第5話 下校とネットと休憩所にて。

「活動? 分かりやすいのがあるじゃーん?」

 目当ての生徒に話をすることができず、空振りに終わった茜と合流して目黒橋と疑問になっていたロボ研の活動について聞いてみたところ、なんとまぁうっとおしい反応で返された。

「部室におっきなロボがいたでしょ? アレを私たちでレストアしちゃおうよ!」

 案の定と言うか、予想通りの答えが返ってきた。

「でも結構しっかりしたロボっぽかったけど素人でなんとかなるもんなのか?」

「うーん、どうだろうね…今日見つけた缶の中にあったのが設計図だったら良いんだけど…」

 ある程度は帰り道が同じだったのでせっかくなのでと一緒に下校している目黒橋が首を傾げる。

 そんなに中身を精査したわけじゃないし、関係ない物の可能性も十分ある。

「缶? 何か掃除してて見つけたの?」

「あぁ、何かの図面っぽい紙の束が入ったやつが出てきたんだよ」

「ほうほうほう! それはぜひじっくり見ないとねぇ!」

 目を輝かせる茜。

「お前図面読めんの?」

「生まれてこの方読んだことはないよね!」

 生まれてこの方は言いすぎな気もするが、何でこんなに堂々としてるんだ。

「なんだか、御堂さんって珍しいよね」

「珍しい?」

 目黒橋が目を輝かせる茜を見てふと漏らした。

「確かにこんな珍生物そうそう居たらうるさくて迷惑だが」

「ねぇねぇ今幼馴染の女子を迷惑って言わなかった? ねぇねぇ」

 なんか隣で騒いでる生物がいるが、目黒橋は「そういう意味じゃないよ?」と手を振る。

「こういうのもなんだけどさ、ロボとか工業系のものに興味を持ってる女子ってあんまりいないと思うんだ」

 確かに、一般的な女子に当てはまる趣味とは言えないかもしれない。

「まー確かにね、友だちなんかはあんまりそういう話してくれないけどさ」

 友人は結構多い方だろうが、茜がそういう話をしてるところを見たことはないかもしれない。

「というか、俺だってロボだなんだって言ってるのは初めて見たんだが」

 所謂女子っぽい趣味がないとは言わないが、男子の趣味にも割と興味を持っている性格だった。

 だから男子にも一定数の友達が居るのだと思うのだが。

「まぁぶっちゃけた話をするとね、ロボっていうことににこだわりがあるわけじゃないんだよ」

「え、そうだったの?」

 目黒橋が目を丸くしている。

 俺も表面には出さなかったが、部活見学にも行かずに真っ先にロボ研に向かったので何かこだわりがあるのかと思っていたので面食らった。

「ロマンだよロマン、3年かけて手がけるプロジェクトとしてはやりがいたくさんじゃん! 大丈夫、できるよ!」

 下校時の夕暮れもあり、太陽と共に笑っている茜。

 目黒橋と目を合わせて吹き出してしまう。

「根拠ないなぁ…」

「バカは根拠用意して動く頭ないからなー」

「今この男は人のことをバカと言いましたかねー!?」

 人を馬鹿にする悪い口はこれかー!と頬をつねろうと手を伸ばしてくるが、叩いて止める。

 負けじと何度も手を伸ばしてくる茜の攻撃を捌く。

「長い付き合いなんだね、仲いいなぁ」

「「どこが!?」」

 そんな話をしながら騒がしく下校するのだった。


 帰宅後。

 店の夕食時のラッシュを手伝い、明日の学校の準備を終えて寝るまでの自分の時間。

 最近よくやっている対戦ゲームをするためパソコンの電源を入れてログインする。

 会話ツールの中にあるコミュニティをチェックし、メンバーはそんなにいなかったが、フレンドから招待通知が来ていた。

『お疲れ様でーす』

『お、来たな』

 チャットを飛ばすと、すぐに返信があった。

 人数が要る対戦ゲームでもないので、そのままフレンドさんがいるロビーに入る。

『早速やりますか』

『おk』

 端的なやりとりだけして、早速と対戦を始めた。

 それから何戦かこなした後、少しの休憩を取っている間。

