第91話
「あぁあーーっ! 溺れる、溺れる、助けてくれぇーーーーっ!」
黒山は今、我がダンジョンの広く美しい海にて……溺れかけている。
流石にトイレでギャン泣きされるのは 鬱陶しいので教育する場所を我がダンジョンの海を移したのだ。
事前にハルカに頼んでアヤメの協力も取り付けていたのでスムーズに話は進んだ。
ハルカにアヤメを連れ来てもらい、黒山の首根っこを引っ掴んでダンジョンゲートにポイッとするだけさ。
そしてこの場には私とハルカとアヤメの3人がアヤメの『念動力』によって空に浮いていた。
黒山は海にポイっとされたので現在その海のど真ん中で溺れまいと必死に抵抗している状態だ。
「どうです黒山さん、ちゃんと反省して今後は私や私の知り合いたち手を出さないと契約する気持ちになりましたか?」
「ふざけるなっ…誰がそんなくだらない……契約などするものか!」
ハルカの手には一枚の紙があった。
それもまたダンジョンの資源で生み出されたアイテムの一つで『強制の契約書』と呼ばれるアイテムだ。
契約した相手にその契約書の内容を強制的に守らせる、破ろうとしたら全身を苦痛に襲われるというアイテムだ。
もちろんこのアイテム自体も割と犯罪に利用されている代物の一つではある、だがそれについて私は何も言わない。
どこから手に入れたのかも私はハルカに質問もしないのだ。
当然の如く黒山はこの契約書を見たことがあったのだろう、がんとしてサインをしようしない。
それでいて海は冷たいから助けてとのたまっているのだ、本当にこの男が都合のいいことしか言わないな。
「それなら貴方が力尽きて沈むまでこちらは見学しますが?」
「貴様それでも人間か!? こんな状況でなぜ平然としていられる!」
「もちろん溺れかけている人間が他の誰でもない貴方だからですからね…アヤメ、コーヒーもらえる?」
「はいはーい」
アヤメに手には3人分の缶コーヒーがあった、その一つを私は貰いゴクリと一口 いただく。
この缶コーヒーもなかなか悪くない、ハルカもアヤメも飲んでいる。
アヤメは何故か昔ながらの町の銭湯にて、風呂上がりに牛乳を飲む時のように腰手を当てて飲んでいた。
理由とかは特にないのだろう。
私たちがそんなやり取りをしている間も黒山がまだ暴言を吐き続けていた。
しかししばらくすると黒山が暴言を吐く体力もなくなってきたのか静になる。
何とか体を浮かせるだけで精一杯のようだ。
「この……人殺し……どもが、こんなことをして警察が……ダンジョンセンターの…人間が黙ってると思うなよ」
なんか前にも似たようなことを言ったのがいたな~。
「だから警察もダンジョンセンターの人間もあなたの死体もなにも見つからなかったら動くことなんてないでしょう? 貴方はこのままこのダンジョンの海の底に沈むんです。そして日本では貴方はただ行方不明になるというだけなんですよ」
私の言葉に黒山は絶望的な表情になる。
ここまでくれば無駄に吠えることもしないらしい、少なくとも私の言ってること通りになることがわかっているのだろう。
こちらにはダンジョン以外にもハルカの『瞬間移動』てスキルもある。
アリバイなんて簡単作り出してしまえるのだ。
今の日本の法律はレア度が高いスキルに関して言えば法整備がまだまだ整っていない。
故にこういうことも出来てしまうわけである。
「まさか…本気か? 本気じゃないよな……この私を見殺しするのか?」
「この私というのはどの私ですか? 少なくとも私個人から見れば貴方はただのゲスでしかないないですが、すみませんが私は貴方に対して命を救う価値も生かす意味も見出す事も出来ませんよ」
私の言葉に黒山は言葉を失ったようだ。
「そういえばアヤメ、頼んでおいた彼女への話はつけてくれたのかい?」
「もちろんよっワタシだけ何もしてなかった訳じゃないわ、もう少ししたら来るはずよ~」
「そうか」
私は我がダンジョンがある方角の方をちらっと見る、すると近づいてくる存在があった。空を飛んで。
「…来たみたいね」
「ああっスペシャルゲストの登場だね」
「なっなんだ………あれは?」
事態を理解していないのは黒山だけだ、無論のことだが前回の侵入者も今回の黒山も殺すつもりなど毛頭ない。
こんな連中の命を奪って犯罪に手を染めるなんてごめんだからね。
……え?
もうすでに犯罪には手染めてるじゃんって?
そんな言葉には黙秘権だよ。
そしてその代わり徹底的な恐怖体験を味わわせてあげて、二度とこちらを怒らせようなんて思わないようにする。
それが私にできる最低限の譲歩だ。
というわけで今回の我がダンジョンの方からおこしに来ていただいたスペシャルゲストをご紹介しようか。
「よく来てくれました、ラグネシアさん」
「ダンジョンコアの片割れに力が必要だと言われれば私自身でも動く、それで……何を消せばいい?」
「ドッドラゴンが…喋っただと?」
「何だ…あの小さなゴミは?」
黒山はただそれを見上げることしか出来ない。
全身を赤い鱗で覆われ 大きな両翼を広げた巨大なドラゴン。
そう今回ラグネシアは本来のドラゴンの姿とやらでお越しいただけるようにお願いしたのだ。
実際にドラゴンの姿を見るのは私も初めてである。
かっこいいけどめちゃくちゃ怖いね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます