第17話

 そして私たちの危険なクマさん探索が始まった。

 前を行くのは私、しかし当たり前だけど私は腰が若干引けている、足だって気を抜けばブルブル震えそうだ。


 ダンジョンで戦ったことのあるモンスターなんて雑魚モンスター代表のスライムと同レベルの存在であるデカイナメクジ野郎くらいなもんである。


 そんな自分が熊っぽいモンスターを追うことになるなんて我がダンジョンを管理する立場となってその責任をこれほど感じていることはないだろう。


 もうね超怖いよ。

 そもそもの話をすればなぜ自分がこんなにもクマっぽいモンスターを怖がるのか。

 その理由について簡単に説明すればやはりスマホによるダンジョン関係の情報を割と目にしてきたことが大きいだろう。


 ダンジョンで最も恐れられるモンスターというのは大きく三種類ある。


 一つ目は純粋な見た目と強さが全く釣り合っていないモンスターだ。

 見た目は真っ黒い小さな人型みたいなモンスターが熟練の探索者たちを一瞬で全滅させるなんて言うダンジョン配信の事故動画か一時期有名になったりしたのだ。


 二つ目は擬態して人間を罠にはめるモンスターだ。

 ゲームで言えば宝箱に化けるミミックだとか壺化けるモンスターが有名だがあとはこういう自然の森っぽい場所では木に化けるトレントとかがいたな。


 そういう何かに擬態するモンスターに気づかないでその攻撃範囲に侵入した瞬間に一撃でやられる。

 そしてご臨終となった探索者というのも珍しくはない。


 そして三つ目、これが最も厄介で恐ろしいのだがそれは人間探索者相手に積極的に奇襲を仕掛けてくるモンスターである。

 こいつらが本当に厄介なのは自分たちの方から動いてくることだ、他の2つは最早漠然とした運ゲーであったり自分からテリトリーに侵入するなどの要素があるものの。


 この三つ目のやつに関してだけは探索者がどこで何をしようと関係がない、向こうの方が探索者を狩りに来てるからだ。


 そんでそれを好んでするのがくまっぽい姿をした魔獣型のモンスターなわけである。

 とりわけくまっぽくてもモンスターの場合は奇襲でドンッと攻撃されれば人間である探索者は一撃やられるしかない。


 くまさんパンチの一撃で私の体は吹き飛ぶだろう、 そんな化け物を自分の方から探しに行くんだから我ながら何を考えてるんだと思うね本当。


 ハルカとアヤメは全然怖がっていないがな、やはりここら辺の感覚はただの人間とダンジョンコアの差というのだろうか。


 兎にも角にも素人なりに周囲を警戒し、我々は森の中を進んだ。

 そして再びクマの足跡らしきものを発見する。


「…やはり森の奥の方に移動するみたいね、そろそろ近いかも知れないわ」


「そうか、ならハルカかアヤメのどっちか先に銃になってもらっていいかな?」


「それならワタシが変身しておこうかしら」


「お願いします」


 アヤメが銃になったので私がそれを装備する。彼女のスキルは相手の動きを阻害するものだからなんとかこちらから攻撃を仕掛けられれば全員の安全を確保できるかもしれない。


 再びクマを探索を進む、そしてある程度進んだ先に木々生えていない開けた草原のような場所に出てきた。

 ここまで探して現れないなんてもっと森の奥にでも行ってしまうのか?


「ハルカどう思う?」


「そうね…確かにここまで見つからないというのは予想外だったわ」


 話ながら周囲を見渡す、なだらかな傾斜があり風が頬を撫でる。

 実に長閑な場所である、こういうところでブルーシートでも引いて弁当を食べればとてもいい気分でピクニックができるだろう。


「………なんだあれ」


 草原の真ん中付近にまるで草で作った大きな団子みたいなものがいくつもあった。しかしここはダンジョンなので変わった風景というのも珍しいことではない。


  若草色の超巨大な草団子である。なんでそんなものがあるのかというとやはり不思議に思いながらもここはダンジョンだからな~と考える。


「少し歩くのも疲れましたし、ちょうど椅子代わりに使えそうな草団子みたいなものがあるよ、あれに腰を下ろそうか?」


「そうね、少し休憩しましょう」


 どっこいしょといった感じでその草団子に腰をおろす。するとちょっと柔らかかった。

 そして結構暖かいぞこれ、その温度はまるで生物の……。


 咄嗟に前に転がるように動く。

 そして後ろを振り向いた時、草団子だと思っていたものがもぞもぞと動き出す。

 そうそれは生物だ、はっきり言ってモンスターだったのである。


「プオォオオーーーーン!」


 擬態を解いたモンスターの姿が確認できた若葉色の体毛を持つ巨大なクマのモンスターが姿を現したのだ。

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