第2話 顧問は三上先生

「んで? どうすんだよ」

「そうだねー」

 先生と別れた後、茜を追いかけて走り回ったせいで疲れ切ってしまったため、一度休憩しようと休憩スペースまでやって来ていた。

「やっぱりこれだよね!」

 茜は自販機からおしるこを取り出していた。

「まだこの時期にあったんだな…」

 もう4月になっているというのに販売しているもんだな。って。

「違え!」

「え、コーンポタージュのがよかった?」

「それ俺用だったのかよ…」

 走り回った後に飲ませる物としてこれほどの嫌がらせもないだろう。

「うそうそ冗談だって、おしるこは私が飲む分だって」

 こいつもこいつであんだけ走った後におしるこを飲むのか…

「はいこれ」

 再び自販機の取り出し口に手を入れて取り出したのは抹茶オレだった。

「これもこれで微妙じゃねぇか?」

「運動後には糖分摂らないとじゃない?」

「それ勉強後とかだろ…」

「そうかな?」

 …真面目に考えるだけ無駄な気がしてきた。

「じゃなくて!」

 俺が上げた声に、茜が驚いた表情でこちらを見ていた。

「急に大声出しちゃダメだよ晶…」

「お前に言われたくないオブザイヤーだよ」

「おっとまだ今年も始まってすぐだぜー? 決めるのは早いんじゃないの~?」

 いつまで経っても本筋に戻れない気がしてきたのでツッコミは程々にしておく。

「部活、ロボ研なかったけどどうすんだよって話」

「あー、そっちの話だったかー意外意外」

 今までの流れでその話題以外何話すんだよ。

「とりあえず、さっき生徒手帳見てみたんだけど、部活の創設自体は新入生でもできそうなんだよねー」

 生徒手帳を取り出してぺらぺらとめくった後、茜は校則のページを指さしていた。

『部活動に認められるのは5人の生徒、部活動の顧問を1人定め、生徒会に規定書類を提出するものとする』

 確かにこれだけ見ると、新入生でも人数を集めれば部活を作ることもできそうだ。

「とりあえず、メンバー集めもそうだけど、一回職員室まで行って書類貰っとこうよ」

 茜がベンチから立ち上がり、残っていたおしるこを一気飲みしてから空き缶をゴミ箱に入れた。

「? どうしたの晶、一緒に行こうよ」

「あ、いや…すまん」

 放心してしまっていて反応が遅くなってしまった。

 俺も残っていた抹茶オレを飲み干してゴミ箱に放り込んだ。

「茜が真っ当な事を言ってたからツッコミ所探してたわ」

「私ボケ担当だと思われてたの⁉」

「むしろ今まで自覚なかったのか⁉」

 そんなやりとりをしながら職員室へと向かった。


「せんせー!!」

 ガラリと扉を開けると同時に茜が大声を上げる。

「ひえっ」

 いきなりの大声に職員室にいた先生のほとんどが茜の方へ振り返り、茜が驚いたような声を漏らす。

「お前さっき大声がどうとか言ってたじゃん…」

 しかも職員室にいる先生なんてほとんど先生って呼ばれてるしなぁ。

「御堂君…ちょっとこっち来なさい」

 先生が一人ため息をついて、こちらに手招きをしてきた。

「あ、鈴木先生…」

「鈴木先生?」

「学年主任の先生だよ」

 なるほど。

 手招きされてもいるし、茜と一緒に鈴木先生のところまで行く。

「君ねぇ…」

 額に手を押さえて再びため息をつく鈴木先生。

「…元気なのはいいんだけどほどほどにね」

 あ、違うわこれ。

 皮肉とか嫌味とかそんなんじゃなくてただただ元気な茜に疲れが出てるだけだわ。

「えっと、君は?」

「一年の春名です」

「新しい部活のメンバーです!」

 色々すっ飛ばし過ぎだろ。

「えーっと、今日は職員室に何の用なのかな?」

 中々のスルースキルだ。

「横からですけどすみません、新しい部活を作りたいんですけど、書類貰えませんか?」

「部活? 何かしたいことあるのかな?」

 ごそごそと机の引き出しから書類を探す鈴木先生。

「はい! ロボット研究部を復活させたいんです!」

「! ロボット研究部…」

「?」

 一瞬、鈴木先生の動きが止まった。

 しかし、一瞬止まっただけで先生は書類を出してきた。

「はい、これ。これに部員の名前と顧問の先生の名前を書いて提出してね」

「はい!」

 茜は鈴木先生から用紙を受け取った。

「とりあえず、学校に居る内はもう少し大人しく過ごしてね」

「はい!」

「…まぁ、先が長そうだ」

 そういえば、学年主任ということは茜に一年間付き合っていくこともあるのだろうか。

 心中お察しします。

「それで、顧問は決まっているのかい?」

 茜に視線をやる。

 言い出しっぺは茜のため俺は何も聞いていないのだ。

「いえ、まだこれから探すところですねー」

 あっけらかんと答える茜。

