第2話 二度目の走馬灯でいろいろ思い出す(2)
目が覚めると熱が下がっていた。
今の僕の名前はレオン・シャレット(11)
それにしても
今は獅子賢人だったころの記憶とレオンとして生を受けてからの記憶が入り混じり、不思議な感覚に包まれてるが全てを思い出していた。
僕こと獅子賢人は死んだのだろう。いや、何かしらの病気で確かに死んだ。
病院で走馬灯を見たときにトーガを纏ったユノーと名乗る女神が現れて言っていた「今なら超がつくような、神に準ずる能力を授けてあげるから私の世界に転生して魔王を倒してちょうだい。不自由なく生きられるからいいでしょ?」と。
その時僕はあの軽い感じの言葉にうさん臭さを感じて「あ、そういうの
「ステータス」
目の前に半透明のボードが見え一瞬で体が固くなった。
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レオン・シャレット(11)人族(半神)・男
職業:聖人・町人・商人
体力:66752
魔力:99999
魔法:(全)
特技:器用・畏怖・神威・神気
称号:勇者・大賢者・死を超越した男
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思わず吹いた。
「ぶほっ、げほげほっ」
「レオ、大丈夫?」
義姉エリーヌがガバッと起き上がって不安そうな表情で僕の顔を覗き見てきた。
「エリ姉、大丈夫、大丈夫だから。もう起きるよ」
エリ姉は僕の額に手の平を当てて熱を確かめて安堵の息を吐き出した。
「ふぅ、良かった。とりあえず熱は下がったみたいね。起きたら着替えてご飯にしましょうか。食べられそう?」
「うん。まだアリスが寝ているから静かにね」
義妹アリスに毛布をかけなおして静かにベッドから降りてエリ姉に振り向くと明るい金髪に朝の陽ざしが当たってキラキラと輝いていた。
「大丈夫?ちゃんと歩ける?」
「うん。大丈夫」
僕の前を歩き、やわらかい笑顔で振り向いては声をかけてくれる。しかし僕自身は問題ないと考えて返事をしたけど体は自分の想像以上に衰弱していたようで足取りが少しおぼつかなかく、階段でけつまずきそうになって手すりに抱き着くように一歩ずつ降りた。
(さっき見たステータスには病気や怪我はなかったし足がふらつくなんてあり得ない気がするんだけどどうなってんだろ?)
その答えは食事をしたことで思い出した。
本日の朝食は薄い、とても薄い、超薄い麦粥のみ。
病み上がりだからと思ったが、レオンの記憶ではこれまで食事の事情は良くなかったので明らかな栄養失調だと理解した。能力や
食後はエリ姉に病み上がりで少しつらいと断って今日は部屋で休ませてもらうことにした。
僕たちがいるここは教会の孤児院。
皆、それぞれの事情を抱えてこの孤児院にいる。
僕の場合は没落貴族の五男だったが、なんと口減らしに売られそうになっているところを運よく教会の人に見つかったことで孤児院に入ることになったが、エリ姉とアリスは捨て子だったと聞いた。
それでも命が繋がっているだけ運が良いのかも知れない。かも知れないと言ったのは孤児院で生きていることが貧しくて苦痛だからだ。
きっと裕福であるなら違っていただろうが、町を歩いて同年代の者から見ると僕たちは蔑みの対象であり、平民のランクで言っても下の下、奴隷よりはましというだけでヒエラルキーからすると僕たちの下には奴隷しかいないと言っても過言じゃないからだ。
それでも、教会が営んでいる施設に住んでいて教会の仕事を手伝っていることもあるから正面切って蔑んでくる相手がそうそういないというのが救いでもある。
大人になっても就ける仕事は教会の下働きがいいところで、頑張れば女性ならシスターとして、男性なら神官になれる『可能性』があるくらいだ。教会を離れれば冒険者など身分に左右されない仕事や、何か突出した技能があれば鍛冶屋などのような生産職で自立はできるが、一般的な雇われ仕事に就くときに紹介がないとまともな職に就けないこの世界では孤児院にいること自体が人生詰んでいると言わざるを得ないのだ。
