第8話 聖女様の噂
ジョスさんが運び込んだおじさんを助けて以来、日増しにエリ姉に救いを求める人が増え、補助をしている僕も頻繁に呼び出されては教会でエリ姉と共に回復や解呪、浄化の魔法を使う日々を過ごしていた。
中には大した怪我でも病気でもないのにエリ姉に会うために来ている輩もいると聞いているが、僕が教会に呼び出される時はエリ姉の聖魔法だけではどうにもできない状態の人ばかりだからそうした輩と会うことはなかった。
あれから何ケ月か経つが、エリ姉が生来の人の好さもあって日時に関係なくシスターや神官に呼ばれては教会で聖魔法を使う毎日を過ごしているうちに街ではエリ姉が「聖女様」だと噂が流れていた。
それはアリスと一緒に買い出し当番でジョスさんの店に赴いたときに聞いたことだった。
「レオン君、アリスちゃん、エリーヌちゃんが街で『聖女様』って呼ばれていることは知ってるかい?」
「「はぁ?」」
アリスと僕は揃って素っ頓狂な声で返事をした。
「エリ姉が聖女様って?どういうことですか?」
ジョスさんへ聞き返すと簡単に噂のことを教えてくれた。
「ほら、冒険者ギルドで冒険者が助けられてからいろんな人が教会で助けられてると思うんだけどエリーヌちゃんはいつだって面倒がらず献身的に応じてくれるだろう?その時の神々しさや対応の良さからだと思うんだが街では『聖女様』だって噂になってるようなんだ。てっきり知ってるのかと思ったが……?」
「いえ、初めて知りました。少なくとも悪い噂じゃないようで良かったです」
「
「……そうですね」
ジョスさんの店を後にして僕はエリ姉の聖女(仮)がバレたのかと思ったが噂の域は出ていないようだと少し安堵した。まぁ……バレたからと言って何かが大きく変わることはないと思うが、人の心など計り知れなくて善行が必ずしも本人にとって良いことになるとは言えないからな。
「レオ兄、エリ姉が『聖女様』って呼ばれていることはあたし達の自慢だね。あたしもエリ姉みたいに聖魔法が使えたらよかったのに」
「アリスは攻撃魔法が使えるだろ?孤児院から出た後のことを考えたらその方が良いんじゃないか?」
「あたしはレオ兄とエリ姉とずっと一緒にいたいからさ、同じ魔法が使えたら良かったのにって思うんだ」
「なるほど~」
アリスの言葉に頷きはするが、アリスが不安に思う別れの未来を想像する言葉を僕の口からは言えなかった。
アリスもエリ姉もここ数か月の間にそれぞれの職業の魔法が少し使えるようになっている。エリ姉は初級の聖魔法でヒール、キュアポイズン、ディスペル、ピュリフィケーションが、アリスは初級の攻撃魔法でファイヤーボール、ウォーターボール、ストーンバレット、ウィンドカッターなどが使えるようになっていたが、どちらもまだ魔力量が多くないため数回も使えば疲弊してしまうレベルだ。
今は魔力の循環トレーニングと精度を上げるためのトレーニングをそれぞれが日々行って魔力量の増幅と精度を上げているところだ。かくいう僕は魔法に関して言うと抑えても達人並みの威力で、むしろ誤魔化すために必死になっているのが現状である。
僕たちが大きな荷物を抱えて孤児院に帰るとエリ姉が出迎えて一緒に荷物を抱えてくれる。
「二人ともお帰りなさい。買い出しありがとうね」
「ただいま、エリ姉。ねぇ、エリ姉が街で『聖女様』だって噂されてるの知ってる?」
アリスからの質問に困った表情でエリ姉が答えた。
「ここ数日、何人からかヒールをかけた後に『聖女様ありがとう』と言われて戸惑っていたのよ。いったいどういうことなのかしらね?」
エリ姉の疑問に僕が答えた。
「ジョスさんから聞いたんだけど、面倒がらず献身的に働く姿が『聖女様』のようだと噂になってるみたいだよ」
「困っている人に尽くすのは教会の教えだし、寄進もしていただいてるから他のシスターたちと同じで特別なことはしてないんだけど……」
困惑気味の言葉にアリスが元気よく告げる。
「でもさ、悪い噂じゃないし『聖女様』って呼ばれるのをあたしなら自慢しちゃうけどな。ていうか一緒に暮らしているあたし達の自慢だよね!」
アリスの言葉にエリ姉も僕も笑いながら重い荷物を教会の厨房へ運び込んだ。
孤児院を出るまであと3年ほど、それまでどこかの家に養子に出されるか、養子になることなく成人を迎えて冒険者になるか、教会の下働きとして働くか選択を迫られる時期が来る。
僕は成人すれば冒険者として身を立てていくことができる。アリスも大魔法使いになれば冒険者としてはもちろん、このまま成長すれば宮廷魔導士なんかで生きていくこともできるんじゃないかと思う。
……でも、エリ姉は?聖女として?じゃぁ、聖女っていったい何をする人のこと?
確かに鑑定で職能が『聖女(仮)』となっていたけど、実際には聖女って職業じゃなく敬称と同じで何かをする人ではなく、他人に尽くし、立派な行いをした女性に贈られる『呼び名』でしかないだろう。
聖魔法の達人にはなるかも知れないが、損得勘定で言うなら教会にいて聖女と呼ばれるのは損ばかりしてしまう立場と言っていいんじゃないかと思うんだ。
おそらくエリ姉自身はそれも受け入れるだろう。なにせ今でも聖女(仮)でその気質はできつつある。でも、僕がそばでそれを見ていて到底受け入れられない気がしている。
成人までのわずかな時間で僕たちの明るい未来を掴むために何ができるのかしっかり考えていこう。これは僕に課せられた使命かも知れない……
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