第6話 中央を目指せ
「いや、そうだな。どうかしてたよ。俺」
「タダでというわけには、ということですよね。ロ、ロンスーさんだったら怖くありません」
「ちょ、待って。今のは独り言だよ」
首まで桃色に染めたユエの動きが止まる。
そうか。太ももをチラ見した俺の目線で彼女に勘違いをさせてしまったらしい。
据え膳食わぬは男の恥という状況ではあるが、ティエンランの元に彼女を行かせようとしていたことを顧みて彼女にどうこうしようという気持ちにはなれなかった。
彼女がティエンランと行動を供にしたのは何故なのかハッキリ語られていなかったので推測にはなるが……彼に助けられたことで、好感を持ったから。その後も一緒だったのは冒険をしていくうちに彼に恋をしたとかそんなところじゃないか。
ティエンランとの冒険は果たして彼女にとって良いものだったかどうかは彼女にしか分からない。物語の後半に四神のうちの一柱「玄武」との対決中のイベントで彼女はティエンランを庇って大怪我を負ってしまう。そこで、彼が覚醒し玄武を打ち倒す。
大怪我を負った後、彼女がパーティから抜けるわけなのだが、生死についてはあえて描かれていない。
しかし、玄武との戦いの後に彼女は一度も登場しないのだ。怪我で療養しているのかと思っていたけど、最悪の場合……いや、この先は考えるのをよそう。
愛するティエンランのために身を呈すことが、彼女にとって幸せなのか問うわけにもいかないし、今の彼女はティエンランに助けられていない。
う、うーん。
真っ直ぐに彼女を見つめると潤んだ瞳で見つめ返してくる。
「ユエ」
「はい……」
両目を閉じるユエ。
ベッドから降り、正座する彼女の前で膝を折り両手を彼女の肩に乗せる。
そうだな。俺が真っ先に本来進むべきストーリーをぶち壊したわけだ。そんな俺が彼女の意思を修正しようとするなんてもってのほか。
ここはゲームではない。それぞれの意思によって物語は大きく変わってくる。俺が語るなって話は置いておいて。
「ユエは俺とパーティが組みたい、でいいんだよな?」
「パーティは欲張り過ぎたと少し反省してます……。パーティは実力が近い人で組むものですよね。に、荷物持ちでも構いません」
「いや、実力なんて後からどうとでもなるさ。パーティを組もう。ユエ。俺も君がいてくれると助かる」
「はい!」
目を開いたユエは花が咲くような笑顔で力強く返事をする。
彼女の肩から手を離し、ベッドに腰かけた。彼女は目線だけで俺を追うが、正座したままじっと俺の言葉を待っているかのようだ。
ユエが抜けた分、ティエンランたちの未来に支障はでるだろう。
玄武の分は俺が何とかする。ユエも一緒に戦ってくれるのなら鬼に金棒だ。
導こう。モンスターのいない世界を。俺のために。殺伐とした世界ではのんびり暮らすことなんてできやしないのだから。
第一目標を玄武におくとなると、ハイパーレベリングで一気に強くなる必要があるな。
武具も欲しい。
となると、彼女に言っておかなきゃならないか。
「上からですまない。二つだけお願いがあるんだ」
「はい」
「一つ。これからとても奇妙な行動をいくつもとると思う。疑問に思ったら聞いてくれるのは構わないのだけど、行き先やクエストは俺に選ばせてくれないか?」
「むしろ、そうしていただきたいです。わたしはまだ一つのクエストをこなしただけですし」
「もう一つ。俺なりの実力をつける方法論を試したい。うまく行かないかもしれないけど、目論見通りになれば戦闘の場数なんて関係ない戦い方ができるようになる」
「そんな方法が! 是非、お願いしたいです!」
場数で言えばユエの方が俺より多いくらいだ。ロンスーの肉体は幾多の戦いを経てきたのだろうけど、中身の俺は青龍との撤退戦のみ。
あいつの攻撃を回避し続けることができるから、それなりに戦えるのだとは思っている。
だけど、玄武を倒すにはまるで実力が足りない。
武器が弱い、烈風で致命傷を与えることができない、烈風が決まったとしても隙が多すぎ逆撃されて死ぬ。
側近レベルのモンスターと満身創痍になりながらもなんとか勝てる、くらいが御の字だろうな。これでは四神にはとてもじゃないが届かない。
それでも、冒頭でさくっと死んだキャラクターにしてはなかなか強いんじゃないかと思う。
そうだな。物語後半に入ったくらいのティエンランくらいの強さ……ってところか。
だけど、悲観することなんてないさ。足りないなら、補えばいい。うまく行かなかったら、その時考える。
「よっし。じゃあ、明日からさっそく動こう。旅の準備を整えるぞ」
「遠出するのですか?」
「うん。長期間街から離れる。結構な長旅になる予定だ」
「別の街までとかです?」
「いや、中央大山脈へ。目指すは世界の真ん中だ」
ユエの顔にハテナマークが浮かんでいた。
「疑問に思ったら聞いてくれるのは構わない」と言ったけど、想像の斜め上を行き過ぎて固まってしまったか。
「明日、地図があれば買おう。なければ紙と墨でも買って、道すがら説明するよ」
「ありがとうございます!」
ぱああと笑顔になるユエに後ろ頭をかきそうになった手を止める。
やっぱ説明を聞いておきたいよな。彼女が遠慮しなくなるまで、こちらから都度説明していくことにしよう。
なるべく情報を共有しておいた方が今後の為にもなる。
行き詰まったり、迷った時には同じ目線で考えることができる相棒がいれば心強い。
なんて打算的なことばかり考えてしまうけど、本心は俺が彼女に知ってもらいたいから。
俺だけが別世界の人間なわけで、自分だけとなるとやはり寂しさが募る。元のゲームの知識を誰かと共有できれば、それも紛れると思ってさ。
う、うーん。なんかちょっとへこむ。
彼女を連れて行くことも、知識を共有することも、全部自分本位だ。……情けない俺ですまん。
心の中で彼女に謝罪をする。
◇◇◇
街を出て二週間が経とうとしている。目指すは中央大山脈の真ん中だ。
ガラガラガラと馬車の車輪の音を響かせながら、道なき道を進んでいた。
竜車を引くのは昇竜と呼ばれるダチョウのようなトカゲが二頭。俺とユエは御者台に並び、周囲を窺いつつ手綱を握っている。
お金が足りなきゃどうしようかと思ったけど、資金の三分の二ほどの消費で旅装を全て整えることができたんだ。もちろん、竜車と昇竜も含めて。
昇竜を一頭にすれば節約できたんだが、移動は昇竜だよりだから安定性を取り二頭にした。
万が一、一頭が不幸なことになったとしても旅を継続できるから。昇竜の疲労も抑えることができるし、速度も上がると言うことなしだ。
その分、餌の量が増えるけどね。
「少し、停めてもらってもいいでしょうか」
「もちろん」
速度を緩め、竜車を停車させた。
完全に竜車の動きが止まってから、ユエが手のひらに方位磁石を乗せて「むむむ」と眉間に皺を寄せつつ方角を確かめる。
「若干、方角が西にズレてきています」
「竜車が通れるなら少し東へ舵をきればいいかな」
コクリと頷き、方位磁石を懐へ仕舞い込むユエ。
そんな彼女をチラリと見やり、彼女がいなかったら道に迷っていたと安堵の息を吐く。
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