 本当に俺以外一から探すことになるんだなぁ。

「そうだったんだね、そうしたら、体育教員の三上先生に尋ねてみるといい」

「「三上先生?」」

 図らずとも茜と同じタイミングで声にしてしまう。

 まだ体育の授業を受けていないため、担当の先生かどうかも分からない。

「今の時間だったら体育教員室に居るはずだよ、行っておいで」

 長居してもいけないため、鈴木先生にお礼を言い、職員室を後にした。


 俺ととりあえず鈴木先生に聞いた三上先生に会いに行ってみることにした。

 体育教員室に行くには、別の校舎に行く必要があるため、少し歩くことになる。

「これだと今日は三上先生に会いに行って終わりかね」

「うーん、そうなるかなぁ」

 時間的にももう部活を決めている生徒は部活をしているだろうし、部活を決めかねている生徒は帰っている人も多いだろう。

「他のメンバーにあてはあるのか?」

「あて? んー、声をかけようかなって子はいるけど、どうだろうね」

 声をかける相手なのか。

「無理やりじゃないのか?」

「無理やり部活に誘うとかそんなことできるわけないじゃんかー」

 さてはお前俺にやったこと覚えてないな?

「晶はなんだかんだ言ってても最後には付き合ってくれるんだから、だったらもう最初っから頭数に入れといた方が時間節約じゃん?」

 ……。

 言われてから考えてみるが、放っておけなくて結局参加していたような気もする。

「お前が俺以外に強硬手段に出るつもりじゃなくて安心だわ」

「晶のは強硬手段じゃないでしょー?」

「あれが強硬手段じゃない判定だったらお前先に俺にどうするか言ってから勧誘しろよ…?」

「むー、違うのにー」

 なんて話をしていると、体育教員室まで到達する。

 いきなり扉を開けようとした茜の肩を掴み止める。

「いきなりでかい声出さずにノックしろ。あと大声出すな」

「二回言う必要あったかな!」

 大事な事だろうが。

 ノックして、「入れー」と声が聞こえてきたので扉を開ける。

「どうした…一年か?」

 中から出てきたのは明らかにゴリゴリの体育教師だった。

 いや、こんなあからさまな筋肉鍛えてる教師居るんだなぁ。

「あ、えっと、三上先生いますか?」

「ん、三上先生? あぁお前たち一年生か」

 ちょっと待ってろ、と言われ先生が中に戻っていった。

 ということは、あの先生が三上先生じゃないんだろう。

「お前ら入れー」

 中からさっきの先生の声がした。

 入れ? ならさっき入れてくれても良かったんじゃないのか。

「失礼しまーす」

 茜は特に何も思わなかったのか、扉を開けて教員室に入っていった。

「おー、どうしたー?」

 その後ろから教員室に入る。

 中にはさっきの先生ともう一人しかおらず、その先生が三上先生だということが分かる。

 ……。

「先生寝てましたよね?」

 明らかに三上先生は寝起きだった。

「いや、仕事中だぞ? んなわけあるか」

「えー…」

 頬は赤くなっているし、赤くなっている頬の上には跳ね上がった髪の毛が束になっている。

 さっき入り口まで出てきてくれた先生は頭が痛そうに眉間を押さえていた。

「まぁ、気にしないでやってくれ…」

 すれ違いに「用事がある」とゴリゴリ先生は教員室を出て行ってしまった。

「それで、どうしたー?」

 寝ていなかったと押し通す気の三上先生。

 茜は茜で特に気にしていないのか、さっき学年主任の先生にもらった用紙を出していた。

「三上先生、部活の顧問やってくれませんか?」

「部活ー?」

 わしわしと頭を直しつつ(さりげなくやってるつもりなのだろうか)用紙を手にした。

「ロボット研究部か」

「はい! 鈴木先生に聞いてきました」

「…そうか、いいぞー」

 あくびをして、三上先生は特に悩むでもなく口にした。

 というか最早隠す気ないだろこの人。

「あっさりっすね」

「顧問持てってうるさいんだよあの学年主任…」

 先生は特に役職がない場合は部活を持たなきゃいけないってのは本当だったんだろうか。

「顧問、やってくれるんですね! ありがとうございます!」

「あーあー、やってやるからちょっと静かにしてくれ…」

 本当隠す気ねぇなこの人。

「んで、あと三人か。どっちが御堂でどっちが春名だ?」

「春名っす」

「御堂でーす!」

 三上先生は俺たちの名前を確認して、用紙を茜に返す。

「んじゃ、残りの部員を集めて用紙に書いて、もう一度私のところまで来いな」

「はーい!」

「いややっぱうるさいな御堂…」


 顧問が決まった。

 残りの部員を三人探さないとな。

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