第3話 部員勧誘を始めよう!
三上先生に話を通して翌日。
授業は別段問題もなく終わり、今は放課後。
「今日はちょっと別行動でいこうかなって」
「…………えぇ」
「露骨に心配そうな顔しないで大丈夫だよ?」
チャイムが鳴ってからすぐに俺の机に来たと思ったら茜が宣言してきた。
心配ないと言うが、俺以外のクラスメイトまでも若干心配そうにこちらを見ているのが答えだろう。
「晶は晶で頼みたいことがあるんだよー…」
「お前のそういう発言はロクな事じゃない」
わざわざかしこまって茜が頼み事してくるなんて面倒なことになる予感しかない。
「断言された…、いや、部室に行って掃除してほしいんだってー!」
「部室?」
「ほら、昨日行ったじゃん」
「あー……」
昨日行ったロボ研の部室(?)は確かに長いこと放置されてたのか荒れ放題だった。
今後集まるにしても掃除が必要だろう。
「わかった、ただ条件がある」
「条件?」
適当に紙を用意してさらさらと内容を書く。
何書いてるの?と覗き込んでくる茜に用紙を突き付ける。
「私は無理矢理部員を連れて来ません、本人の意思によってのみ同行をしてもらいますって、何これ」
「他の生徒に声をかけるのはいいが、その前にこの紙を読んでからにするんだぞ」
「おつかいのメモかなんかなの!?」
「だってそうでもしないと覚えられないだろ?」
「普段私をどんな目で見てるのさ!」
何故だ、怒ってしまった。
そんなこんなしていると時間がないと茜はさっさと教室を出て行ってしまった。
まぁ流石に後をつけるのも面倒なので、俺も大人しく部室に向かうことにした。
扉を開けて、部室(?)に入る。
昨日は人が居なかったこともあり、すぐに外に出てしまったが改めて見ると、ロボの鎮座している辺りに天窓から光が差し込んでいる以外は、特に光源がなかった。
天井に開いている天窓が割と大きいため、薄暗くても中を見ることができていたのか。
とはいえ、掃除をするには空気も埃っぽい。
これは骨が折れそうだ。
「……いや一人で掃除する広さじゃなくねぇかなぁ」
途方に暮れつつも、できることからしていこうか。
入り口の扉を開けっぱなしにして、まず窓か扉かないかと壁伝いに歩く。
山の中をくりぬいたかのような空間になっているらしく、入り口側に窓が見当たらない。
それでも入ってきて奥側にシャッターがあったため、開いていく。
「おー…」
シャッターを開き、外の空気を取り込む。
そこには、手入れこそされていないのだろうが草原と言える広さの自然が広がっていた。
周囲は木々が生え、山の中であるのをはっきりとさせており時折吹く風が部室内の換気を手伝っていた。
「っとと」
部室の中のものが飛んで行ってしまう可能性もあったため、シャッターは少しだけ開けておくだけになるよう閉じておく。
にしても明かりがないのかと色々見ていくとやっと電源を見つけ、明かりをつけた。
結構高い位置にあった蛍光灯が光りだし、部室内を照らす。
こうしてみてみると、ロボの周り以外は割とごちゃついていた。
工具なのか工作用の機械なのかガラクタなのか判別しづらいものが散乱している。
とりあえずは集まれるスペースだけ確保しよう。
あまり大きなものは避けて、細々としたものをとりあえず詰めて置いていき、発掘した机と椅子を固めておく。
とりあえず話でもできるスペースがあればいいだろと用意していた。
「おーい、晶ー」
掃除道具はないかと探していた時、入り口から声がした。
茜が部室に来たのだろう、手を止めて入り口の方へと向かう。
「お、ちゃんといたいた、じゃーん!」
茜が隣にいた男子生徒に手を広げる。
「あ、あの、どうも…」
その生徒はこちらを見ておどおどと頭を下げる。
歩み寄り、その生徒の方を掴む。
勢いがあまり、ガッと力が入ってしまったかもしれない。
