第13話 それぞれの思い
馬車の中は沈黙が続いたけど居心地は悪くなく、どちらかと言えばそれぞれが今回の職能判定の結果を受けて今後のことを考えてるようだった。
僕はいたって単純でエリ姉とアリスを守り、どうやってこの急場を凌ごうかと考えていた。
ナチオ男爵に聞いた(仮)が付いてない正規の職業や称号を持った『聖女』や『大魔法使い』が既に王と面談しているかもしれない可能性のこと。
もし、既に見つかっているなら僕たちは僕たちの生活を送ればいいということになる。
でもそれは僕の希望的観測に過ぎず、ナチオ男爵が言っていた通り(仮)は見習いの表示であり、経験、修行を積むことで(仮)は消えるだろうということだ。だとすればエリ姉とアリスは間違いなく勇者と共に魔王討伐の厳しい戦いへ身を投じることになっていくだろう。
僕が考えるべきはそうなったときに理由をつけてなんとしてでも二人と同行することしかないが、今のところ思考が煮詰まっている感じだ。
▽□▽□▽□▽
[エリーヌ]
私の判定結果は『聖女(仮)』だったことに驚きしかありません。
『聖女』と言われて思いつくのはシスターたちが小さいころに読んでくれた絵本の物語に出てくる癒しの力を持って他人のために行動する女性のイメージで……確かに私も癒しの魔法は使えるようになりましたが完全ではなく、レオの補助がなければ救いたい人さえも救うことができない。そんな人間が物語に出てくるような『聖女』を名乗って良いのだろうかと疑問に思います。
1か月後に王様と会い、改めて鑑定を受けて領主様と同じ指示がでたら……
レオは付いてきてくれるかしら?
……ううん。そうじゃない。
レオに、職能を持っていない人に危険なことはさせられない。職能を持っているからこそ魔王討伐の使命を負うのでしょう。もしも、その時はなんとかして私だけが行くことことを考えよう。
▽□▽□▽□▽
[アリス]
あたしが『大魔法使い(仮)』だったなんてちょっとビックリだよ。
レオ兄が魔法の威力が強いのは長所だって言ってくれてたけど職能が大魔法使い(仮)だから強かったのかも。レオ兄が言っていたことは正しかったんだ。だとしたらレオ兄の言う通り、魔法制御を頑張って覚えていけばあたしもレオ兄やエリ姉のように
あたしもレオ兄やエリ姉の隣にずっと立っていたい。今はまだ後ろで守られているとしてもいつかは認められて隣に立つ。ううん、あたしが二人を守れるようになるんだ。
あ……でも、王様と会って、エリ姉とあたしだけが魔王討伐に行けって言われたら……
レオ兄がいないのはすごく困る。
もし、その時が来たらあたしはレオ兄に一緒に行ってくれるようにお願いしよう。それであたしがレオ兄を守りながら魔王を倒すんだ。
▽□▽□▽□▽
考え事をしていると宿泊予定の村に着いた。
帰りも同行してるアラベラさんとパジーニ氏に促されて馬車を降りて宿に入るが時間はまだ早いのでアリスと一緒に魔法の鍛錬のため村外れに赴いた。
パジーニさんへ申し伝え、3人で川へ行ってアリスの魔法制御の練習を開始する。
「アリス、この間と同じようにウォーターボールからウォーターアロー、ウォータージャベリンの順番でやってみよう」
「うん。わかった。ウォーターボール!」
先日と同じように詠唱省略に複数同時展開でウォーターボールを水面に向かって打ち込むと物凄い音と共に川面が爆ぜた。
ドドド、ドン、バッシャーンンンンン……
「次、ウォーターアロー」
「りょーかい!ウォーターアロー」
アリスの頭の上に水の矢が一本、身体の左右に二本ずつ、合計五本の矢が浮遊してアリスが指をスイっと前方へ動かした。それが引き金となり五本の水の矢は水面に向かって一般的な弓矢で射る速度を遥かに上回るスピードで着水した。
ドドドド、ドン……ザッパーンンン……
ひいき目に見ても初級魔法の上限程度か中級魔法の下限の威力はあるだろう。魔法を覚えたばかりとは到底思えない。
「アリス、矢の数を少なく2本にして矢を細く、打ち込むスピードを上げられる?」
「やってみる。ウォーターアロー!」
人差し指を伸ばした右手を肩の高さまで上げスイっと前方へ指を動かす。さっきと同じように細くなった水の矢2本を射出すると瞬間移動でもしたように水面に水の矢が吸い込まれ、数瞬後に水面から川底の土が吹き出した。
ゴッパーン、ンンン……
振動がここまで伝わってきたので村の者に咎められる可能性もある。
「うん、今日の鍛錬はここまでにしよう。ヴォージラールに帰ってからの鍛錬にはこうやって数やスピードを変えたり、打ち込む先の狙いを変えて精度を高めるようにすれば今よりもっと良くなるよ」
「うん、わかった。レオ兄ありがとう」
「アリス、レオ、お疲れ様。宿に帰りましょう」
宿に向かって三人で歩き出すとアリスが話し出した。
「レオ兄、もしさ、王様と会ってあたしとエリ姉が魔王を倒しに行けって言われたら一緒に行ってくれる?」
僕は間髪入れずに答えた。
「もちろんだよ。アリスとエリ姉だけにそんな危険なことはさせられないからね」
僕の答えにアリスは満面の笑顔で、エリ姉は困った表情で、
「「良かった(ダメよ)」」
僕とアリスは歩くのを止めてエリ姉の方を見た。
「ダメよ。レオに…職能のない人にそんな危険なことはさせられないわ……」
うっ、合ってるけど、僕のステータスは、たとえエリ姉やアリスであっても言えない。僕が言葉に詰まって考え始めるとアリスが先に言った。
「でも、私はレオ兄と離れるのはイヤ!もっと魔法制御の仕方を教えて欲しいし、一緒に行けば私がレオ兄を守るもん」
困った
「魔王を倒す目的があるということは、きっと自分のことは自分で守れないと死んでしまうかも知れないの」
「そんなの、エリ姉だって癒しの魔法が使えても攻撃が当たったら死んじゃうかもしれないんだよ?エリ姉だってあたしが守るんだからね!」
「……そうね。私も敵の攻撃が当たれば死ぬかもしれないわね。だからこそ、職能がないレオを危険な場所へ連れ出すことはできないと思ってるの」
僕は言い合う二人に一つの案を話す。
「僕の職能は神官(仮)だけど身体を鍛えて剣を使えるようになるよ。そしたら二人を僕が守れるしアリスにこれからも魔法制御を教えることができる。それにエリ姉の補助もね」
僕の言葉にアリスが笑顔を浮かべる。
「さっすがレオ兄!きっと叶うよ!あたしたち三人が力を合わせればきっとできるよ!」
僕とアリスの言葉にエリ姉が折れる形となったようだ。
「わかったわ。レオ、アリス、私もできることを頑張ります。これからもお願いしますね」
「「うん!(はい!)」」
アリスと僕は同時に返事をして夕闇が近づいている道を宿に向かって歩き出した。
今決めたことがこの先も同じとは言えないが、今は二人の助けになることを考えて進もう。きっと二人も同じ意識を持っているはずだから。
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