契約打ち切りされてVtuberから無職になった僕は、自分でパンツも履けない引きこもり社長令嬢を人気Vtuberにするため拉致されたらしい。#打ち切りVtuber
第2回 生のJKに興奮を隠せない魔性の百合
第2回 生のJKに興奮を隠せない魔性の百合
もはや横暴とも言って良い内容に、僕は悲鳴を上げる。
イラストレーターだけならまだしも、他の関係者もとなれば、影響範囲はあまりにも広い。
イラストレーターであれば女性も多いことからどうにかなるかもしれないが、例えばモデリングともなればその人数は更に絞られる。信頼・信用できるクリエイターとなれば猶更だ。
やれないことはない。けれど、それは自ら道を狭める行為だ。あまりにもメリットが少な過ぎる。
普段は空気を読んで相手に合わせる僕だけど、この件に関しては食ってかかる。
「なんでダメなんですか!?」
「男性はNGでお願いします」
「いや、あの……だからどうして? 結構、デメリット大きいんですけど……?」
「女性のみでお願い致します」
「……僕も男なんですけど?」
「異性カウント外。もしくは、例外とお考え下さいませ」
「僕は男ではないってコトッ!?」
鋼鉄のような頑なさに、つけ入る隙もない。
クレオールさんとて、自身の要望が困難であることは理解しているのか、仮面のように被っている笑顔を外し、至極真面目な表情で彼女は僕に言う。
「この条件が覆ることはございません。燕様にはご苦労をお掛け致しますが、何卒宜しくお願い申し上げます」
「うぅ……そこまで言われたら、しょうがないですけど。僕がデビューするわけではないですし」
どれだけ僕が言ったところで、決めるのは天戸さん次第なのだ。
そして、彼女を見れば、クレオールさんの言葉に不満を感じている様子はなかった。むしろ、安心したように息を付いているのが印象的で、クレオールさんの要求が正当であることを伺わせた。
「けど、そうなると……うーん。どうしようかなぁ」
頭の中で上がっていた男性クリエイター候補たちにバツ印を付けながら、僕は腕を組んで眉間に皺を寄せる。
最悪、ブラックカードか……と身も蓋もない現代最強の武器に頼るしかないかと考えていると、そんな僕の悩める姿が不安を与えてしまったのか、天戸さんの銀の瞳が悲し気に揺れていた。
「ムリ、かな……?」
「無理かどうかと聞かれると、不可能ではないとしか……。2Dでも3Dでもだけど、Vtuberのキャラクター制作って時間が掛かるからね。人気な絵師さんほど、スケジュールの都合で数カ月先どころか、年単位で予定が合わないこともあるし」
ブラックカードを想定しておいてなんだけど、正直、お金をかけたからどうにかなる、という問題ではない。
最初のキャラクター作成時はどうにかなったとしても、Vtuberを続けていれば新衣装は付き物だ。グッズ展開もある。担当イラストレーターさんとの関係は引退するまで続くことになるのが常だ。
Vtuberとは切っても切り離せない、まさに親のような存在との最初のコンタクトが札束アタックというのは、後々の関係性に影響が残るのは目に見えて明らかだ。
1億やるから私の依頼を優先しろ、とか最悪のコミュニケーション手段だもの。良好な関係が築けるはずがない。
「だからと言って天戸さんの好みに合わない人を選んでもなぁ……」
それは絵柄であり、人柄の好みでもある。
どれだけ僕が間に入ってやり取りしたとしても、直接話さなければ伝わらないことだってある。キャラクターイメージなんてその最たるもので、間接的では伝わるものも伝わらない。
つまり、希望人物像は引っ込み思案で話すのが苦手な天戸さんでも遠慮しないで話せる女性イラストレーター……………………………………………………………………………………………………………………………………呼びたくないなぁ。
たった1人。僕の知る限り条件に合致し、スケジュールもどうにかなりそうな女性イラストレーターがいた。……いるのだけれど、僕としてはなるべく天戸さんとは関わらせたくない人物でもあった。悪影響でしかないから。
僕は悩まし気に口を覆いながら、遠回しに天戸さんに伺いを立てることにした。
「…………天戸さん。Vtuberの
「……知ってる、よ。あんまり、好きじゃないけど」
「え? そうなの?」
思いもしなかった返答に目が点になる。まさか恋歌の時点で詰まるとは考えていなかった。
それに、天戸さんが直接的ではなくとも、嫌いな相手を公言するとは思わなかった。内心どう思っていようとも、表には出さず内側に溜め込んでしまうタイプだと思っていたからだ。
薄い唇を結び、年相応にむくれたような珍しい反応に驚きつつも、僕は質問を続ける。
「それは海姫レンカのキャライラストも好きじゃないってこと?」
「とってもかわいいと思う、よ。嫌いじゃない……ううん。好き、かな」
