第14話 神官(仮)と大魔法使い(仮)の実戦

 ヴォージラールに帰ってきて十日ほど経つ。

 僕は教会の下働きを終えてから、頼み込んで衛兵の訓練所に通えることになった。

 これは許可がでるまで三日ほどかかった。

 衛兵たちの訓練を見学させてもらって自主訓練を行う意識の高い衛兵に頼み込んで稽古をつけてもらう。が、一般人へ、しかも子供に稽古をつけるなら上官の許可が必要ということで、なかなか出なかったが訓練で怪我をした衛兵を魔法で癒したことがきっかけで許可が下りたのだ。


 衛兵が訓練で怪我をすることはしょっちゅうあるが、その時はポーションで治しているそうで、ポーションも費用がかかるのを僕がいる時は無償で癒してもらえるので費用抑制になるということが理由だそうだ。なんとも世知辛いなと思った次第だ。


 そして現在、絶賛手荒い訓練を受けていて今はむしろ僕が癒されたい。


 装備は女性用のを借りて使わせてもらっている。体の小さい今の僕には女性用でも少し大きいが金がないのだから諦めて使わせてもらっている。


「ほら、もう一度立って構えろ。まだ終わってないぞ」


 倒れている僕に声をかけているのは何人かいる衛兵部隊長の中の一人でビリー・スパイアーズだ。本当に動けなくなりそうになると絶妙なタイミングで声をかけてくる見切りのビリー隊長である。


「くっ、まだ、いける」


 必死に食い下がると笑顔で木剣を叩きつけてくるんだ。

 このドSが……


「今度はこっちががら空きだぞ。ちゃんと俺の攻撃を見て対応しろ」


 さっきまで下から刷り上げるような攻撃をしていたのに今は左右からの攻撃を繰り返している。多分次は上段からの攻撃をしてくるつもりだろう。と予想して左右からの攻撃を躱して上段に少し意識を持っていくと下段と正面からの突きを放たれた。

 きちんと急所を外してくれてるが、さすがにボロボロだ。


「よし!今日はこれまでにしておこう。レオン、今日もよく頑張って偉かったぞ!」


 大の字に倒れたままでお礼を述べた。


「ありがとうございました……ヒール」


 瞬時に自分を回復したが攻撃を受け続けたため精神的に疲弊していたので少しよろけながら立ち上がった。


「へぇ、傷を負っても戦闘中にヒールを使えば瞬時に回復して戦闘を続けられるんじゃないか?」


 脳筋か!


「魔法は集中力が必要なんで動きながらはちょっと……、普通は動きながら使うなんてよほど器用じゃなければ無理でしょうね」


 僕はできるんだがやる必要はないと思ってる。というか余程やばい状況ならやるけどな。


「でもレオンは剣もこの数日で形になってきてるから器用だろ?もしかしたらそれもできるようになるんじゃないか?気が向いたら挑戦してみろよ」


「あはっ、褒められてる。今はビリー隊長から剣術を学ぶことに集中しますよ。今日はありがとうございました」


「あぁ、ちゃんと明日も来いよ」


 こうして僕はエリ姉とアリスが鑑定を受けに王都へ行くまでビリー隊長から剣術を叩きこまれることに。


 教会の下働きをしてからエリ姉の補助、アリスの魔法の鍛錬、ビリー隊長と剣の鍛錬を続けた。


 ヴォージラールに帰ってから二十日目に僕たち三人にブリュノー王家の封蝋がされた手紙が届いた。中身は予想通りに王城へ呼び出す召喚状で文面を読んだときに心臓がバクンと跳ね上がる感覚があった。二人に聞くと同じように来るべきものが来たと覚悟が決まったらしい。


 手紙を読むと出発はさらに十日後で、王都までは馬車で二週間ほどの距離にあるがナチオ男爵が馬車で送ってくれて鑑定まで立ち会うとのこと。が、どうやら『聖女』など称号持ちを輩出した領地は王様からとても良い評価を得るらしいので大きな下心を持っていくのだと知った。


 (仮)とは言え、聖女と大魔法使いの二人も輩出するとなればナチオ男爵の評価はうなぎ上りと言うことだろう。僕たちには何の恩恵もないがな。


 この十日後は王都に行ってもう戻ってくることは無いだろうから、掃除や洗濯など教会の下働きを免除してもらい、エリ姉は変わらず教会で働いてアリスと僕は毎日朝食を済ませると衛兵の訓練所を訪れ、僕は剣を、アリスは魔法使いから魔法の制御を教わった。


 十日間の成果として僕は体が小さいながら新兵程度の剣技を身に着けたとビリー隊長から評価され、アリスは相変わらず威力が衛兵の魔法使いを遥かに超えているがコントロールがまだまだ甘いとされた。


 鍛錬の最後にビリー隊長へ僕とアリスが付いて魔物討伐を行うことで修了とすることになった。


「「ビリー隊長、よろしくお願いします!」」


「おう、二人とも気負い過ぎるな。これまで鍛錬したことを確認するだけだからな」


「「はい!」」


 こうして僕たちはビリー隊長を先頭に町の近くの森へゴブリン討伐のために出向いた。

 歩きながらビリー隊長が簡単に説明してくれた。


「ゴブリンを標的にしたのは今後のため人型の魔物を倒して罪悪感などに慣れることが目的だ。生き物を殺すことは罪悪感を伴うが特に二足歩行の生き物は罪悪感が大きいんだ。まぁ俺の経験から慣れるしかないと思ってる」