これまでのことを少し整理しておこうとベッドに入ろうとしたが義妹のアリスが毛布を被って大の字で寝ているのでベッドの縁に腰かけて記憶を整理しておくことにした。
エリ姉、本名はエリーヌ・ソワイエクール、明るい金髪が背中まで真っすぐ延びて青い瞳を持ち、スラリとした体形に顔の堀りが深いお人形さんのような顔立ちの12歳。いつも教会の下働きを率先して行う自慢の義姉である。
ベッドで大の字で寝ているのは燃えるような赤髪に赤い瞳の義妹アリス・ラプラス、寒いときにはこうやって僕のベッドにもぐりこんでくるやんちゃで負けず嫌い、そして魔法が少し使える10歳だ。
僕はレオン・シャレット、没落した元男爵家の五男で獅子賢人の記憶を持ち、エリ姉と同じように明るい金髪に青の瞳を持つ11歳男。これまでのレオンの記憶を遡ってわかるのは自我が芽生えたころ、既に親は貴族からは没落して平民になっていたことだ。自分が売られそうになっていたことすらわからず、たまたま教会の人に保護されて国の法律によって親から離されて3年ほど経過して今に至る。
保護された僕は当時いた町とは全く別なこの町の孤児院へと移されて生活を始めたが、3年も経てば子供とは言え孤児院と社会の関係性というか、そういったことをなんとなく理解して自分が置かれた状況や立場を把握することができていた。
簡単に言えば、孤児院で過ごしている子供たちの将来は概ね3つの選択肢になる。
1つ目は養子縁組、孤児院には子供ができない夫婦などが子供を貰い受けに来る。運が良ければ貴族や立派な商家などそれなりの家に貰われて行き、優雅な生活さえ送れることもあるという孤児院児の憧れ。富裕貴族の義務の一つとして養子縁組が
2つ目は先に述べていた通り、自立して冒険者や生産職になることだが、生産職には突出した何かがないと難しく、冒険者は年齢以外の資格がないので誰でもなれる。
3つ目が今の生活からスライド式に教会で神官やシスターを目指して働き続けることだが、鑑定結果で聖職の称号がなければ基本的に高位職にはなれることはない。
この世界で安定して生計が立てられる、どこかの国の王城で働くとか官吏や衛兵、つまりは公務員のようになることは宝くじに当たるようなもので、ほぼ叶わないのが孤児院児ということだ。ポジティブな人なら前例がないなら自分がそうなれば良いとか言いそうだがそんなワケあるか!この世界で後ろ盾がないヤツがそうそう上手くできることはない。
レオンの記憶からも今の僕たちの立ち位置は奴隷よりは上だが普通の人間より遥かに下なのだと思い知らされた。それに、あの
「う、うん、、、、レオ兄ぃ…熱下がったの?」
記憶の整理が進み、少しすさんだ気持ちになり始めたころに
「アリス、おはよ。熱は下がったからもう大丈夫だよ。起きて朝ごはんに行ってきな」
「おはよう。うん、わかった。すごく心配したんだよ。そのまま死んじゃうんじゃないかって心配したんだよ」
アリスと話して気付いたが、この身体を持つレオン・シャレットは死んで僕、獅子賢人が入れ替わったのかも知れない。レオンが持っているこれまでの記憶はハッキリわかるが意識、人格は賢人のものだ。
考え込みそうになった意識を戻し、アリスが瞳を潤ませて抱き着いて言葉を紡いだのにゆっくりと答えた。
「心配させてごめんな。もう熱は下がったから大丈夫。また元気に頑張るよ」
「うん、わかった。本当に良かったよ」
すごく心配させたようで申し訳なさと心配される嬉しさを感じながらアリスの真っ赤な髪を軽くなでて起きるよう促す。
アリスはシュパッと音がしそうな動きで飛び起きて自分の部屋へ駆けて行った。
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