第9話 領主との面談(1)
相変わらず忙しい日々を過ごしながらも今日はアリスの魔法練習に付き合っている。
アリスの攻撃魔法は精度こそ低いが異常とも言えるほど威力がある。
一般的に木の板へ
「レオ兄、あたしのファイヤーボール、なんでこうなっちゃうのかな?」
「魔法は同じ魔力量で使えるなら威力のあるほうがいいんだから気にしなくていいよ」
「そういうもんかな?他人と違うことは『孤児院の子だから』って言われる元になるんだよね……」
「言いたい奴には言わせとけばいい。あのね、これはアリスの長所だから。魔法の威力は上げたくても上げれない人の方が多いんだ。だから長所なんだよ」
「そっか。これはあたしの長所か……あれ?だったらレオ兄はなんで魔法使うときに抑えてるの?」
思わず頭がもげそうな勢いでアリスの方にぐるんと振り向いた。
「え?な、なんで……気付いてたのか?」
僕自身が自分で狼狽えていると気づくほど狼狽えてしまった。
「……うん。あたし、勉強とかダメダメだけど魔法のことは
アリスは僕の動揺が伝わったのかばつの悪そうな
「そうか。近いうちにアリスとエリ姉には話そうと思っていたんだ。実はさ……」
僕はアリスにあの熱を出した日を境に急激に魔力量が増えて魔法が使えるようになったことと、同時に制御がとても難しいと気づいて魔法を必死にコントロールしていることを伝えた。
「他人より威力が強いことが長所になるなら抑えなくていいんじゃない?」
「聖魔法は傷や病気に合わせて繊細な制御がいるからなんでも全力ってわけにいかないんだ。まぁでも、アリスと秘密が共有できて良かったよ」
「あ!そだね!二人だけの秘密だね!」
「あぁ、そうだな」
僕たちは視線を合わせて笑いあった。が、僕自身の本来のステータスを今は絶対にバレてはいけない。鍛錬を終えて孤児院に戻るとこの世界では初めて見る燕尾服を着込んだ執事然としたおじさんがエリ姉と一緒に待っていた。
「お帰りなさい。レオ、少しいいかしら?」
「うん?いいよ。そちらの人が何か用事あるの?」
「えぇ、とりあえず談話室に」
そう促されて孤児院の談話室へ入るとすぐに執事然としたおじさんが挨拶をしてくれた。
アリスも同席を許されて一緒に話を聞く。
「私はクルス・パジーニと言いまして、領主のアソリオ・ナチオ男爵の使いで参りました。『聖女様』だと噂されるこちらのエリーヌ・ソワイエクール様にナチオ男爵との面談を依頼すべく申し上げたところ、ソワイエクール様からレオン・シャレット様と同席ならと言われたもので同席を願いたくお待ちしておりました」
丁寧な対応だけど領主と面談なんて面倒ごとじゃん?
「ご丁寧にありがとうございます。えっと……2つお聞きします。1つ目は断った場合どうされるのか?2つ目は面談の目的を教えて頂きたいです」
「1つ目はお断り頂いても
こいつ、「今は」を強調して言いやがった。ってことは、断ったら領主の権限で強制的に何かをさせたり、教会や孤児院に圧力をかけたりするってことか?なら立場的に受けざるを得ないか。
「1つ目は
「物分かりが良くて助かります。判別には鑑定士に同席頂くのですぐにわかります」
「なるほど。でも、僕たちが不在になると街の人たち、特に冒険者の人たちが困るかと思いますが、それはどのようにお考えですか?」
「お二人が養子になる可能性もありますので抜けたからと言って困ることはないはずでしょう?」
ぐっ、痛いところを突いてくるな。
「それはそうですが、僕たちは教会の下働きをしているので急に居なくなると残るアリスやシスター達の負担が増えることになるのが少し……」
「孤児院には三名が在籍していると聞いておりますが、そちらのお嬢様、アリス様も同席頂いて構いませんし、お呼び立てするので迷惑料込みで寄進をさせていただくつもりなので教会は喜んで送り出していただけるかと」
断る理由が無くなってしまった。と思っているとアリスが言う。
「あたしも一緒に行っていいんですか?」
パジーニ氏は笑顔で答えた。
「もちろんですとも。エリーヌ様と一緒に鑑定を受けられたら良いですよ」
僕の心配をよそに喜ぶアリスを見ると何も言えなくなり、承諾する流れになってしまった。
「それでは4日後にお迎えに参上致します」
パジーニ氏はその後、約束通りに教会で金貨30枚を寄進して行ったそうで、シスターたちが嬉々としてパジーニ氏へ4日後にお待ちしていますと伝えたらしい。なぜ4日後なのか?いたって簡単でここから領主邸まで片道2日の道のりだから往復の時間ということだ。
待ってる間の4日間も教会の下働きと回復、解呪、浄化などひたすら聖魔法を使い、アリスと魔法練習に付き合う日々を過ごし、あっという間に4日間は過ぎた。
「それでは馬車にお乗りください」
迎えに来たパジーニ氏はメイドさんを1人横に置き、にこやかな笑顔で馬車の扉を開けて乗車を促した。
馬車も貴族の馬車らしく一般的な荷馬車ではなくきちんと2頭立ての箱馬車だ。
僕たち三人が乗り込むと最後にメイドさんが1人乗り込んで静かに馬車は走り出した。
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