第1話 始まりはどーんと。
ピピピピピとスマホから流れてくる電子音で目が覚める。
何も変わらないいつもの自分の部屋だ。
「夢を見てた気がする」
体を起こし、違和感があってポツリと漏らす。
いやまあ別にたまにあることだし何が変なのかはさっぱり分からないが、なんだか引っかかる。
んー?と首を傾げたところで、階下からガラガラと戸の開く音がした。
「おはよーございまーす!」
窓からしてるのか下の階からしてるのか、はっきりとわかるレベルの声が響いた。
「……支度すっか」
布団から出て、昨日の晩の内に準備を済ませておいた鞄を用意して着替え始めた。
「てか朝っぱらからでかい声出すなよな…」
「えー? 朝だからこそ元気にいかなくちゃ、その日一日なよなよになっちゃうよ」
商店街の中華屋である自宅から出て、歩き始めてすぐに目覚ましとタッチの差で大声を出していた幼馴染、
「それに、私の挨拶が無かったら商店街の人たち心配するらしいじゃん」
「……そういえばそんなこともありましたね」
子どもの頃から「元気いっぱい」を人にしたような性格の幼馴染が風邪を引いた時、朝の挨拶がなかったせいで近所の人に「茜ちゃん、何かあったの?」と俺に聞かれたことがあったことを思い出す。
「お前、そういや風邪引けたんだったな」
「引けたんだったなって何!?」
「いや、お前「バ」で始まって「カ」で締めるアレだろ?」
「「だろ?」じゃないよ! そこまで言って言い切らないのは最早煽りだよねぇ!?」
「そこでだ、「バカは風邪ひかない」って言うのは間違いだと思うんだ。茜
が引けるんだし」
「さっきふわっとさせた単語を平然と口にしちゃったよ!」
「「バカは風邪をひかない」んじゃない、『バカは風邪をひいても気づけない』なんだよ」
「「なんだよ」ってキメられても! 私に何を期待してるのかな!?」
すでに漫才と化している登校の馬鹿話をしていても、商店街ですれ違う人たちは特に何も言ってこないどころか笑顔の人までいる。
意識して騒がないようにしてた時があっても、ふと気が抜けた時にはこんな風に話をしてしまっていたのかもしれない。
「それにしても、茜は元気だなぁ」
「この流れで!? よくもそんな台詞を全く嬉しくないようにできたねぇ!」
そんなこんなで話していると、商店街を抜けた。
広場には、俺たちが生まれるよりもずっと前にある、「光の巨人」のオブジェが今日も変わらず立っていた。
アーケードがあるためはっきりとした空模様は商店街を抜けないと分からない。
まぁ天気予報で雨が降るか降らないかぐらいは確認するので、晴れだろうという予測は立っているのだが。
案の定というか、今日はよく晴れていた。
少し雲は見えたが、青空が広がっている。
町おこしのために建てられた光の巨人の像が天を指さしていた。
「よしよし、いい天気だね」
茜が空を確認して頷いている。
「今日なんかあるのか?」
普段から特に天気の話題を使ってるわけではないのだが、どこか確認したように見えた茜に聞いてみた。
「よくも聞いてくれました!」
「「よくぞ」な」
どやぁ、とオノマトペが出て来そうに胸を張っていたが、肝心なところが間違っていたため指摘すると、胸を張ったまま固まって頬を赤くする茜。
「ま、まぁ私の間違いなんてこの際どうだっていいんだよ! 高校生になって今日で三日目だよ!」
そうである、俺と茜はついこの間高校生になったばかりだった。
とは言え、小学校も中学校も高校も同じ俺たちが住んでいる島にあるため、同年代の生徒はほとんど何も変わらない。
「高校生にもなってそのレベルの日本語なのが俺は心配だよ…」
「だー! 露骨に哀れんだ目で見ないでよ! 違うのー! 高校生になって三日目ってことはだよ!?」
「…学力不足の違法入学がバレたのか」
同じ島に高校は1つしかない。
いくら学科によって学力レベルに差があるとは言え、最低限の学力は必要だろう。
「ちーがーうーわー!!」
「で? 入学三日目がなんだって?」
「なんでこの男は自分からそらした話を戻すのにこんなに平然としていられんでしょうねぇ」
これ以上遊んでても話が先に進まないと分かったのか、茜がコホンとわざとらしく咳ばらいをする。
「部活だよ部活! 晶はどの部にするか決めたの?」
「あー、部活なぁ」
担任が昨日の帰りに部活について言っていたことを思い出す。
今週の終わりまでが仮入部期間で、来週中に入部届を出すんだったか。
「…別に決めてねぇなぁ」
中学生の時には特にスポーツをやっていたわけでもなし、名前だけ入れて顔も
出していない文化部だったのだ。
だが、帰宅部と言う訳にもいかないらしく、理由がない限り、何かしらの部活に入るのが必須だという。
「だったらさ! 私と一緒に一つ見学にいきやせんかい…?」
へっへっへ…と露骨な仕草で手をもみ合わせる茜。
「どうした急に小物になって」
「小物感とかじゃなくて小物決定なんだ…いや別にいいんだけど、一緒に行こうよ、見たい部活があってさ」
「いいぞ別に」
見たい部活があるわけじゃない、が別に部活に入りたくないわけでもないので、軽く返す。
「よっし決まりね! 言質は取ったぞ!」
言質て。え、俺何か変なことに巻き込まれんの?