「わかりました」


 僕が答えると隣でアリスは少しだけ困った表情でビリー隊長へ聞いた。


「もし、慣れることができなかったらどうなりますか?」


 一瞬の間をおいてビリー隊長は真剣な表情でアリスに答えた。


「これはあくまでも俺の経験からだが、慣れることができなくて仕事を続ければ心が壊れる。心が壊れれば人と会えなくなることがある。そうなるとまともな生活は送れなくなるな」


 あとは推して図るべしってやつか、なんともやるせない。


「そうなんだ……でも、それができないとあたし達のやらなきゃいけないことができないってことだよね?」


 それには僕が答えた。


「そういうことだな……これから嫌でもついて回ることだからね」


「わかった」


 その後はビリー隊長指示のもとに探索を続け、ついに三体のゴブリンを見つけるに至る。

 ビリー隊長が小声で伝えてきた。


「前もって話して合った通り、レオンが前でゴブリンを止める。タイミングを見てアリスが魔法でとどめを刺す。森だから火の魔法は使うなよ」


「「はい」」


 指示の通りに静かにゴブリンの横へ回り込み、僕は一気に躍り出て一体へ袈裟懸けに斬りかかった。


 ゴブリンの筋肉に刃がめり込み、骨にあたる嫌な感触を感じはしたが、躊躇すればこちらが死ぬことになる。ここはるかられるかだ。

 ザスっと音がして一体のゴブリンがたたらを踏んで倒れるのをこらえた。まだ死んではいない。剣を一度引いて胸めがけて突きを放つと胸骨の間を抜けて心臓あたりを串刺しにした。刺された一体は耳をつんざくような叫び声をあげて後ろへ倒れた。

 もう一度剣を素早く引き戻し、動きの止まっていた二体のゴブリンの内一体に下から股間に向けて剣を摺り上げた。状態を確認する間もなく返す剣でもう一体の頭に剣を叩きつけたが、僕には骨を断つほどの力はない。

 間をあけず僕が転がるように後ろへ下がるとアリスから大きめのウィンドカッターが二つ放たれて二体のゴブリンを真っ二つに切り裂いた。


「見事だ!」


 ゴブリン討伐が瞬時に終わったことと僕たちの動きや連携をを見ていたビリー隊長が手放しで称賛した。既に倒れているゴブリンの死後確認と討伐証明である片耳を剥ぎ取り、その後穴を掘って死骸を埋めた。


 僕自身には生き物を殺したという仄暗い感じの罪悪感と、討伐に成功した達成感、そして興奮が一斉に湧き出してるような感覚があった。魔物とは言え人型の生物を殺してしまった罪悪感は痺れたような興奮の中で表に出すぎることはなかった。多分、僕は大丈夫だ。


 アリスは?そう思って視線を送ると意外にも平然としていた。


「アリス、大丈夫だったかい?」


「うん。なんて言うか、レオ兄が飛び込んだ瞬間にハラハラしたけどタイミングを見てあたしがウィンドカッターを打ち込んだときはレオ兄が確実に無事だった安心の方が勝ってた感じだよ」


 僕の心配してたのかよ!


「そうか。罪悪感があまりなかったなら良かった」


 でいいんだよな?と僕が考えているとビリー隊長が話した。


「二人とも良くやった。レオンの飛び込んでからの斬りつけと引くタイミング、それを見極めてアリスが放ったウィンドカッターの威力や精度、申し分なしだ!」


 この後も帰り道でビリー隊長は、このまま鍛錬を続ければ有名な騎士や魔法使いになれるだの、冒険者になれば少なくともAランクは間違いないなど、町へ帰りつくまで手放しで褒め続けて帰ることとなった。


 町へ着き、ビリー隊長が付き添ってゴブリンの耳を冒険者ギルドへ持ち込んで換金してもらい、その後衛兵隊の詰め所に寄って借りていた装備を返すとビリー隊長から衛兵隊の皆からだと僕のためにサイズを誂えた冒険者の装備とショートソードを、アリスにはローブをプレゼントしてくれた。


 僕たちはプレゼントに感激してお礼を述べ、今後も鍛錬を続けて行くことを約束して詰所から送り出された。


 翌朝、ナチオ男爵邸の馬車が孤児院前に停車され、僕らが乗り込んで静かに走り出し、町の塀近くまで通りかかるとたくさんの衛兵たちが見送ってくれてるのが目に飛び込んできた。


「レオーン!王都に行っても剣の鍛錬続けろよ!」

「アリス!ちゃんと魔法制御の鍛錬しろよー!」

「アリス、レオンが嫌になったらいつでも帰ってきていいぞ!」


 最後の一言はなんだよ!衛兵たちの声援に思わず笑みがこぼれた。


「頑張ってきます!皆さんお元気で!」


 僕らを後押ししてくれる人たちがたくさんいることを改めて実感した。

 さぁ王都セプタンブルへ行くぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る