第4話 足りない部員とタイムカプセル

 結局その後目黒橋がロボ研に参加してくれることになり、とりあえずその日は3人で掃除をして解散となった。

 翌日になり、再び茜とは別行動を取っている。

 今日は声をかけようと思っていた生徒の所に行くそうで俺は俺で掃除の続きをしに部室に足を運んだ。

 部室の扉を開け、明かりをつけてシャッターを昨日と同じように少しだけ開ける。

 そこまでしたところで部室の扉が開く音がした。

「お、目黒橋。よっ」

「やぁ」

 手を上げると、まだ少し緊張した様子で目黒橋も手を上げ返してくる。

「今日もそっち見るかー?」

 昨日の内に発掘した掃除用具入れから道具を取り出しつつ聞いてみる。

「いや、今日は僕も掃除手伝うよ」

 昨日は結局初めて見るロボに興奮してしまい掃除どころではなかったのだが、手伝ってくれるとのことなら遠慮なくそうしてもらおう。

「んじゃ、ほい」

 軍手を目黒橋に投げる。

「軍手?」

「せっかく2人なんだからさ、ちょっとでかいガラクタ動かしちまおうぜ」

「なるほど」

 昨日に比べると時間の余裕があるため、せっかくの男手を使って大物を片付けようと準備を始めた。


「お、茜ー」

「どうした!」

 廊下を歩いていた所、友達のみっちゃんに声をかけられ足を止める。

「今日は保護者いないんだね」

「保護者!?」

 みっちゃんは私の後ろを確認する。

「ほら、春名君と大体一緒にいるじゃん」

「晶!? むしろ私がいっつも面倒見てあげてるのに!」

「そうだねぇ、いっつも茜が構ってあげてるんだもんねぇ」

 子どもにそうするかのように頭を優しく撫でてくるみっちゃん。

「うがーっ! 撫でるな撫でるな!」

「あっはっは。そういやさ、部活どこにするか決めた? まぁ茜の運動神経ならどこでもレギュラー間違いなしなんだろうけどさ、バスケ部とかどう?」

 中学校ではバスケ部だったみっちゃんから嬉しいお誘いが。

 たまにメンバーが足りなくなっちゃった時なんかに助っ人をしていたこともあり、高校では本格的にどうかと聞かれていたのだ。

「ごめんね、私もう部活決めちゃったのー」

「ありゃ。フラれちゃった、どこにしたの?」

「聞いて驚け! ロボ研にしたのよ!」

「ロ、ロボ研??」

 予想外の答えだったのかみっちゃんは目を丸くしていた。

 中学校の時は確かにいろんな運動部の助っ人やお手伝いをしてたのでどこか運動部に入ることにしたかと思われてたのかもなぁ。

「そんな部活あったんだ…工科のとこの部活なの?」

「うーん、どうなんだろ。別に工科の教室棟や実習棟使うわけじゃないんだよねー」

 あ、でもロボがどうしても大きいからあの部室の場所なだけなのかもだけど。

「ま、決めちゃったのものはしょうがないか、また助っ人お願いするかもしれないから、その時はよろしく」

「任せろ!」

 どんと胸を叩き、ふんぞり返る。

 からからと笑いながら、みっちゃんは「私も部活だから」と去っていった。

 私も今日の目的の勧誘を頑張らないとね。


 目的の子は別のクラスになっちゃったからまずクラスに行ってみよう。

 部活を決めちゃってる可能性はあるにはあるけど、私の読みが合ってればそんなにすぐ部活を決めてないだろうし。

 教室に着いて、開いていたドアから中を覗いてみる。

 教室の中はもうがらんとしてて、数人の生徒がお喋りをしている程度だった。

「あれ、御堂じゃん。誰かに用?」

「!」

 急に後ろから話しかけられ体がビクッと跳ねる。

「わっ、驚かせちゃったか、ごめんごめん」

「ユイちゃんだったんだ、びっくりしたぁ…」

 振り返ると中学校の時のクラスメイトのユイちゃんが居た。

「えっと、榊ちゃんってもう帰ったかな?」

「榊? あー、どうだろ。放課後になったら出てったと思ったけどねー」

「そか。ありがとね!」

 ユイちゃんにお礼を言って、教室を後にする。

 帰るのにはまだ間に合うかもしれない。

 ダッシュで昇降口に向かってしまったせいもあり、先生の怒鳴り声が廊下に鳴り響くことになっちゃった。


「降ろすぞー」

「う、うん…」

 声をかけて、目黒橋と二人で持っていた何かの機械をその場に降ろす。

 片づけを始める上でしないといけないこと、「取捨選択」なんだがロボ研に何が必要かなんてまるで分らず、とりあえず工科の目黒橋と2人でいるものと要らないものを分けていた。

