情報
それから何度もギルドの職員がドアを叩いたが、ギルドマスターはそのたびに追い返した。最後には「会合を欠席するから呼ぶな」と言い放ってドアに鍵をかけた。
「信じがたいことだ。回復魔法にそんな可能性があったとはな。反転させて内部を破壊するのか。あのサーベルタイガーの巨体を一撃とはな。人間に使うとどうなってしまうのか、想像するのも恐ろしい」
「怒りに任せて使った時には、内側から破裂しました。モンスターよりも皮膚が薄いせいでしょう。今はたぶん、死なない程度には加減ができるかと思います」
「君は、冗談が好きな方かね。いや、いい。わかっている。残念ながら君は信用のできる人間のようだ。つまり触れることさえできれば、どんな相手でもほぼ一撃で倒せる。そういうことだな」
「正確には触れる必要はありません。手のひらをかざせる距離であれば発動できます。普通の回復魔法と同じです」
ギルドマスターは深い息を吐いた。
「なるほど。規格外とは君のためにある言葉のようだ。いいだろう。君の回復魔法が極めて優秀であることはわかった。それで、わざわざこの話を私にしたからには、君にも何か目的があるのだろうな」
彼はオレの目をじっと見た。
ここからが本番だ。この男が敵になるか味方になるか。しっかりと見極める必要がある。
「実は、私が保護している子どもとギースの娘がさらわれました。二人ともエルフの血が入っています」
「なにっ、エルフだと。犯人はわかっているのかね」
「ギースの妻が目撃しています。犯人はポーションを扱っている商人でした。以前から病気だった別の娘にポーションを売るために、たびたび家を訪れていたそうです。ギルドマスターは、何かご存知ではありませんか」
「ポーションを扱う商人か……。そう言えば何日か前に出入りの商人がギルドにも来て、不良品のポーションを引き取って行ったな。その男のことだろうか」
よし、ビンゴだ。
オレは慎重に話を続けた。
「ええ、二人をさらった時に、代わりに期限切れのポーションを山ほど置いていきましたから。たぶんその男で間違いないでしょう。ギルドでわかることがあったら、なんでもいいので教えてください」
「それなら、すぐに調べさせてみよう。名前と商売で使うルートくらいは分かると思う。それと、エルフか……」
「何か変わった情報でもあるんですか」
「関係があるかどうかはわからないが、最近、人買いがハーフエルフの子どもを集めているらしい。十才になるかならないかの子どもに、千シルクも出すそうだ。もちろんギルドは関わっていないが、気になってはいた。買い値があまりにも高すぎる」
「集めた子どもは、どこに売られているんですか」
「バクトラ帝国だ。その先はわからないが、国外に出ていることだけは間違いない」
やはり行き先はバクトラ帝国か。
ポーション、エルフ、エリクサー。その全てがバクトラ帝国でつながっている。恐らくルナたちも、バクトラ帝国へ連れて行かれる途中だろう。貴重な純血種のエルフをいつまでも国境の内側に置いておくはずがない。
「奴隷を外国に売るためには国王の許可がいるはずです」
「それはそうだが、表に出なければ同じことだ。どちらにしても国の支援は当てにしない方がいい。カイル君ならわかっているだろう。この国はもう、バクトラ帝国に支配されているようなものだ。
国王でさえ、今ではバクトラから買ったポーションがなければ軍隊も動かせない。その上、エリクサーが上流階級の心をガッチリとつかんでいる。不治の病を治す薬があれば、誰だってすがりたい。年間でも二十本かそこらしか供給されないエリクサーを奪い合って、国全体が半狂乱になっている。実に嘆かわしいことだ」
「俺もそうでした。カイルが助けてくれなければ、まだエリクサーを求めて、そこらをうろついていたでしょう。こいつは、命の恩人です」
ギースがまるで懺悔でもするように言った。
こいつも最初はそうだった。だが、責めるつもりはない。オレだってルナを助けるためなら何でもする。ギースも同じことをしようとしただけだ。
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