第7話 閑話1.ティエンランとリーツゥー

「何だよ。別にロンスーさんのことは話してねえだろお」

「ダメよ、ちょっとだけ考えてみて」

「う、うん?」

「ご、ごめん。私が悪かったわ」


 裏表のない真っ直ぐな目で見つめられると何も言えなくなっちゃうじゃない。

 私は彼ほど誰に対しても正直で態度を変えない人を見たことがないわ。物語の主人公ってみんなこうなのかな?好感の方が全然大きいけど、変なのに騙されないか心配になる。

 それに、まだあどけなさの残るツンツン頭の少年だけど、将来はきっとカッコいい男になるに違いないわ。あの裸ジャケットの人みたいにね。

 個人的には糸目の男の子が好みだけど、男は見た目じゃない。中身よね。今度は刺されて死んだりなんてまっぴらごめんなのだから。

 でも、モンスターがいるかあ。噛みつかれて大怪我してしまうとかゾッとする。正直なところ、今でも怖くて仕方ない。だから、長弓にしたの。


「リーツゥー、おいってば」

「ごめんね。ティエンラン」


 名前を呼ばれてハッとなる。


「俺も人のこと言えないけど、お前も結構抜けてるな」

「……さっきのことだけど」


 ティエンランの言葉を無視して語り始める。

 やれやれと子供っぽくおどけてみせる彼は、特に気を悪くした様子はない。むしろ、こうしたやり取りに慣れている感がありありと。


「ええと、青龍のことか」

「うん。私たち新米が青龍や四神のことを知ってるって初対面の人に言うのはさ」

「大丈夫だろ。ロンスーさんとユエなら、うん」

「……ごめんね。私が悪かったわ。つねったてしまったことも」

「次にロンスーさんたちに会った時に話をすれいいさ。んでよ、リーツゥー」

「何よ」

「んな顔を真っ赤にしてまで謝らなくても。怒るなら怒るでいいんだぜ。ほんの小さな時からの付き合いだろ、つねったやら遮ったやら、そんな細かいことで俺が気にしたりするわけねえだろ」

「怒って……ないもん」

「無理すんなって」

「……もういい」


 すんと鼻を鳴らし、彼を避けるように体ごと右を向く。

 ダメ過ぎる……私。

 いくらなんでも「もん」は、ちょっと恥ずかしい。ついつい出ちゃったんだから仕方ないじゃないの。彼とは幼い時から一緒だから、たまにこうして言葉遣いが幼くなってしまうの。

 う、うう。このままじゃ済ませないんだから。


「ロンスーさんについての予知夢を話さなかったことは褒めてあげます」

「当たり前だろお。本人の前で『死相が出てました』なんて言えるかよ」

「うんうん」

「こら、頭を撫でようとするな! ロンスーさん、強いしサイを使う姿がかっけえーんだよなー」

「そこは私も否定しないわ」

「よっしゃー! やる気が出てきた !俺たちもやるぜ」

「あと二人、いい人がいれば良いのだけど」

「予知夢で見えねえの?」

「そうね、予知夢だと場面は見えるけど、時系列が難解で」


 「よくわかんねえ」と漏らすティエンランだったが、青龍刀の手入れをし始めた。

 絶対このままモンスターと戦いに行くつもりだ。まだクエストも受けてないのよ。

 腹が立つわけではないけど、そんなに急がなくたっていいじゃない。まだまだ新米だからお金が少ししかないけど、甘露水くらいなら購入できるし!

 準備できることは準備してからでも決して遅くないと思うの。


「よし!」

「ま、待ってえー」

「話は終わっただろお。予知夢のことは漏らしてないし、大丈夫、大丈夫!」

「そ、そうじゃなくてえ。詰め所でクエストを受けよ、ね。食べ物を買うにもお金が必要でしょ」

「確かに! さすがリーツゥー!」


 後ろから彼をはがいじめにした腕より力を抜く。

 鼻息荒く前を進むツンツン頭を見やり、くすりとくる。もう、本当にほっとけないんだから。

 それにしても、私の記憶が正しければロンスーさんはもうこの世にいない。それに、お団子頭の子も私たちのパーティに入っているはずだったよね?

 う、うーん。一度でもあのゲームをやっておけば、もう少し分かったんだけど。

 宣伝PVと動画サイトで一部のプレイ動画やキャラクター紹介を見ただけなことが悔やまれる。

 分かっていることは、この世界の元凶が四神と呼ばれる魔物で、それらを倒すのがティエンランだということだけ。

 率先して危ない目に遭いに行くなんて怖気がするけど、仕方ない。私は彼と一緒に戦わないと。四神との戦いにはリーツゥーがいつも付き添っていたのだから。

 バスターにならない道もあった。だけど、村がモンスターに悩まされ、幼い命も失われてしまったの。このままじゃ済ませないという気持ちが私にもある。

 ううん。本当はティエンランのことが放っておけないだけ。あの出来の悪い弟を。

 

 ◇◇◇

 

「はあはあ……ちょ、ちょっと」

「お、いたぞ。ほら、あの繁みの後ろ」

「も、もう腕が上がらないんだけど……」

「よおっし、だったらリーツゥーの順番を飛ばすぜ!」


 嬉々として駆けて行き、昇竜に似ているがよりガッチリとした体躯のシャオというモンスターに斬りかかるティエンラン。

 い、いつまで狩りを続けるって言うのよ……。

 あれで、50匹目くらいじゃない? わ、私はもう限界。

 一方、ティエンランはと言うと、シャオを切り伏せた後に動きが止まっていた。

 重い足取りでティエンランの横まで歩いて、彼に問いかける。

 

「両足と両腕がつって、動けねえ」

「全く……無理し過ぎよ。しばらく休んでから帰ろう、ね」

「分かった」

「ほら、竜車を借りてよかったでしょ」


 と言いながら、シャオの爪と牙を剥ぎ取る。

 う、うーん。こうなる前に引き上げなきゃよね。二人だけで来ない方がよかったかも……。


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