「これは、要らないよな」

「流石にねぇ…」

 サインポールだったか、床屋なんかの前で回ってる棒を見てちょっと困惑する。

 電子レンジや魔法瓶はまだ学校の部室にあるのは納得できるのだが、片づけをしていく内にこのサインポールや滑り台、古い型の公衆電話が出てきていた。

「なんでこんなにこんなのが出てくるんだろうね…」

「なんか倉庫にでもされてたのかもしれないな…、しばらくロボ研ってなかったみたいだし」

「そうなんだ?」

「先生に聞いたら知らない人もいたからな…」

「…それは、部室が倉庫にもなるよね」

 その一方で、部室には結構デカめのロボが残っている。

 生徒の作ったものということもあって、やはりそう簡単に処分もできないのだろうか。

「うわっ!?」

「!? どうした急に…」

 部室に鎮座しているロボに目をやっているところに、目黒橋の驚いた声が上がった。

「そ、そこ…」

 目黒橋が指さした先には、人体模型と社交ダンスでもしているのかというポーズをとった骨格標本が倒れていた。

 人体模型が絶妙な角度でこちらを見ているように見えてかなり不気味だった。

「保管するにしてももうちょっとなんとかならねぇのかよ…」

「というか何でこんなポーズしてるんだ…」

 とりあえず要らないものスペースに動かそうかと歩み寄る。

 近づくとすぐそばに看板が落ちていた。

「『科学部&美術部合同展示 サイエンスとアートの融合展』…」

「昔の文化祭の出し物だったのかな…」

 なんか大型連休とかに市民ホールでやってそうな名前の展示だなぁ。


 そんなこんなガラクタと格闘すること数十分。

「ん? なんだこれ」

 片づけていく中で、急に煎餅でも入っていた缶が出てきた。

 サインポールや人体模型など、そのものがそれなりにでかいガラクタの中から急に姿を見せた小さい入れ物だった。

「一応食べ物とか入ってないか確認した方がいいんじゃない?」

「あー…」

 確かに。

 腐っているだろうが、それならそれで別に処分しなきゃいけないかと、少し錆付いてしまっている缶の蓋に手をかけ、力を入れる。

 バコンと音を立て、あっさりと開いてしまう缶。

 中には…

「紙?」

 何かの模様のような図と、汚くて(文字の形的な意味で)読みづらい文が書いてある紙の束が入っていた。

「これ、何かの設計図じゃない?」

「設計図ぅ?」

 紙も大分古くなっているし、そもそも設計図なんて見ることもなかったため良く分からないが、目黒橋がじっと見ていることを考えると、何か価値がある者なんだろうか。

「ねぇ、これって取っておいていいかな?」

「いいんじゃねえの? アレに関係してるものかもしれないしな」

 内容は俺にはさっぱりだが、この部室に転がってた事を考えると指さした先にあるロボに関係がある可能性は十分にある。

「……?」

 そういえば、と思い当たり動きが止まる。

「どうかした?」

 目黒橋が首を傾げている。

 茜が別行動している時に勧誘した目黒橋なら何か聞いているかもしれない。

「ロボ研って、アレを直す部活ってことでいいのか?」

「……あ」

 小さく漏らした目黒橋の様子からも、具体的な事は聞いていないのだろう。

『とりあえず部室で集まれるようにする』ために掃除をしているが、これが終わった後の活動については何も話していない。

「…推定部長も居ないし、片付けするかぁ」

「そうだねー…」

 茜の奴、どうやって他の部員勧誘してくるつもりなんだろうか。



 

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