3 びょうき
♧
携帯が
俺は出た。
『人間でありたいなら、己を他者に管理させるなかれ。
楽になりたいなら、すべてを他者に
完全な俺の声に聞こえる。
俺は目を
携帯にもう一度目を落とした。先程の着信の
仕事に行く。広告代理の仕事。数字と
デートに行く。大抵は上手く行く。数回成功し、だがどこかで振られる。
親友に連絡する。慰めの言葉を受ける。帰宅する。二、三時間眠る。
そのすべての時間に監視の目があることを意識する。
その日は居酒屋の個室になっている席についた。
話題はいつも通り、俺の
そのうち不意に、酔った親友が、「お前は
――俺は、
「呑気? 俺が? 本気で?」
親友の頬の赤みが、一瞬にして引いた。
「本当に? 監視っ、監視されてるのに。いつも他人の目がある。平凡でならなければならない。これは戦いだ」
「ど、どうしたっ……?」
「己を他者に管理させるなかれ。なら、自分で自分を管理するしかない、できなきゃ連れ戻されるんだ」
「……は、どこに? 誰も連れ戻したりしないだろ……。
待て待て。え、元カノと関係がこじれてるのか? それとも何か……」
親友は、テーブルの上の酒とつまみを遠ざけ、前のめりになった。
「違うんだよ、監視してるんだ奴らが!」
「落ち着けって! 落ち着けよ、誰も監視なんかしてない」
親友が目を
「な、あのさ、これは悪口じゃなくて
……いいか、本気で心配して言うぞ」
彼は、
「……お前、病気、なんじゃないのか? 確か……えっと、統合失調症、だっけか……?
監視されてるとか、そういう妄想が頭から離れなくなってしまうような病気、俺、聞いた事あるよ」
病気。俺は口の中で唱えた。
親友が「ちょっと待てよ」と俺に告げ、携帯を操作した。
ネット上に、精神病理に関する簡易な説明文があった。
いくつかの症状が、俺の確信していた事柄と
つまり、俺は監視されていると確信していたが、そう確信してしまう病気が存在することを、この場で知った。
親友が申し出た。
「明日、精神科行こう。俺も付き添うから」
俺は「……ああ」と呻いた。
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