第5話 教会の仕事と便利魔法の1日
商人の逞しさにちょっと敵わないと思わされたが、僕は彼らと競ったりする気もないし、多くを望んでいなくて今の生活を少しだけ改善できればそれで良い。
家庭教師が終わるまでは教会の下働きでエリ姉とアリスに負担をかけていたので、今度は僕が教会の仕事を頑張らねばならない。家庭教師で稼いだ金は栄養を補うため。そう、食事の改善と最低限の着替えを買うことに使うと決めていた。
実際、稼いだお金で服を買い足し、食事に使い始めてから体も良く動くようになったのでエリ姉とアリスがやる仕事には率先して加わっていく。
まずは教会の建物掃除から。
教会の建物、敷地、果ては道まで。毎日すべてを掃除する必要はないのだが、それでも面積の広い部分を掃除する日はかなり負担になる。それでだ、教会の建物を掃除している時に楽ができないか考えて試しに魔法を使ってみた。
「
秒で建物が綺麗になってしまった。
「レオ、掃除を手伝いに……あれ?とてもきれいに掃除されてる。す、すごいわね。さっき始めたばかりだったような……」
「エリ姉、もう中は終わったから外のアリスを手伝おう」
「えぇ、そうね」
超スピードで教会内の掃除を終えることができたのでアリスがしている庭掃除を手伝うことにした。振り返ってよくよく見ると絶対に手が届くはずがないのに天井まできれいになっていた。これはほどほどにやらないとバレたらまずいことになる気がする。
「アリス~、手伝いに来たよ~」
「レオ兄、エリ姉、ありがと。じゃぁ、そっちの通路の端から道までね」
「わかった~」
竹箒で掃除を開始。
ふむ、こっちも楽ができないだろうか?どうしても思考はそこに向くので試しに風魔法でゴミを通路の端まで飛ばしてみよう。
「
おお!これは良い!通路に落ちている落ち葉などが端っこの方に一気に寄せられていく。
ば~っと手をかざして走り抜けて一気に左右へ落ち葉や小さいゴミを通路の端に寄せることができたので後は回収して終わりだ。
「レオ兄、もしかして今風の魔法か何か使った?」
「ん?よくわかんないけど風でゴミが端っこに寄ったみたいだから集めて捨てような」
「うん?わかった……」
とりあえずアリスからの質問はテキトーに流しておいた。
次は洗濯だ。洗濯物は一か所に集められていて、タライに入れて手足でゴシゴシと手洗いするのだが、ここでも楽ができないか考えて、まずはエリ姉とアリスに今まで休んでいたから今日は僕が一人で洗濯するので終わって良いと伝えて席を外させる。
集められた洗濯物に、汚れが落とせる石鹸代わりの木の棒で袖口や襟などにこすり付けてから、大量の水を宙にとどめて洗濯物を放り込む。あとは洗濯物が入った水の塊をグルグルと回す。時々反転させては回し、最後は水を霧散させて汚れの落ちた洗濯物を物干しに干すだけだ。
一般的に教会の建物で連想されるのは礼拝堂だと思うが、実際はシスターや神官たちの休憩室や事務室、食堂、トイレなど生活や仕事に必要な部屋が併設されているので一般家庭の比ではないほど掃除、洗濯の量がある。
シスターや神官も確かに下働きはするが彼らの主な仕事は布教活動であり、そうした下働きは僕たちのような「人知れない存在」がしていることが多くを占めているというわけだ。
文句や愚痴を言っても逃れられないし、誰かが代わりにやってくれることもない。ならば自分が出来得ることを効率よく終わらせる。少なくとも今日は上手くできたんじゃないだろうかと思えた。
仕事が一段落したのでエリ姉とアリスの事を少し思い返す。
先日、二人の事をこっそり鑑定してみた。
エリ姉の職業は聖女(仮)、かっこかりってなんだよ?意味わからんと思っていたが要は半人前ってことのように思えた。つまりは成長すれば本当の聖女になるってことだろう。
アリスに至っては大魔法使い(仮)なのだ。ただの魔法使いじゃなく大魔法使いなんだ~って思って見ていたが、よく考えると二人ともトンデモ職業?で、順調に成長すれば人が羨むような人物になるんだろうと思う。
とは言えだ。二人は今のところその事実を知らないし僕が教えることもしないが、何かしらのきっかけで能力を伸ばせるように、それとなくわからせることができないかと考えてはいる。
直接教えると僕がそれを見る能力を持っていることを告げなければならないし、僕のステータス自体が崇め奉られそうなヤバイものであるが故、ここは大人しくしているのが賢明だろうと結論付けた。