結果から言えば、この予感は当たっていた。
そして放課後。
「行くよ晶!」と文字通り引っ張られて、色々と恥ずかしい思いをして茜に連れてこられたのは、高校の敷地の端だった。
俺たちが通う高校は山に面しており、段々畑とまではいかないが、山の斜面に沿うように校舎がいくつかある。
とは言っても急な山でもないため、坂が多いが校舎と校舎を行き来するのに廊下や屋外の道が多かった。
屋外の歩道をしばらく歩いていて、突き当りまで来たところで、茜が山にある鉄製の扉の前まで来た。
「こんなところがあったんだな」
「そーらしいの、んでこの中が部室になってるんだってー」
へー。と返事になっているのかいないのか分からない声を漏らしていたら、茜が扉のノブに手をかける。
「お、開いてる」
「部活、やってんじゃねーの?」
扉を開けて中に入る。
中には、どこかに窓があるのだろう光が差し込んでおり、直接見たことはないが、工場のような施設や機械がそこらに転がっていた。
「すみませーん……、誰か、いらしゃいますかー?」
流石に初対面の人にはいつもの元気が出ないのだろう、茜が恐る恐るといった感じで声をかける。
が、帰って来たのは茜の声のエコーと、それが済んでからの静寂だけだった。
「今日は居ないのかな…?」
「さぁなぁ…」
誰かいないかキョロキョロしていると、茜が何かに気づいたのか奥の方へと行ってしまう。
「おい、勝手に――」
止めようと声をかけたところで、茜が何かを見ていて立ち止まっているのに気づく。
視線の先を確認し、茜が目を奪われていた理由が俺の目にも飛び込んできた。
例えるなら、巨人が疲れて眠っているかのように、そこに座っていた。
「ロボット研究部、本当にあったんだ」
そう。ロボットとしか言いようがないほどに、二足歩行であろう巨人がそこにはいた。
「ロボ研?」
結局ロボがいたドックには誰も居なくて、誰かが来る様子もなかったので茜と二人で外に出たところで、近くにいた担任の先生を捕まえて聞いてみた。
「いや、そんな部活があったとは、何年も聞いてないなぁ」
「マジですか先生」
「いやなんでそんなに驚いてるの御堂さん…」
先生にお礼を言って別れた後も、立ち尽くしている茜。
「んで、どうするんだ?」
固まってしまっている茜の後頭部を、適当にチョップする。
「よし、決めた」
「おう」
「私たちでロボ研復活させようじゃん!」
「おー頑張れー。…ん? たち?」
俺が茜の言葉に引っかかっていると、茜は生徒手帳を取り出して何やら確認していた。
「部活に認められるのは5人…よし、あと3人! 頑張って探すぞー!」
ん?
「それじゃ、晶も部員探し頑張ろうね!」
あれ? 俺も頭数になってる? 俺の意思は?
「大丈夫、できるよ! がんばろー!」
何やらすでに俺が巻き込まれるのは決定しているらしい。
走り出してしまった茜に追いつくのに全力疾走したため、問い詰めるのには随分と体力と時間を使ってしまった。
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