのはある。使うことができる武器種が多ければ多いほど対応しやすいってわけだ。

 もっとも……サイを極めてから次の武器種へ、のつもりでいる。

 

「よっし、この部屋で終わりだ」


 双剣なら青龍刀がいいのかな……なんて呟いているユエがハッとこちらへ顔を向けた。

 かあああと頬が赤くなった彼女は「は、はい……」とうつむいて恥ずかしそうに声を出す。

 俺も考え事をしながら呟くことなんてしょっちゅうだ。独り言を聞かれちゃうと如何ともしがたい恥ずかしさと気まずさがこみ上げて来るよな。

 分かる分かる。だけど、恥ずかしがっている暇はないぞ。

 

 扉で区切られてはいないので、ぽっかりと空いた壁穴から中へ入る。

 ここも台座に武器が浮いていた部屋と同じで「宇宙部屋」だ。ただし、広さは他の部屋に比べて5倍ほどある。

 この部屋は裏ボスが待ち構えている空間で、奥に円形の魔法陣があって手のひらサイズの水晶玉が浮いていた。

 水晶玉は中に針金状になった金色がびっしりと詰まっていて、ランタンの光にキラキラ反射して非常に美しい。

 

「綺麗です……吸い込まれそうなほどに」

「だな。キラキラしてる」

「これも、持って行くのですか?」

「うん。これも重要なアイテムだから」


 水晶玉の名称は宝来ほうらいの玉と言う。

 四神を倒すと、この玉が光り輝いて弾け飛び、裏ボスが出現する。

 どう取り扱うかは要検討だけど、この場に置いておくよりはいいだろ。

 裏ボスが出現したりなんかしたら事だ……。四神なんかとは比べものにならないくらい強い。

 

「取るものは取ったし、これで撤収だ」


 当然のように宝来の玉を懐に仕舞い込んだ後、いい笑顔をユエに向ける。

 彼女も慣れてきたのか、若干引きつりながらも何も言わず頷きを返した。

 

 ◇◇◇

 

 ホクホク顔で馬車に戻った俺たちは四神のうち一柱「玄武」に対する街「ブラックロック」を目指す。

 ティエンランの代わりに玄武を討伐しようとブラックロックに移動してクエストを受け、お金を稼ぎつつ鍛えようなんて考えていた。

 しかし、よくよく考えてみると、先ずブラックロックに向かうのは一石二鳥だな。

 

 馬車に揺られながら、無造作に置かれる最強の武器「無何有むかうシリーズ」に目を落としていたユエがふと問いかけてくる。

 

「このまま真っ直ぐブラックロックを目指す、でいいですか?」

「ドラゴンズロア側から馬車のまま進めたし、ブラックロックへも馬車のまま進めるかなって」

「わたしも同じことを考えておりました。もし、途中で進めなくなったらドラゴンズロア側の街道まで戻りますか?」

「その時は仕方ない。馬車無しでブラックロックに到着しても、なあ」


 ユエと同じく目線を後方へ。武器を持って、元々馬車に積み込んでいる荷物までとなると身動きできなくなる。


「うーん」

「ロンスーさん!」

「ん?」

「前! 前!」

「あ、うお」


 そうだった。手綱を握っていたのは俺だったんだ。

 わき見運転厳禁。これが車だったら木に激突していたはず。

 しかし、昇竜は自分がぶつかりそうになったら手綱の指示に従わず障害物を避ける。自分から怪我しに行くなんてことはしない。

 余りに命令を聞かないのも問題ではあるが、事故を起こしそうになって回避してくれるのは生物ならでは。


「ふ、ふう……」


 浮かれていたよな。俺。

 地下に天空の城があって、まんまと最強武器を集めることができた。

 強くなった自分とユエの姿を想像し玄武なんて「よゆー」なんて気が緩んでいたのだ。

 小物ほど調子に乗り、強者はどれだけの成功を餌にチラつかれても平静を保つ。

 武器が強くなっただけで、中身はてんで変わっていないのを自覚しろ。慢心は一番の敵であると。

 

 この日から二週間が経過し、俺たちはブラックロックの街へようやく辿り着いたのだった。

 イノシシの解体なら任せておけ、というほど狩猟にも慣れたぞ。はは。


※どろぼー!

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