『そういや、ハクサイさんはちょうど高校生になったところだったっけ』

 ハクサイというのはネットで使っている名前だ。

 ハンドルネームで適当になんか考えなきゃって時に、丁度その日に店の手伝いでひたすら切っていたハクサイから取った。

『そうですね、クレエラさんもですよね』

 フレンドのクレエラさんも対戦をしていく内に話をする機会があり、ほぼ同い年だったことが分かっていたのでメッセージに返信する。

『そうそう、今年で高校生。なんだけど部活決めなきゃなんだよなー。帰宅部じゃダメなの終わってるわー』

 部活必須の学校って意外に多いんだなぁ。

『部活始めたらいいじゃないですか』

『ゲームする時間減るから無理ィww』

 俺は手伝いとか学校の準備終わらせてからゲームをするが、クレエラさんは学校から帰ってすぐにゲームにのめり込むタイプらしい。

 ちょこちょこ会話に織り交ぜられるネタを考えると子どもの頃からの筋金入りみたいだし。

『だから今幽霊部員になれる部活探したいんだけど、放課後になると家帰ってゲームしたいから部活探せてなくて泣きそww』

 泣きたいのか笑ってるのかどっちなんだ。

『まぁでもシーズン落ち着いたしちょっと余裕あるんじゃないですかね』

 ゲームの大型アップデートがあり、調整点なんかを検証したり遊んだりしていたりしたのだが、今日で全キャラ触り終わったところだしいい機会なのでは。

『まぁぼちぼち探さないとなーって。ハクサイさん部活って入るの?』

『一応ロボ研ってのに入る予定ですね』

『ロボ研wすげぇ部活もあるんもんだなぁ!』

 確かにロボ研なんて俺も聞いたことない。

 あ、でもニュースでロボコンってのやってるのを見たことあるし、工業高校にはよくあるんだろうか。

『そいやロボと言えばさ……』

 それからゲームの調整の話に戻り、検証したりまた対戦したりしていると、部活の話は忘れてしまっていた。


「今日はさ、私が掃除するから晶が部員勧誘して来てよ!」

「お前に掃除を任せたくねぇ…」

「よし、じゃあ各自活動開始!」

「くそ、話聞かれないっての割とウゼェ!」

 ツッコミを入れるも飛び出して行ってしまう茜。

 正直部室に行けば茜に問い詰められるのだが、言い出してしまったら交代させるのにも骨が折れる。

 まぁ中学の時の友だちに適当に声をかけていけばいいだろう。


 …………。


 結論から言えば、全滅だった。

 体験入部期間も半分以上終わってしまっているタイミングで声をかけたのが、すでに遅すぎたのだろうか。

 確かに運動部に入る奴はすぐに入部して練習に参加した方がいいのだろうなぁ。

 休憩スペースに置かれている自販機でジュースを買い、ベンチに腰掛ける。

 というか思っていたより皆部活って決めてるもんなんだな。

「さて、どーするかね」

 ベンチに横になり、空を見上げる。

 遠くから運動部の掛け声が聞こえてきていた。

「どうしましょうか…」

 気づくと、休憩スペースに女生徒が来て呟いていた。

 タイの色を見る限り同級生らしい。

「はぁ…」

 ため息をついて、購入した飲み物を取り出すと…

「え、えぇ…」

 その手にはおしるこが握られていた。

 隣にあったジュースと間違えてしまったのだろうか。

「もう…部活も皆やる気勢ですし、ジュースも間違って…、はぁ……」

 クソでかため息。

 陰気な影を落としながらおしるこを手に立ち尽くしている。

「……」

 手にしているジュースを見る。

 ちょうど自販機でおしるこの隣にあるロングセラー品だ。

「良かったら替えようか?」

「!?」

 驚かせてしまったか、ビクッと体が跳ね上がってこっちに振り向く。

 ベンチに横になっていて死角になってたんだろう、こっちには気づいていなかったようだ。

 特に念押しするわけでもないのだが、こっちのジュースと女生徒の持っているおしるこを交互に指さす。

「あ、えっと…」

 面識もない同級生に急に声かけられたからか、警戒されている。

