第10話 領主との面談(2)
パジーニ氏は御者と並んで座ってこの旅を仕切るらしく、馬車内ではアラベラさんというメイドさんが僕らの面倒を見ることになっているそうだが、馬車内の空気感は固いままだった。
「ねぇレオ兄、領主様のところまでどれくらいかかるの?」
「2日ほどだったはずだよ。そうですよね?アラベラさん?」
「私は道中の皆様の身の回りの世話がお仕事で、旅程のことはパジーニ様にお尋ねください」
……会話が途切れてしまう。
空気感が悪いというか固いだけで何か実害があるわけじゃないからいいんだけど、なんなんだろう?そんな妙な空気感のまま休憩を幾度かとって進み、夕方には途中の村で宿泊をすることとなった。
「本日はこちらの村で1泊して明日の夕方には領都ダヴィエルに着く予定です」
促されるままに馬車を降りて村の中を一瞥するが、僕たちが住む街ヴォージラールより田舎の村という感じでとりたてて何かありそうな感じはなかった。目の前の宿屋に入り、割り当てられた部屋で少し休んでいるとアリスが部屋にやってきた。
「レオ兄、夕飯まで時間あるし村の外れまで行って少し魔法の練習したいんだけど」
「わかった。付き合うよ。エリ姉は?」
「もう玄関で待ってるって。早く行こうよ」
「オッケー!あ、でもパジーニさんたちに伝えなきゃ」
アリスと連れだって階下に降りると丁度パジーニさんたちがいたので、村外れまで散歩して魔法の練習をしてくることを伝えると危険があるといけないのでパジーニさんも同行すると申し出があって一緒に行くことになった。
田舎の村ということもあり、宿屋から10分も歩くと家と家の間隔がすごく広くなっていった。途中にある河原で十分なスペースが取れると知ったので村外れではなく河原で魔法の練習を行うことにした。
「アリス、川も近いし今日は水系の魔法の練習にしようか?」
「いいよ。じゃ、ウォーターボールからウォーターアロー、ウォータージャベリンの順番で行くね。ちゃんと見ててよ?」
「わかったよ。じゃ始めて」
「はーい!豊かなる水の力よ
アリスが詠唱すると瞬時に人の頭ほどの水塊が出現して川に飛び、川が爆ぜた。
ドン、バッシャーンンン・・・……
「な?」
僕の隣でパジーニ氏が唖然とした表情で言葉を失った。
「ウォーターボール!」
アリスは詠唱を省略して魔法名だけを声にするとアリスの周囲に先ほどと同じ大きさで4個の水塊が出現し、川に向けて飛び、又も川が爆ぜた。
ドドド、ドン、バッシャーンンン・・・……
「詠唱省略?複数展開?いったいこの子は……」
アリスが打つ連続のウォーターボールを見ただけでパジーニ氏は青ざめていた。
「アリス、魔力は大丈夫?」
「初級の魔法だから全然大丈夫だよ?次、ウォーターアローね」
「あ、待って待って。今日はもうやめておこう?」
「え?なんで?」
「だってほら?」
僕はパジーニ氏の方へチラッと視線を向けるとアリスがパジーニ氏の表情を見て悟ってくれたようだ。
「あ~……そうだね。今日はこれくらいにしておこっか」
そんな僕たちのやり取りを見てエリ姉はにこにこと笑顔で声をかけた。
「アリス、いつもより上手に制御ができていましたね。レオとの練習の成果が出てるようでよかったわ」
「うん!エリ姉、いっぱい練習してるもん。少しは上手になるよ。えへっ」
「そうね、それじゃ宿に戻りましょう」
放心状態のパジーニ氏へ声をかけて宿に戻った。
夕飯を済ませた後に部屋割りが僕とパジーニ氏、エリ姉とアリス、アラベラさんの組で2部屋となっていたため深夜までパジーニ氏からアリスの魔法について根掘り葉掘り聞きだされて寝不足になるほどだった。
翌朝からパジーニ氏のアリスに対する態度は今までのオマケ扱いから聖女、つまりエリ姉と同格の扱いとなっていたことは言うまでもない。
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