一方で、今は僕のステータス表示を隠蔽というか改ざんする魔法を使えたので、万が一他人から鑑定を受けても一般的な子供のステータスの枠に収まっている。職業には商人と神官(仮)と表示しておいた。職業表示は特に意味はなかったけどジョスさんのお店で見せた計算スピードや教会で働いていることから言い訳ができると思ったからだ。
早々に洗濯を終えて孤児院へ戻るとあまりの早さにエリ姉とアリスに驚かれたが、作業はきちんと終えて洗濯物は乾いたころに取り込むだけであることを伝えておく。
孤児院にはつい2か月ほど前まで僕たち3人の他にもう1人孤児が居たのだが騎士爵家の養子として貰われて行っている。レオンの記憶ではその貴族は最初にエリ姉を対象として選んだらしいが、エリ姉本人が何故か難色を示したのではないかと思われた。理由は不明だが。その結果としてもう1人の孤児が貴族の養子となったのだ。
洗濯を終えて自由時間になったので、昼食作りに取り掛かるまで残してあったユーグの教材作りに取り組んだ。100枚の紙束を預かり、これまで渡したのは70枚で残り30枚ある。
文章問題の作成に時間がかかっている。ユーグのレベルに合わせて今は時間と距離の問題を作っているのだが、後日このプリントのレベルについてジョスさんに聞いたところではユーグの通う学校の問題と比べると遥かにレベルの高い問題だと聞いて苦笑してしまった。僕が作った文章問題はこの世界でもあり得そうな旅人算や通過算などの文章問題で日本の小学生が取り組む算数だ。
なにはともあれ、昼食の準備までに10枚の問題を作り、残り20枚は夜に作るので明日の夕方には全て作ることができるので予定していた30000G、金貨3枚を手にすることができるのでエリ姉とアリスに新しい服を買うことができそうだ。
続いて昼食だ。
以前は食事に肉など入っていたことがないのに今は週1回、2回くらいだが、肉の使われている料理が並ぶことがある。ジョスさんの伝手で肉屋さんにもお子さんに合わせた算数の問題プリントを数枚渡したことから週に一度くらいお店で処分するトリミングした余り肉を無償でもらえるようになった。もちろん、まともな肉をお店から買うこともある。
貰える肉は余り肉、くず肉で形が不揃いということもあってミンチにしたり煮込んで柔らかくして調理で美味しくできるのでとても重宝しているし、僕たちの栄養に大きく貢献してくれている。食事はこれで砂糖が簡単に手に入ればもっと充実するのだがまだまだ思った通りには行かないのが現実だ。
本日の昼食当番はアリスだったが僕が手伝い、くず肉をさらに細切れにして入れる「お好み焼き」を作った。山芋を入れるとふわふわした食感になるが手に入らないものはしかたない。ソースは数日前から野菜とジョスさんの伝手で手に入れたスパイスを使って煮込んで作ってある自家製だ。現代日本の物と比べたらお話にならないレベルだが、この世界ではスパイス自体も高くてなかなか庶民が口にすることがないので贅沢な食事と言える。卵も手に入ったので今回はマヨネーズも自作した。
「できたよ~温かいうちに食べて~」
お好み焼きをテーブルに運び、僕が声をかけるとエリ姉もアリスもフォークで切って一口食べ、咀嚼して飲み込むと目を大きく見開いた。
「美味しいぃぃ!レオ兄、これすごく美味しい!」
「本当に美味しいわ。黒いソースも、白いソースも」
「このソースは数日前から試しながら作ったんだ。旨いでしょう?」
「「うん(はい)」」
2人は大喜びでお代わりをした。
こうして皆で一緒に食事をする日がずっと続けばいいなぁと思いつつ、僕も一緒にお好み焼きに舌鼓を打って昼食を終えた。
午後は洗濯物を取り込んで残っていた算数の問題を作り、夕方にジョスさんへ届けて金貨3枚を受け取ったりした。ちなみに夜は残っていたくず肉の細切れを更に細かくしてポテトコロッケに入れた。夕飯も新たな料理に絶賛されるに至りとても充実した1日を過ごすことができた。
魔法で何でもできるかも知れないけど、できないことがあるからこそわかることもあるんだなぁと考えながら眠りについた。
明日も良い日が続くといいなぁ……
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