 割とクラスメイトは中学の時からの知り合いが多かったこともあり、初対面なのは少し新鮮だった。

「すいません…お願いしてもいいですか…」

 視線でおしること俺の持っているジュースを何度か行き来した後、女生徒は頭を下げてきた。

「まぁ気にしなくていいよ、俺こないだもおしるこ飲んだし」

 茜に勝手に買われただけではあるのだが。

「…はぁ。おしるこ、好きなんですね」

「いや別にそういうことじゃないんだが」

 えぇ!? と驚く女生徒。

 しまった、茜と話しているノリでツッコミを入れてしまった。

「いやすまんすまん、いただくよ」

 おしるこのプルトップを開け喉に流し込む。

 うーん、甘い。しかも誰も買わないからだろうか、熱っつい。

 俺が飲んでしまえば「やっぱいいです」とも言えないだろう。

 交換を申し出ようかとしていた女生徒は観念したのか、対面のベンチに腰を降ろした。

「ありがとう、ございます…いただきます」

「おう」

 カシュ、とプルトップを開けて口に運び、喉を鳴らす女生徒。

「ふぅ…」

 ジュースから口を離して、一息つく。

「そいや、お互い見ない顔だよな、俺普通科の春名って言うんだ、そっちは?」

「あ、特進科のさかきです」

 通称特進科、特別進学科の生徒だったか。

 島の外にある有名大学に進学することを目標に、普通科よりも学問に力を入れているクラスだ。

 小学校、中学校、高校と学校がある島だが、大学は本州にしかない。

 本州にある有名大学に合格するのを目的に勉強するクラスだったっけ。

「そいやさっき部活がどうって言ってたけど、どうしたんだ?」

「あ、いや…大したことじゃないんですけど、部活が決まらなくって…」

「ほー」

 初対面だが、いい話を聞いた。

 これはワンチャン部活に誘うことができるのではないのだろうか。

「興味がある部活をいくつか見に行ってみたんですけど、皆すごくやる気で…」

「やる気?」

 申し訳なさそうな表情でジュースの缶をいじっている榊さん。

「私、部活に入らなきゃって言っても学校が終わったらすぐ帰らなくちゃいけなくて…」

 おっと、俺と茜と同じで家の手伝いとかある人なのか。

 うーむ、部活に誘おうと思ったが厳しいかもしれない。

「それなのに、どの部活も皆すごい熱意で…」

「あー…」

 知り合いに声をかけに行った時に、せっかくなら見学していかないかと誘われたことを思い出す。

 まぁ別に悪いことではないし、真っ当に部活に勤しんででいるだけだったのだが、早く帰らないといけない身としては申し訳なくなるのかもしれない。

「はぁ…どこか幽霊部員になれないかな…」

 反応しづらいため息を吐く榊さん。

「あ、す、すいません! ジュースまでもらっといてこんな陰気な話…」

 慌てて頭を下げてられる。

「あーいや、気にしなくていいよ、俺が聞いた話だしなー」

 あわよくばと思っていたが、ロボ研に誘うのはちょっと厳しいかもしれない。

 なんせ部長をすることになるだろう茜が、ある意味熱意の塊みたいだからなぁ…。

 流石に誘えないか、と考えているとジュースを飲み切ったのか榊さんは立ち上がった。

「なんかすみません、こんな話に付き合ってもらっちゃって。ジュース、ありがとうございました」

 頭を下げる榊さん。

 育ちの良さが垣間見えるかのような綺麗なお辞儀だ。

「おー、じゃ、また」

 同じ学校なんだろうし、どこかで会うこともあるだろうと思い手を振る。

「はい、また」

 そう言って榊さんは去っていった。

 さて、俺も茜にどやされない内に部員探し再開しますかね。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺たちのそらに。 鍵谷悟 @Nath-10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