第16話

「何てこった。まさかこのダンジョンにこれほど危険なモンスターが現れるとは」


 私は深刻な顔で言った。そんな私を見るハルカとアヤメはちょっと微妙な視線を向けてくる。


「いやどんなモンスターが現れたかなんて分かんないでしょ」


 アヤメはこれまたのほほんとした顔で何を言ってるんだ?

 これはどう見てもクマである、クマの足跡だそしてこの大きさ足跡からどう考えてもデカイクマみたいなモンスターに決まっている。


 森の木々をなぎ倒し、人間なんてパクリパクリと食べてしまうようなそんな凶悪なベアーモンスターに決まってるじゃないか。


 こんないっけん長閑な森にそんな邪悪なモンスターが住み着いているなんて、ハルカが言った危険なモンスターは現れないって話は嘘っぱちだったのか?


「もしクマの魔獣型モンスターが現れたと言うのなら急いで探索者たちを集める必要があるんだよ、その探索者にモンスターを倒してもらう必要があるからさ」


「落ち着きなさい、この足跡の持ち主が本当に危険なモンスターかどうかわからないじゃない」


「私がいた世界じゃ普通のクマだって十分に危険なんだってば。ダンジョンの中に現れたクマが危険じゃないなんてどれだけ低確率の話をしてるの」


「そっちの世界はそっちの世界。ダンジョンはダンジョンよ。別の世界なんだからそう気構えなくてもいいんじゃないかしら?」


「……そうなの?」


 子供だった頃、クマの足跡を見つけて全力で逃げた時のことを思い出す。

 本当にクマを見かけたわけではないがとても怖かった。


 正直な話をすればクマは基本的にどんぐりとかを食べて生きてるような動物だ、それだけなら害はない、ただ雑食なので人間も食うそして人間の味を覚えたクマやはり人間を襲うようになる。


 それは森の中をずっと徘徊して小さすぎるどんぐりとか食べるよりも人間を1人食った方がすぐにお腹いっぱいにもなるからだろう。


 そう仮にこの足跡を持ち主が草食系なんかクマだったとしても、後々に肉食系クマになる可能性もあるんじゃないのか?


「………やはり殺すしかないか」


「だから落ち着きなさいってば、どうしてそうシリアスな方向に行っちゃうかな~~?」


「貴方は基本的にも物事に冷静に対処できるんだから。そこまで短絡的にならない方が良いとおもうわよ?」


「しかしこの森にそんなクマのモンスターがいると分かったらのんびりとダンジョン探索とも言ってられないじゃないか、探索していれば背後から襲われる可能性が高いんだよ?」


 私もそこまでクマに詳しいわけではない、ただクマはあの巨体でかなり早く動く、森の中でもな。

 木の上にだってすいすい登り、手足にある肉球は移動の時の足音をかなり消すらしく気づいたら背後にクマがいましたなんて言う話も私の世界には結構あったぞ。


 それがもしモンスターなクマさんだった場合ほぼ一撃で即死だよ?


 そんなマーダーなモンスターがいるような森の中を間抜け顔を晒して散歩することなんかできないじゃん。


 なぜか私一人だけはこんなシリアスに考え込んでいるのかと思いつつも悩む私にアヤメはいつものあっけらかんとした感じで提案してきた。


「とりあえず、そのモンスター確認しに行ってみればいいじゃない? 本当に危険なら倒す、危険じゃなさそうならほっとけばいいのよ」


「そんなの見た目でわかるんですか?」


「モンスターは大抵は見かけで判断できるものよ」


 正直モンスターとか見に行きたくもない。

 こんなでかいであろうクマのモンスターとか視界に収めたくない。

 全てをお金の力で探索者に丸投げしたい。


 だけど現実問題これから長期間探索者を雇う事になるだろう。

 それに加え別でモンスターを倒せる探索者を雇うとなるとお金が足りないのだ。


 なら自分たちで処理できるなら処理した方がいいのだろう。

 それにハルカとアヤメがいる、相手が一体なら銃弾と攻撃スキルぶち込めば多分倒せるかもしれないしな。


「……分かった。とりあえずそのモンスターを見に行こうか」


「ふふっ一体どんなモンスターなのかしらね~?」


「分からない、けど恐ろしいクマっぽいのモンスターである可能性はとても高いと思うんだ。それも全長十メートル越えの…」


「多分思い込みだと思うわよ? ダンジョンと言う場所では本当に危険なモンスターが出る場所はね。ただならない雰囲気に満ちてるものなの」


 少し前に探索者になって速攻でドロップアウトした人間にそんなに言われても分かりませんよ。


 もう私の頭の中ではリアルな感じの全身返り血だらけの超巨大なクマが手ぐすね引いて待っているようなイメージしかないのだから。


 決死のクマッぽいヤツとの決戦の始まりか?

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