よい気味しゃんと敵討ち




 煙幕、閃光、音響。


 ひたすら地面に手榴弾を撒き、糸と鉤爪で逃げ回る。杵の射程は一町と一間。目眩ませ、足止め、引き離す。怪物が苛立っているのが、荒々しい震動でわかる。

 轟く爆音に、崩れる混凝土。


「あ、あ、嗚呼ああああアア——」


 目と耳をやられ、歪な悲鳴を上げる化物。振り下ろす動きが一瞬鈍り、隙が出来る。あたしは以前のあたしではない。師匠の教えた林の飛び方、そして剣術。


「いくよ」


 この機を待っていたとばかり、腰元の鞘から太刀がするりと踊り出る。鏡の如く照り返す刀身。煙幕に身を隠し、本陣に切り込む。


「……」


 悲鳴がふと止み、と思えば全部の杵が、滅多矢鱈に地面を叩き出す。我が身の危険を察し、焦ったのか。しかし無駄なこと。


「取った!」


 煙の一寸先。

 やっとのことで見えた青白い首に、刃先を振るおうとしたとき。ぐるりと目玉が此方を向く。血走って割れたびいどろのような。


「やれもさやれもさ、夜がな夜一夜」


 有るはずのない。

 この場で真似たか。悪辣な意趣返しか。


「ッ——」


 避けきれない。

 ぽん、と団子のごとく放られたそれを、一歩退くので精一杯。杵の盾を持つ影勝に対し、こちらは生身。死ぬ。そう思った。


 怯える右腕が、何者かに操られたように動く。


金烏きんう、」


 息を呑むと同時に悟る。柄を持ち替え、峰を前面に。狙い澄まして、白団子の側を打つ。金属音。確かな手応え。

 力の限り叫ぶ。



「くたばりな!」



 的確に打ち返し、速さを増した擲弾は、橙の炎を帯びて飛んでゆく。立ち並んだ杵の隙間に入り込み、間髪開けずに、衝撃音。噴き上がる炎。ぱらぱらと砕け散る、白亜の防壁。

 その間から、焼け焦げた男の身体が転げ出た。



「……あ、ア」



 溶け落ちた電極の成れの果てが、涙の如く頬に伝う。

 ばち、ばち、と鈍い音を立てて、壊れた地面に倒れ伏す。爛れた皮膚の内部には、ぎっしり詰められた導線と基板が覗く。死体の中に湧く、たちの悪い蛆にも似ていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る