「……そっかー」
イラストは好きだったかー。そっかー。
ということは、恋歌本人が嫌われているということだ。性格的に陰陽真逆な2人だけれど、天戸さんに嫌われているのは意外過ぎる。天戸さんが知っている恋歌と言えば、Vtuber
その点は、視聴者の生の声として聞いてみたくはあったが、今は天戸さんのキャラ作成が優先なので自重する。
僕は嫌々ながらも、連絡を取るためにスマホを取り出す。
「ちょっとメッセージ送らせて」
「う、うん」
僕はチャットサービスのアプリ、
「クレオールさん。お聞きしたいことがあります」
「いかがしましたか、燕様」
「仕事関係者と直接お会いする場合、日本に戻していただけるのでしょうか?」
「問題ございません」
是か非、どちらとも言わずクレオールさんはニッコリと笑う。
「自家用飛行機で、お客様をこちらのお城のお出迎えさせていただきます」
「あ、そですか」
どうあっても僕は、日本の地に帰れない運命らしい……いや、この無人島が日本国内にあるのかもしれないけど。
あははと乾いた笑いを零しているとスマホが震える。同時に僕の体も微かに震える。悪寒でも感じ取ったのだろうか。
「ちょっと通話出るんで、離れます」
酷く不安を覚えながらも、僕は部屋の外で通話に出る。
■■
あの時感じた悪寒と不安は現実の物となって僕の前に現れ、頬を赤らめた初々しい乙女のような御影さんは微笑んだまま謝罪する。
「うふふ、申し訳ございません。生のJKとこうして対面するのはお久しゅうございまして、少しばかり気持ちが昂ってしまいました」
「少しっていうレベルじゃない気がするけど……」
初対面で胸のサイズを問うことのどこか少しなのだろうか。男性であれば犯罪だし、女性であっても十分にセクハラが適応される範囲だ。
けれど、変態的な性格と発言に相反して、外見と所作はどこまでいっても淑女然としている。
ドの付く変態だと頭では理解していても見惚れてしまう美しさが彼女にはあった。
それ故に、どれだけ変態発言や行動を繰り返しても訴えられるどころか、嫌われすらしないのだから、美醜による世の理不尽を感じずにはいられない。
天戸さんは御影さんの変態性をまだ良く理解していないのか、きょとんっと不思議そうに首を傾げていた。どうか、そのままの君で居てほしい。
ただ、クレオールさんはなにやら感じ取ったのか、壁の花を止めていつの間にか天戸さんの背後に移動していた。従者の鏡である。
僕が呼んだ手前、責任を取る意味も込めて不承不承ながら御影さんの紹介をする。
「そんなわけで、こちらVtuber海姫レンカのイラストを担当している絵師さんの
「あらあらまあまあ。美人さんと燕さんに褒められると照れてしまいますわ。それに、レンカさんにも悪いですね」
「褒められ慣れてるくせに……」
「他の方と、燕さんが仰るのでは同じ言葉であっても、受ける印象が異なりますから」
両手をそっと合わせ、華やぐ笑顔に僕はうっと言葉が詰まる。
彼女の嫣然とした笑みに当てられ、顔が赤くなったのが鏡を見ずとも分かり、口元を手で覆って隠す。
こうやって数多の男性を誑かしてきたのだ。それも、本人には異性に好かれようという気はさらさらなく、どこまでいっても無自覚なのだから質が悪い。……女の子には意識して好かれようとしているけれど。
「だいたい、なんで恋歌に悪いの?」
「良い男性というのは、そう簡単に乙女の秘密を暴かないものですよ?」
うふふと、赤い唇に楚々と手を添え、上品に笑う。
教えないという明確な態度に、僕は顔を逸らしてため息を吐くことしかできない。
「宜しくお願いしますね、瑠璃さん」
「う、うん……」
至極丁寧な挨拶であったけれど、天戸さんは返事こそしたものの逃げるように視線を泳がせてしまう。
ドレスのスカートをぎゅぅうっと掴み、緊張しているのが傍から見てもよく分かった。
そんな天戸さんの態度で嫌われたと思ったのか、御影さんはそれは悲しそうに柳眉を下げている。
「あらあら。怯えさせてしまいましたか」
「ちょっと人見知りなところがあるけど、良い子だから」
「いえいえ。気にはしておりませんよ? ところで、1つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」
「……なに?」
ニコニコと上機嫌な様子の御影さんを、僕は不審に感じる。頭の中で警報が鳴り響く。もしくは防犯ブザー。どうあれ、嫌な予感であるのは間違いない。
僕が身構えていることには気が付いていないのか、御影さんは茶屋で団子を注文するような気軽さでこんなことを口にした。
「瑠璃さんを包んでいただいても宜しいでしょうか?」
「お持ち帰りしようとするな!」
……やっぱり、人選間違えたかも。
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