「ふぇっ!?」
「無理やり連れてこられてないか?」
「開口一番それを確認するの!?」
「えっと、
とりあえず早速机と椅子を広げて腰を落ち着け、自己紹介をすることになった。
俺と茜に促され、目黒橋がまだ少し恐る恐るといった感じに名乗った。
「工科の生徒だったのか。普通科の春名晶だ」
「さっきも言ったけど普通科の御堂茜だよ!」
「えっと、よろしくお願いします…」
目黒橋が頭を下げて、茜が「よろしくー」と手をひらひらと振る。
「…ん?」
違和感を覚え、頭を傾げる。
「さっきも言ったって、目黒橋って茜の知り合いじゃねぇの?」
茜は声をかける当てがあると言って別れたので、てっきり知り合いだと思ってたのだが。
「いや? 当てがあるって言ってたのは別の子なんだけど、目黒橋君は今日工科に行ってお話してきたの」
「お前それ誘拐と同じじゃねぇか!」
すっかり油断していた方法での勧誘に声を荒げてしまう。
「ちーがーいーまーすー! 本人に話して納得してもらいましたぁー!」
いかにもな感じで反論してくる茜。
「いやお前いきなり知らない女生徒が突撃してきて、ロボ研とか怪しさ満点の部活に勧誘とか頭疑うだろ!」
「頭疑うって何!?」
ふと視線を向けると、言い合いになっている俺たちにどうしたらいいのだろうとうろたえている目黒橋。
「あ、あのっ」
俺の視線に気づき、話に入ってこられると思ったのか意を決したように目黒橋が声を上げた。
「確かに、いきなり工科の教室に入って来た時には驚きましたけど、一応僕は僕の意思でここまで来たので、御堂さんをあんまり、悪く、言わないで…もらえたらなって」
きちんと意思を持っていたのはどうしたのか、話せば話すほどその言葉は弱々しくなっていった。
「脅されてねぇのか?」
「お、脅し…?」
茜の行動は無邪気なものが多いが、かえって悪意にとられかねないことをしでかすこともあるため、念を押しておく。
「いや、大丈夫、です…よ?」
「ほらぁ!」
「嘘、だろ…」
「何でこの男は心底信じられないって顔してるんですかねぇ!?」
本人にそう言われてしまっては信じるしかないだろうと、椅子の背もたれに体を預ける。
それより、俺たちの言い合いと別に、目黒橋がどこか落ち着かない様子なのが少し気になった。
「どうかしたのか?」
「あ、いやその、奥のアレが気になって…」
目黒橋の目線の先には、俺たちも昨日見たロボがある。
確かに、ロボ研に興味があって茜についてくるくらいなので、気になるのだろう。
「俺たちになんか権限があるわけでもないし、見てみるか?」
「うん!」
俺の言葉を聞くのが早いか、目黒橋は颯爽と立ち上がりロボへと駆けていった。
「なるほど」
「何がなるほどなの?」
すでに俺の言葉など気にしていないかのようにロボを観察している目黒橋を見て、言葉が漏れる。
茜も目黒橋の方を見ていながら俺の言葉に首を傾げる。
「あいつも、何か変なんだな」
「ねぇねぇあいつ「も」って何、「も」って」
「いや、お前はお前のままでいいんだよ?」
「だから何でこの男はいい台詞をこうも煽りに使えるのよ!」
茜が何か言っているが、俺も椅子から立ち上がる。
「さって、俺も掃除続けるか」
「なかったことにしようとしてる!? スルースキルとかじゃなくてただの無視なんだけどぉ!?」
片づけをしようかと動き出そうとしたが、茜の肘が勢いよく俺の脇腹に突撃してきた。
部員になってくれるかは、ロボに目を輝かせてぐるぐる回っている目黒橋の姿を見るとわざわざ聞かなくてもよさそうだった。
部員は暫定で3人。
後2人でいいというのが楽に思えていたが、それは甘かった。
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