第90話

「黙れぇ黙れぇ黙れぇえっ!」


 私の問いに黒山は殺意を込めた雄叫び で答えた。

 黒山が懐から何かを取り出す、それは金色の装飾が美しい短剣だった。


 ダンジョン資源で生み出されたアイテムか!


 ダンジョンと呼ばれる場所がある。

 そこで手に入る様々な資源は人類社会を支えるのに大きな役割を担っている。

 だがそれ以外にもその資源が使われる用途がある。


 それがまるで魔法ような不可思議な力を持つ道具の材料となるということだ。

 そんな夢のような道具をダンジョンで手に入れられた資源を材料として生み出すことができる。


 そういうスキルが存在するのだそうだ。

 そしてそれらによって生み出された数々のアイテムは恐ろしい程の高値で取引される。

 ただコレクターが収集するだけならいいがそれらは時に邪悪な人間たちの手に渡り犯罪に利用された。


 雄叫びを上げる黒山がナイフを振るう、私はそれを数歩後ろに飛びのき回避した。

 黒山が手にする短剣に私は見覚えがあった、故に身の危険を感じ躱したわけだ。


「『隷属の短剣』ですか……」


『隷属の短剣』、確かあれは数年前、日本にあったとある宗教団体で使われてたダンジョンの資源で生み出されたアイテムの一つだ。


 切りつけた人間を一定期間の間、自分の意のままに操る人形にすることができる。

 更にその期間の間に再び傷つければその人形として操る期間が更新されるという、人権を無視したアイテムだ。


 その宗教の教祖は『隷属の短剣』を利用し、信者を無数に増やした。

 そしてその信者や家族に借金までさせて自分たちの組織を大きくし肥え太らせていった。


 最終的には信者の1人にその教祖は殺された、全員を隷属させてようとしていたら、たまたま操るれる期間を過ぎた人間が現れたからとか聞いたな。


 一時期ネットやテレビを賑わせたことで有名になり、私の記憶にも残っていた。


「まさかそんなものを持っていたとは…一体どこで」


「これもまた私の持つ力というわけだ、この刃に切りつけられたら最後、死ぬまでそいつはただの私の言いなりの人形だ、貴様はダンジョンへの入り口を用意する為だけの木偶人形にしてやる、あの月城という女もこれを使って私のオモチャにするのは悪くないなぁあっ!」


 本当にこの男は平然と人の逆鱗に触れてくるな、もう何発かぶん殴ってやりたいところだがあんなものを振り回されたのではさすがに危険だ。


 どうしたものか…。

 そんなことを考えているとトイレの入り口からひょこっとハルカが顔を出した。


「ヒロキさん、少し話をいいかしら?」


「ハルカ?」


 彼女にはこのトイレに入り口のところで集まっていた黒川の護衛の黒服たちの相手をしてもらった。


 無論ハルカが多少の立つレベルの人間に負けるわけもなくすぐに瞬殺してもらい無力化、そして気絶した連中を一箇所にまとめてもらっていたのだ。


 そして私は悠々とこのトイレに中に向かったわけである。

 ハルカは平然と私に説明する。


「もしかして気づいてないかもだけど、貴方の領域内だったそのダンジョンの資源で生み出されたアイテムの力も無効化されるから気にする必要ないわよ」


「「…………え?」」


 非常に不愉快なことだが私と黒山は全く同じタイミングで声を重ねてしまった。

 そして次に黒山とお互いにの顔を見る、お互いに無言となった私たちだ。


 ……やがて黒山が吠える。


「そっそそそんなバカな話があるかーっ!」


「すいませんね、ハルカってこういう時に必要のない嘘とかつかない子ですから」


 一瞬でアドバンテージが消えたと黒山は私の襲いかかった。

 私は片手で奴の短剣を持つ方も手を引っ叩く、黒山はとても痛そうに声を上げて短剣を落とした。


 まあ基本的に素人がナイフを振り回したくらいだったら今の私でもどうでも出来たって訳か。

 というわけで教育の続きだ。


 私は黒山の横顔を平手で引っ叩いた、それでもまだ黒山をは折れない、再び暴言を口にしたので今度は反対の頬を平手で引っ叩いた。


 これ以上グーで殴るとあれだからなと思って平手したのだが、黒山の頬は赤くなっていますな。


「まるで大人が子供を教育してるみたいね」


「まあ実際似たようなものさ」


「クソがクソがクソがーーーーーっ!」


 頭をグーで殴るというのはさすがに推奨されない、だが悪いことをした子供にはちゃんと罰を与えなくてはね。


 口で言って聞かせても何の効果もない困った人間もいる、そう言うにはこういうので分からせる必要があるのだ。


 というわけで往復ビンタである。

 景気のいい音がトイレ内に響く。

 暴言を吐きまくっていた黒山は次第にその声を泣き声に変えていった。


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